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第4話

私は毎日中庭へ行き軟膏を塗ってもらっている。虐待がばれるとまずいと思ったのか、今は洗濯ものは使用人さんが洗ってくれている。なので、私の手荒れも快方に向かっている。代わりに使用人さんの手が荒れるので一概に喜んでいいのかわからないが。私は毎日中庭に行くが、リリアンも毎日ついてくる。一応キミバラのイベントを起こそうと頑張っているようだが、半分も起こせていないみたいだった。イベントにも種類があって偶発的に事故のように起こるイベントもあれば攻略対象が(親密になりたい、悪戯心など)意図して起こすイベントもある。リリアンが起こせているイベントは、攻略対象の意思が絡まない、事故のように起こるイベントだけだ。よってリリアンは日々苛々を募らせている。私に当たり散らすこともしょっちゅうである。使用人さんたちもびくびくしてあまりリリアンに近づかないようにしている。必要なことだけ済ましてささっと視界から消えるようにしているようだ。段々そういう忍びのプロっぽくなってきている。


「ねえ、フェリシア嬢。今度一緒に薔薇の博覧会に行かない?」


アレクシス様に声を掛けられた。


「ずりーぞ、アレク。フェリシア嬢。俺とも行こうぜ?」


ルーク様にも誘われる。


「ええっと…」

「ねっ。おねがい…」


アレクシス様が拝むように頼みこむ。


「フェリシア嬢と一緒に行きたいんだ。」

「わ、私、アレクシス様と薔薇の博覧会に行きたいですっ!」


しゅたっとリリアンが割り込む。


「もし、フェリシア嬢が一緒に行ってくれるというのなら、別の日にリリアン嬢とも行っても良い。」


なんて条件出すんじゃー!!リリアンは少し迷ったようだが、「お姉様、行ってきたら?私もアレクシス様とお出かけしたいし。」と言ってきた。これで「私はアレクシス様と薔薇の博覧会に行かない!」「そう?じゃあ、リリアン嬢とも行かないことにするよ。」ってなったらものすごくリリアンに恨まれるじゃないか。くううう。リリアンとアレクシス様の親密度が上がると思うと、断りたいけど!断れないシチュエーション!!


「わかりました。ではアレクシス様と薔薇の博覧会へ行きます。」

「俺とも行こうぜ。アレクとだけじゃずりーぜ。」


うーん…


「ルーク様はリリアンとも薔薇の博覧会に行かれるのですか?」

「いや、リリアンとは行かねえぜ?」

「では、私がルーク様の特別な女性だと皆様に誤解されたくないのでルーク様とは出かけられません。」


これが正答だと思う。


「いや、俺の特別な女性はフェリシア嬢なんだが…」

「なおのこと一緒にはいけませんね。他の女生徒に嫉妬の炎で焼かれてしまいます。」


この男性陣の中では伯爵家と一番身分は低いが、何しろ逞しいイケメンだ。見た目に惚れてる女生徒も沢山いる。性格だって悪くないし。


「じゃあ、リリアン嬢とも一緒に行くよ。俺の特別は変わらないが。」

「それは聞かなかったことに致します。一緒に行っても良いですよ。」


こうしてお出かけが決まった。



***

まずはルーク様とのお出かけだ。先に約束したのはアレクシス様だが、日程の調整でそうなった。貴族の外出着にしてはずいぶんみすぼらしいと思うが、一張羅を着ていく。淡いピンクのドレスとワンピースの中間くらいのデザインのものだ。ゲームでのルーク様の趣味は可愛らしい感じだったからこれで良いと思う。ルーク様は待ち合わせ場所についた私を見た途端、茫然自失で「可憐だ…」と呟いた。気に入ってもらえたようでなにより。


「で、では行くか。」


ルーク様の乗ってきた馬車に同乗し、薔薇の博覧会の会場まで行った。馬車の中でルーク様は少し緊張なさっているようだった。


「ルーク様はずっと体を鍛えてこられたんですか?」

「あ、ああ。そうだ。3つの頃から細い木刀を振り回してな。自分では鍛錬しているつもりだったんだが親からして見れば遊んでいるように見えただろうな。」


アレクもずっと鍛錬していたから今頃逞しくなっているだろうか。でも幼い時にあまり筋肉をつけ過ぎると身長が伸びないって聞いたような…ルーク様はすごく背も高いし、間違ってるかもしれないけど。


「ずっと父上から稽古をつけてもらっていたが、最近はアレクたちともよく稽古をする。」

「アレクシス様…ですか。」

「アレクはあどけなく見えるかもしれないが、あれでいて結構強いぞ?脱ぐとみっしり肉が付いているし。今は年齢差があるから俺の方が強いが、あのまま鍛錬を積んでお互い20にもなればどうなるかわからん。パトリック様は剣はあまりお得意ではないようだ。健康維持のための運動として多少嗜まれている。ヴィクター様はお強い。見ての通り身体つきもしっかりされているし、剣筋が鋭い。王子などされているのがもったいないくらいの逸材だ。本職の騎士ではないから俺の方が強いが、あの方が本気で剣を学ばれ、剣一筋に生きれば俺に勝るとも劣らないだろう。セオドアは何と言うか…察してくれ。」


セオドア様…おもろいな。アレクシス様とヴィクター様は脱いでもすごいんだぜ軍勢らしい。乙女の心、鷲掴みですな。流石乙女ゲームキャラ。


「フェリシア嬢も剣に興味があるのか?」

「いえ。あまり。ただ凛々しい体つきは素敵だなと思います。」

「そ、そうか。」


ルーク様は目に見えてうきうきしている。体つきに自信があるということだろう。私もじっくり拝んでみたいものだが、それをやったら変態だ。イエスマッスル!ノールック!


「フェリシア嬢は幼いころからやっていることなどあるのか?」

「刺繍、レース編み、裁縫、編み物、料理は5歳の頃からやっております。」

「へえ。すげーな。何か今作品をお持ちか?」

「これは私が刺繍したハンカチです。」


細かな花に埋もれた蔦と花の絡まった丸いケージと、そこから飛びたつ青い鳥を私のイニシャルと上手に絡めた構図の刺繍が施してある。花にも鳥にも細部を緻密にこだわりぬいた刺繍だ。


「おお。すごいな!」


でしょう?力作なんですから。


「ありがとうございます。」


無駄な謙遜はしない。実際売り物に出来る出来だと思うし。


「へえ。良いなあ…」


ルーク様はじっくりハンカチを鑑賞しているようだ。ちょっと羨ましげな響きがある。そう言えば初対面の時刺繍したハンカチくれって言ってたな。刺繍したハンカチとくれば思い出すのはアレクの事。アレクは「僕の事は忘れて。」って言ってたけど忘れられるわけないよ。最後に形の残るものを渡せてよかった。でもあれから6年だもんな。もうハンカチなんて捨てちゃってるかも。アレクの横には新しいガールフレンドがいてさ、その子の髪に花を飾ったり、刺繍したハンカチを貰ったりしてるのかも。

なんてやってる間に薔薇の博覧会の会場についた。

随分と人が多い。


「片っ端から見てこうぜ!」


ルーク様と薔薇を見た。ルーク様は「薔薇は綺麗だが違いがよくわからん」と言っていた。博覧会の開催者が聞いたら泣くぞ。


「これなんてフェリシア嬢に似合いそうだよなあ。」


可愛らしいベビーピンクの薔薇を差す。ルーク様の中で私の印象ってそんな感じなんだ?すごい可愛らしいけど。今日来ているワンピースの色にも少し似ている。


「お。青い薔薇だって。」


それは青と言うよりは白に薄い紫がかかったような薔薇だった。なんちゃらの薔薇の人だね。


「青と言うよりは薄い紫ですね。それでも十分すごいですけど。」


真っ青な薔薇は出来ないもんかね。


「俺は他の色の方が好きだな。フェリシア嬢だったら俺にどんな薔薇を贈ってくれる?」

「うーん。これとか?」


薄いオレンジの薔薇を差す。ルーク様の快活なイメージに合ってると思うんだけど。


「へえ。綺麗だな。」


ルーク様は気に入ったようだった。


「緑の薔薇なんてありますよ。なんだか野菜みたいですね。」

「俺は肉の方がいい…」


私の感想もどうかと思うけどルーク様の感想もどうだろう。

たっぷりと薔薇の博覧会を楽しんだ。


「フェリシア嬢。薔薇の花を練りこんだサブレがある。試食してみよう。」


試食すると、ほのかに薔薇の香りがするサクサクのサブレだった。


「このサブレはお土産物の一番人気なんですよ。」


店のお兄さんが笑って言った。


「とても美味しいです。良い香りがしました。」

「でしょう?」

「ああ、うまいな。」


ルーク様も同意する。ルーク様は家族の分と自分の分のサブレを買い、私の分もサブレも買ってくれた。


「大したもんじゃないが、プレゼントだ。」

「ありがとうございます。では、私はこれをプレゼントします。」


ルーク様に薔薇のジャムをプレゼントした。


「ありがとな!」


ルーク様はとても喜んでくれた。それからルーク様の馬車で送られて帰った。


「実は『花なんて見て楽しいのかよ?』と思ってたけど、結構楽しかったな。やっぱりフェリシア嬢とのデートだからかな?」

「さあ?きっとリリアンと見ても楽しめると思いますけどね。」


リリアンはきっとルーク様の『実は弟にコンプレックスを抱いている』という悩みを解決しにかかると思う。ルーク様があっさり落ちないか心配だ。なにしろ単純な方だから。


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