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第3話

リリアンはうきうきと何度も鏡を見て髪形を整えていた。本当についてくるつもりらしい。私は昼休みに中庭へ行った。リリアンもついてくる。約束をしていた中庭にある四阿にはすでにアレクシス様が来ていた。ルーク様もいるが、なぜかパトリック様とセオドア様とヴィクター様もいらっしゃった。

パトリック様は本名をパトリック・エンデルタと言う。エンデルタ王国第三王子。17歳。金髪碧眼の色白で優しげな顔立ちをした、絵に描いたような王子様である。性格も温厚で朗らか。社交的で明るい。

セオドア様はセオドア・ショークロア。宰相子息。16歳。長い銀髪に菫色の瞳。知的で中性的な顔をなさっている。無表情でめったに表情が動くことがない。性格は冷静沈着。成績は常にトップである。因みにショークロア家の爵位は侯爵である。

ヴィクター様はヴィクター・パロイ。パロイ国第二王子。17歳。黒髪に黒い瞳。肌も浅黒く、エキゾチックな顔立ちの王子である。体つきはどこか野性的で色っぽい。性格は情熱的だ。パトリック様とお会いしたらお互い良い刺激になるだろうという国の意向で留学中だ。成績はパトリック様と上位争いをしている。

因みにアレクシス様は14歳の学年のトップだ。ルーク様は勉学の成績はあまりよろしくないようだが。

なぜこのメンツでここに?


「やあ、君がフェリシア嬢かい?アレクとルークが骨抜きになった女性がいるというからみんなで見に来たんだ。」


パトリック様が寝言を言っている。


「知ってるかもしれないけれど僕はパトリック・エンデルタ。よろしくね。」

「私はセオドア・ショークロア。」

「俺はヴィクター・パロイ。よろしく。」


ヴィクター様がウィンクしてくる。


「私はフェ…「私はリリアン・カロンですっ!よろしくお願いしますっ!」」


リリアンが庶民派元気っ子を装う。みんなが目を丸くしている。


「フェリシア嬢、こちらへ。指に軟膏を塗ってあげるよ。」


アレクシス様がにこりと微笑んだ。アレクシス様の差した椅子に腰掛ける。


「手を出して。」


言われるままに手を出す。アレクシス様が軟膏を塗り始めた。


「フェリシア嬢はずいぶんと手が荒れているのだね。カロン男爵家では使用人が足りていないのかな?」


パトリック様が疑問を口に出す。


「こっちのリリアン嬢の手は全然荒れてないのにか?」


ヴィクター様が眉を顰める。


「虐待……ですか。」


セオドア様が結論付ける。リリアンは激しく狼狽した。


「ち、違うんです!フェリシアのいつもの手なんです。虐待されているふりをして周りの注意を引きたがる…」

「君は姉の事を呼び捨てにしているのかい?」


パトリック様が目を丸くした。


「そ、それはつい…」


リリアンがへどもどする。


「あ、ねえ!パトリック様、クッキーを焼いてきたの。召し上がってくださらない?」


リリアンが可愛くラッピングされた箱から型で抜いてあるクッキーを見せた。

焼いたのは厨房の料理人だけどな。リリアンは基本、料理をしないから。しないだけなのか出来ないのかは知らないが。

パトリック様たちは顔を見合わせた。


「では私が先にお毒見させていただきます。」


セオドア様が言って一つ摘まんで食べた。


「とても美味しいです。リリアン嬢はお料理がお上手ですね。」


無表情で感想を述べる。


「えへへっ。私庶子の出だからお母さんのお手伝いとか沢山してて…」


パトリック様も一つ摘まんで食べる。


「本当だ。美味しい!…以前から思っていたのですが、こう言ったクッキーに入っている、黒くて小さな粒粒は何なのでしょう?」


パトリック様がリリアンに質問を投げかける。


「え!?うーんと…紅茶の葉かな?」

「紅茶?紅茶の風味はしないが…」


ヴィクター様も頭を捻っている。


「アレクはどう思う?」

「バニラの種子じゃない?」


ルーク様に聞かれてアレクシス様が答える。


「バニラ?」

「そういうお菓子を食べるとき、いつもちょっと甘い風味がしてない?バニラは植物。種子鞘を発酵、乾燥を繰り返すことにより独特の甘い香りがするようになるんだ。」

「へえ。」


自分でクッキーを作ったわけではないともろわかりなリリアンの面目は丸つぶれだが、みんなぱくぱくクッキーを摘まんでいる。アレクシス様は丁寧に私の指に軟膏を塗りこんでハンドマッサージまでしてくれた。


「手、気持ちいい?」

「はい、とても…」


軟膏は少し薬草の匂いがするけれど、嫌いな匂いじゃない。きっと嫌な匂いにならないようにブレンドしてあるんだと思う。手もよーく揉み解されてぽかぽかするし、すごく気持ちいい。


「アレクは堂々と手に触れていいよな。明日から俺と交代制にしねーか?」

「やめてよね。フェリシア嬢の繊細な手を捻りつぶすつもりなの?」

「バッカ。俺だって力加減くらいできるっつーの。」


ルーク様とアレクシス様が言いあう。


「ル、ルーク様、それなら私の手に…」


リリアンがもじもじ言い出した。


「いや、俺はフェリシア嬢の手に触りたいんだけど。大体お前手すべすべじゃん。生まれてこの方水仕事なんてしたことありません!って感じ?」


ルーク様にあっさり拒否される。と言うか多分リリアンは生れてこの方水仕事なんてしたことないと思う。全部お父様が雇った使用人にやらせてたんだと思われる。

アレクシス様が私の手をしげしげと見つめる。


「手…小さいんだね。」

「……。」


これはイベントのセリフでは?イベントでは不意に触れ合ってしまったリリアンの手を見つめて言うセリフだったと思う。リリアンは「そっかな?」とか言いながら自分の手を見るんだ。私はやらないけど、どう反応していいかわからなくて戸惑う。アレクシス様のイベントは続行中だ。少し色を含んだ瞳が私の手を見つめる。


「小さくて頼りなくて…こうして掴んだら…逃げられない。」


ぐいっと手を引かれる。アレクシス様の胸の中に着地する。


「もう、放してあげないよ?」


くすっと耳元に色っぽく囁かれる。ミミガー!!ミミガー!!


「あああああああああああああ!!!!!!」


リリアンが大声で叫んだのでびくっとしてしまった。アレクシス様なんて思わず私を抱きしめてるし。


「ど、どうした?」


ヴィクター様がリリアンに尋ねる。


「イベント、ヒロイン、乗っ取り…」


わなわなと震えながら私にだけ意味のわかる呪文を唱えている。別にヒロイン乗っ取るつもりなんてないですけど。きっ!とリリアンに睨まれた。怨念の籠ってそうな眼差しだ。周囲の男性陣もその視線に気付く。


「おお、こわ!フェリシア嬢、今日家に帰ったらリリアン嬢に辛く当られない?」


腕の中から私を解放しつつアレクシス様が聞く。


「なに!?リリアン嬢はフェリシア嬢を苛めるつもりなのか!?」


ルーク様がリリアンを睨みつける。


「や、やだなあ。そんなわけないじゃないですか…」


リリアンがひくひく顔をひきつらせながら言う。あれは苛めるつもりだったな。先に牽制されて顔が引きつっているとみた。


「あ、そうだ、パトリック様。今度薔薇の博覧会があるって知ってますか?」


リリアンが話題の変更を試みた。


「勿論だよ。選りすぐりの品種が3千種集められるそうだね。」


パトリック様が相槌を打つ。


「フェリシア嬢にはなにかピンクの薔薇が似合いそうだよな。可愛いしさ。」


ルーク様が言う。


「薔薇の女王のような深紅の薔薇の方が似合うんじゃないか?」


ヴィクター様が言う。


「白だよ。深いワインレッドの髪に掻き消えるようなピンクじゃなくて、かち合うような赤でもなくて、ましてや黄色でもなくて。生花なら白が一番美しい対比を描く。」


アレクシス様が愛おしげに私の髪を撫でる。その仕草にドキドキしてしまう。14歳なのに!地球で言うなら中坊なのに!!無駄にときめかせないで!!……しかもアレクと同じチョイスだし。


「耳や首や手首を飾るアクセサリーならピンクを推すけどね。ルークが言うように可愛いから。」


ちゅっと手首にキスされた。うう…なぜそんなナチュラルにキスとかしてくんの?


「わ、私にはどんな薔薇が似合いますかっ?」


リリアンが聞いてきた。


「黄色?」


黄色の薔薇かあ…まあ綺麗だよね。黄色の薔薇の花言葉って「友情」とか「友愛」もあるけど「嫉妬」とか「不貞」とかあんま前向きなイメージがないかな。恋人にはあまり贈られたくない花だ。


「薔薇より水仙の方が似合うんじゃない?」


水仙も綺麗だけど花言葉は「うぬぼれ」「自己愛」とかだよねー。って言うかみんな絶対分かってて言ってるよね?ルーク様はわかってなさそうだけど。リリアンの不評ぶりに笑うしかない。攻略キャラ全員リリアンラブで国家転覆したらどうしようと心配していたのは杞憂だったらしい。


「えー。そっかなあ。でもやっぱり女の子は真っ赤な薔薇とか贈られてみたいですよお。」

「フェリシア嬢も真っ赤な薔薇とかの方が良かった?」


アレクシス様が聞く。


「いえ…」

「ていうか。アレク、お前いつまで手を握ってるつもりなんだよ!」


ルーク様がアレクシス様に怒り始めた。


「そうだね。手を握ったままじゃお弁当が食べられないか。」


アレクシス様が私の手を離してくれた。各自持ち寄ったお弁当を開ける。ルーク様のお弁当はメニューが見事に肉まみれでちょっと笑ってしまった。それはそれで割と美味しそうだし。

私はサンドイッチをもぐもぐ食べ始める。流石に私もリリアンも同じメニューである。ここでメニューに差をつけてたらみんなに何事!?と思われるだろうしね。家では使用人さんたちと賄い飯を食べている。賄いだと馬鹿にするなかれ。結構美味しいんだぞ。一応男爵家だから良い食材使ってるし。

んむ?よく見たらパトリック様の食べてるのってライスコロッケじゃない?お米!?うわっ、良いなあ…


「ふふっ。はい、あーん。」


パトリック様がピンポン玉サイズのライスコロッケを半分に切って差し出してきた。

!!!?


「あれ?食べたかったんじゃないの?美味しいよ?」


ってそれイベントだからあ!!!


「結構です!」


ここで「食べる」を選択すると「代わりに『君』を食べさせて?」と頬にキスされるイベントだ。私は他の高位貴族女子を敵に回してまでパトリック様とそんな命がけのイベントはこなしたくない。そんなことしたら絶対苛められるし!ゲームでのリリアンは苛められてたし!


「パトリック様!私、食べてみたいです!!」

「ああ、そう?」


パトリック様は半分に切ったライスコロッケをリリアンのお弁当箱の蓋に乗せた。「あーん」が無いのでリリアンはちょっとがっかりしつつ「おいひい!」とライスコロッケを食べて、「代わりに『君』を食べさせて?」を待った。しかしパトリック様は一向に「代わりに『君』を食べさせて?」を発動しなかった。


「か、代わりに私を食べても良いんですよ?」


変則的!!


「…それはちょっと…予想外だったかな。」


パトリック様も吃驚している。


「ある意味突き抜けた面白さがあるよな。」


ヴィクター様が感心する。


「そんなあ、照れますぅ。」


エヘヘとリリアンが照れているがヴィクター様が仰りたかった内容は「(図々しいのもそこまで行けば)ある意味突き抜けた面白さがあるよな。」だと思われる。

昼食を無事に取り終わり、各自の教室に戻る。

「明日もここで待ってるから。」とアレクシス様には言われた。



***

「あんた、なんなの…?」


家に帰ったらリリアンに険しい顔で問い詰められた。


「なんなの、とは?」

「アレクシス様とイベント起こしてたじゃない!あれ『私が』やるはずのイベントだったのよ!?横取りして!この、泥棒猫!!」


泥棒猫、とか言う人いるんだ…吃驚だ。


「イベントとは…?」

「なによ、あんたもゲームの事知ってるんじゃないの?」

「ゲーム?」


知ってるけど知らないふり。


「……なによ。ただの偶然だって言うの?もう冗談やめてよね。折角キミバラの世界を楽しんでるって言うのに。パトリック様もヴィクター様もセオドア様もルーク様もアレクシス様もみぃんな私の物なの!手出ししないで頂戴。」


パシッと扇子で頬を打たれた。


「嫌な子。血みたいな真っ赤な髪しちゃって。気持ち悪い。」


ルーク様も赤毛だけどな。


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