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第16話

間に合わない…1時間余裕持ったつもりだったのに…

私とアレクはそれはもう他人のつけいる隙のないほどべったりになった。黙ってられないのがリリアンだ。「フェリシアが、私が良いと思っていた男の子を寝取った!」と両親に泣きついた。まだ寝てません。まあ両親にとってそんなの関係なくて彼らにとっての重大事項は「フェリシアに自分の娘が危害を加えられた。」と言うことなのだ。早急に私を余所に片付けたがった。金持ちの爺の妾なんかに押し込もうと画策したわけだ。そこにアスター伯爵家から「フェリシアをうちの養女に」という申し入れがあった。「儂の妾にと思っているんだが、妻の事もあるし世間体がな…わかるだろ?」っと下種な顔で微笑んで養子縁組を申し入れたらしい。アスター伯爵は良く肥えた極道系の顔をした強面のおっさんで一回り若い奥さんを貰っている。肥えた身体と低い鼻にたらこ唇で、若いお嬢さん方からは蛇蝎のごとく嫌われているが、子豚のようにつぶらな目をしていて、私は案外嫌いじゃない。だからと言って妾になることに賛同できるかと言われれば無理だが…アレクに相談したら「散々嫌がって泣きながら養子縁組されてほしい。」と言われたので、散々嫌がって泣いた。アレクの家から「フェリシアを嫁に」という申し出もあったようだがそちらには「フェリシアではなく、リリアンをいかがですかな?あれは実に良い娘で…」とやったらしい。アスター伯爵家は伯爵家の中でもとりわけ裕福で、私を養子に出せば支援も期待できる。フェリシアの事も傷めつけられるし一石二鳥!と私は無理矢理アスター家に養子縁組された。

アスター家で待っていたのは優しい、お父様とお母様だった。


「こんな不細工な父は嫌だろうが、何かあったら実父のように頼ってくれて良いのだからね。」


子豚のようにつぶらな瞳を輝かせたお父様が頼もしく胸を叩いた。お父様は名をトニー・アスターと言い、薄茶の髪に黒い瞳をした中年男である。容姿は先に説明したとおり、全体的に強面、小さくてつぶらな瞳に低い鼻、たらこ唇によく肥えた身体をしている。


「私の事はお母様と呼んでくださいな。ユリアちゃんも来年にはお姉さんですよ。」


と少し膨らんだお腹でお母様が言った。お母様は名をセシル・アスターと言い、25歳くらい。黒髪に、緑の瞳をした可愛らしい女性だ。小柄でほっそりとしていて、お父様と並ぶとまるで「借金の形に取られてきた」感じに見えるが、実は恋愛結婚らしい。

二人とも私をとても歓迎してくれているようだ。

私がこの家でまずしたことは改名だった。フェリシアからユリアに戻った。学校側とか、知り合いは困惑するだろうけど「ユリア」は前世から持ってる名前だしやっぱり愛着がある。届け出も無事受理されて私はユリア・アスター伯爵令嬢になった。アレクが勧めるのも尤もでお父様は私を妾になんて欠片も考えていない健全な男性だった。しかも妻を溺愛気味。ただ自分の人に好かれない見た目や露悪的なイメージを上手に利用する人だった。


「どうして私を引き取ってくれたんですか?」


私が聞くと二人はニコニコ笑って手招きした。私はお母様のお部屋に入った。そこには一枚の絵が掛けてあった。16歳ぐらいの若い女性と6歳くらいのちいちゃな女の子が一緒に描かれている絵だった。私は驚いた。16歳くらいの女性が私そのものの姿をしていたからだ。ワインレッドの髪も瞳の色合いもそっくりだ。一瞬私を描いたものなのだろうかと思ったが、絵に右下に19年前の日付と画家のサインが入っている。


「これは…?」

「セシルとセシルのお姉さんのキャロルだよ。」


お父様が答えてくれる。


「私と姉は貧乏侯爵家の侯爵令嬢でした。姉は17年前とある侯爵家に嫁入りして翌年子を儲けたのですが、生まれたばかりの子供が盗まれたのです。」

「それって…」

「その子がユリアちゃんだっていう証拠は何もありません。他人の空似かもしれません。それでも実際のユリアちゃんを見たらとてもとても他人だなんて思えなかったのです。だって姉さんの生き写しなのですもの。顔かたちも髪も目も姉さんそっくり。」

「キャロルさんは今は?」

「姉は子を盗まれたショックで病床につきました。翌年あえなく…」

「そうですか…」

「月光祭に運営のお手伝いに行ったら偶然ユリアちゃんを見つけてとても驚きました。それからどこのご令嬢か調べて暮らし向きを探ったのです。そうしたら孤児出身で家ではかなり冷遇されてるって言うじゃありませんか。もう居ても立ってもいられなくて『何とかして!』って旦那様に泣きついたのです。」

「私はセシルに頼まれて君の事を詳しく調べたのだよ。リリアン嬢との確執や交友関係、リリアン嬢の思惑、ユリアちゃんの恋愛状況なんかをね。そうしたらクラッツ公爵家のアレクシス様と熱愛中でクラッツ家はユリアちゃんを嫁にしたいが、カロン家ではおとなしくユリアちゃんを嫁には出さないだろうってことがわかったのさ。そこでクラッツ家と共謀してユリアちゃんを保護することにしたのだよ。ユリアちゃんは養女にしたけどアスター家からカロン家へはお金は流れないよ。」


それはカロン家からしたらかなり手ひどい裏切りだろうな。お金が入る!と大分期待していただろうから。カロン家は裕福でもないくせに家族そろって浪費家だから家計がかなり苦しかったんだよね。まあタダ同然で手に入れた娘で儲けようとしても無駄だってことだ。


「これからよろしくね、ユリアちゃん。」


新しいお父様とお母様は優しく微笑んだ。


「はい!お父様、お母様!」


私も微笑み返した。


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