第17話
パトリック様たちは昼食をパトリック様のサロンで取るようになった。勿論リリアンは立ち入り禁止。私はアレク共々お招きされている。そしてカチュア様、マリエル様、エルザ様も招かれている。男性陣はルーク様が欠けた4人である。ルーク様はアンナ様と一緒に中庭で昼食を取っているらしい。
「なんだい?アレク。なんだか美味しそうなものを食べているようだけど。」
アレク様の昼食はカツサンドだった。パトリック様が目ざとく見つけた。
「香辛料の香りがします。」
セオドア様が指摘した。
「これはカツサンドと言う食べ物だよ。とても美味しい。」
「へえ。いいな。僕のライスコロッケ二つとひときれ交換してくれないかい?」
パトリック様は相変わらずライスコロッケがお気に入りだ。
「まあ、いいけど。」
「ずるいぞ。俺のオムレツとも交換してくれ。」
ヴィクター様のオムレツはスパニッシュオムレツのような、中にジャガイモと玉ねぎがたっぷり入ったものだった。
「私も!このハムサンドと交換して!」
食べることが大好きなエルザ様も交換を要請していた。セオドア様は要請しなかった。なぜならアレクのお弁当箱に入っているカツサンドはあと3切れしかなかったからだ。
みんなそれぞれ交換してもらって「おいしい!」「なにこれ!?」と感嘆と驚きを露わにしていた。特にエルザ様が追求に熱心でこのカツと言うのはどうやって作っているのか、とかソースはどうやって作って、何が入っているのかとか聞いていた。ソースの方はアレクはよくわからないと答えていたが、しまいには「クラッツ公爵家の料理人に聞きに行く!」とまで言い出してアレクに視線でどうするか聞かれた。もうリリアンはいないしバラしても良いか。
「えっと…このソース、作ったのは私なの。このカツサンドを作ったのはアレクの家の料理人だけど、初めにカツを作り始めたのも私。」
「ユリア様が!?すごい!私の家の料理人にも作り方を教えてくださらない?」
「ユリア嬢、城の料理人にも是非教えてほしいのだけど。僕もまたこのカツと言うのが食べたいんだ。」
「それならうちの料理人にも教えてくれ。俺だってもっと食べたい。」
うーむ…トンカツ大人気。
「ではまとめて一度に教えてしまいましょう。日にちは休みの日にするとして、場所はどうしますか?」
「王宮の厨房でも良いかい?」
「構いませんよ。」
「用意した方が良い材料なんかも教えてほしいな。」
「後ほどメモをしてお渡しします。」
パトリック様とヴィクター様とエルザ様にお約束しておいた。あー…またソース作りか。まあ私も家で使うソースが欲しかったし丁度良いか。
***
休みの日王宮へ行って料理人たちにソース作りを教えた。そしてついでに禁断の食べ物。マヨネーズとタルタルソースの作り方も教えてしまった。トンカツと海老フライを作ったのだ。海老フライにタルタルソースは反則的に美味しい。ウスターソース味も美味しいけど。海老フライは下処理がとても面倒くさいが美味しいので好きだ。みんなあっという間にマヨネーズの虜になった。野菜をつけて食べてもとても美味しいのだ。ウスターソース作りもマヨネーズ作りもタルタルソース作りも、カツ作りも海老フライ作りも、真剣にメモを取って覚えていた。当然アレクの家でも海老フライとタルタルソースをご披露した。コンラッド様が「腹八分と言うものがこんなにつらいと思わなかった…」と嘆いていた。いっぱい海老が食べたかったらしい。健康のために腹八分でお願いします。
***
そんな感じで楽しく毎日を過ごしているとリリアンが廊下で絡んできた。
「この雌豚!○○○!いつアレクシス様と別れるのよ!あんたもうあの豚親父の愛人なのよ?分を弁えなさいよ!」
「ごきげんよう。リリアン様。豚親父とはどなたの事でしょう?」
「あんたの伴侶の事よ!」
「アレクのことですか?」
とぼけるとリリアンが真っ赤になって怒った。
「そんなわけないでしょう!あんたの伴侶はトニー・アスターでしょう!」
「それは父ですが?」
「お父様が言ってたもの、あの豚はあんたを妾にするために引き取ったって。」
「意味のわからないことを仰いますね。妾にするつもりなら養女になどするはずがないじゃないですか。外聞の悪い。」
リリアンが驚愕の表情を浮かべた。
「あんた…まさかあの豚と寝てないの?」
「寝る…とは?」
私がとぼけるとリリアンが盛大な呪詛の叫びをあげた。「騙された!」「金も払わない最低最悪の豚!」と罵っている。周りにいた生徒はその様子をぽかんと見つめている。もうリリアンの性格の歪みが矯正不可能なことは誰が見ても明らかだ。噂によるとリリアンをお茶会に招く令嬢はぐっと減っているらしい。さもありなん。リリアンはこうして私に嫌みは言うものの既に逆ハーレムルートは諦めてパトリック様一本に絞っている。必死にパトリック様に媚を売ってイベントを起こそうと躍起になっているが、相変わらずイベントは起きない。もう諦めたら?と言いたい。