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第15話

今日は月光祭当日。パーティーは王宮でだが、その前にクラッツ家でメイクアップである。

マダム・アデレイドが用意してくれたのはミントグリーンのエンパイアドレスだ。胸下は深いエメラルドグリーンのリボンで締められている。胸元と両サイドから後ろにかけては淡い、透けるようなミントグリーンの生地がひらひらとなだらかに流れている。それ以外の胸下から裾にかけてはミントグリーンの生地の上に白い緻密な刺繍が施された生地が張ってある。見るからに優美である。一見してワインレッドの髪に負けそうだが、そこは使用人さんの腕の見せ所。ワインレッドの髪は複雑に編みこまれ、結いあげられ、白い薔薇の造花が飾られてバランスがとられている。首元にはコンクシェルの薔薇が連なり間にペリドットを挟んだ首飾りが飾られ、耳には同じコンクシェルの薔薇のイヤリング。美しくありながら妖精のように可愛らしいロマンチックな出で立ちだ。

顔も綺麗にメイクアップされ、耳の後ろにローズ・オットーの練り香水をつけている。

アレクシス様は私を見た途端棒立ちで茫然としていた。

私もアレクシス様を見た途端同じ状態になったけど。

アレクシス様は黒のタキシード姿だった。薄いグレーの立襟のシャツに私の胸下を締めている深いエメラルドグリーンのリボンと共布で出来たアスコットタイとポケットチーフをしている。そして私が贈ったシルバーの薔薇のラペルピンをお洒落に刺している。見る人が見れば一発でお揃いとわかるファッションである。

そしてその姿が、

物凄く格好いいのである。

嘘やああああああ!!反則やろおおおお!なんでそんなに様になってるの!?格好良すぎるしいいいいいい!!中坊のくせに!中坊のくせに!!


「アレクったら、フェリシアちゃんに見惚れちゃって。」


クラリッサ様がからかってきて私たちは再起動した。


「あ…う…」


いつもだったら称賛してくれるアレクシス様が赤くなって視線をずらした。

きゅん。

こ、こんなところで中坊くささを発揮しないでよおおおおおおおお!!不覚にときめいた胸をどうしてくれるうううううううう!!


「そ、その。アレクシス様、素敵です…。」


勇気を出して自分から褒めてみた。


「フェリシア嬢も、か、かわいいよ…」

「……。」


アレクシス様がしゃがみ込んだ。物凄く照れてるらしい。珍しくて、可愛くてきゅんきゅんする…


「……だめだ、ほんとにかわいい。このまま僕の部屋に…」


アレクシス様が立ちあがって私の両肩を掴んだ。


「アレク!」


クラリッサ様に叱られた。

馬車の中でアレクシス様が自分の両頬をぺちぺち叩いた。まだ少し赤いようだ。


「大丈夫ですか?」

「…うん。ごめん、フェリシア嬢が想像以上に可愛くて…ごめん、格好悪いよね。フェリシア嬢にはもっと余裕のある姿を見てほしいのに…」

「いえ…たまには余裕のないアレクシス様も、その…可愛くて…ぐっときました…」

「そ、そう…?」


ドキドキしながらお互いの手を握る。剣ダコのあるアレクシス様の手はいつ触れても温かくて気持ち良い…そっと寄り添うとアレクシス様がびくっと震えた。いつも押せ押せなくせしてこんな時ばっかり可愛いんだから。

きゅんときてアレクシス様の唇に自分の唇をちょっとだけぶつけた。そしたらアレクシス様にぎゅっと抱きしめられて散々唇を食まれてあまつさえ舐められた。


「誘惑しないで?」


ペロッと自分の唇を舐めて笑うアレクシス様は完全にいつものペースだ。こっちはこっちで捨てがたい魅力が…あうあう。アレクシス様に溺れてるなあ…



***

恋人の魅力を再確認しつつ王宮へ。

月光祭なので当然夜の王宮なわけだが、シャンデリアが煌々と輝いている。王宮内も鏡と金を多用した煌びやかなもので、とても眩しい。私はこの星見宮に入るのは初めてだが天井には創世神話の壁画があり、白い大理石の壁には数々の女神像が彫られている極めて豪奢な宮である。楽師たちが音楽を奏でている。既に第一王子と隣国の姫が踊る第一ダンスは終わっていた。第二ダンスからは貴族たちが自由に踊ることになっている。


「僕たちも踊る?」

「ええ。でも私は本当にダンスは下手ですよ?」

「構わないよ。足を踏んでも良い。こけそうになったら支えてあげる。」


ダンスは、ものすごく気持ち良く踊れた。私の気持ちが高揚してるというのもあるが、何よりアレクシス様のリードがものすごく上手かったからだ。一曲無事に踊り終えた私にアレクシス様が囁いた。「二曲目もフェリシア嬢と踊りたいな。」

否と言うはずもない。二曲目も踊りきった。アレクシス様が甘えてねだった。「もっと…」

流石にちょっと躊躇したが結局はアレクシス様と踊った。周りで軽いざわめきが起こっている。無理もない。公爵子息の本命確定だ。ダンスは1度なら社交辞令。2度なら気があると言うアプローチ。3度なら大本命だ。


「次は私と踊っていただけませんか?」


金髪碧眼の貴公子が私に声を掛けてきた。学校でも見たことがある。カズエ子爵の御子息だ。18歳で見ての通りの色男。まだ婚約者はいなかったはず。


「悪いけど、彼女は僕だけの妖精なんだ。」


アレクシス様がにこっと微笑んだ。周囲で悲鳴が聞こえる。パタパタと数人の令嬢が倒れている。すまぬ。許せよ、名もなき少女たち。


「テラスへ行かない?」


ちゅっと耳にキスしたアレクシス様に誘われた。ドキドキしながらアレクシス様についていく。もしヒロインがアレクシス様のルートを進んでいたらこのテラスでイベントだったはずなのだ。2人でテラスに出る。


「アレクシス様、リードお上手ですね。」

「運動神経は良いみたいなんだ。必死に練習したのもあるけど。」

「去年と、一昨年はどなたと行かれたのですか…?」


アレクシス様が吃驚した顔をした。


「嫉妬?」

「…いけませんか?」

「すごく、いい。」

「アレクシス様は私の事が好きなんですよね?」

「?勿論。」

「5分、目を閉じてください。5分間だけ、あなたの妖精はあなたの初恋の人になる魔法が使えます。だから全て、吐きだして……」

「……。」


アレクシス様は再び吃驚した顔を浮かべた。


「……なんて私はやらなくて良いって言うことですよね?」


このセリフはゲームのリリアンのものだ。ゲームでリリアンはここでアレクシス様の初恋の人への想いを聞く。そして「魔法が解けた妖精はあなたの何になりましたか?」と聞いて「……魔法が解けた妖精は薔薇になったよ。僕だけの薔薇に…」と言われてキスされるのだ。


「……僕にその魔法は必要ない。昔も今もこれから先も僕の恋する人はたった一人だから。…好きだよ、ユリア。」

「え?」


今『ユリア』って言わなかった?


「いつになったら気付くのかと思ってたけど、最後まで気付かなかったね。」

「アレ…ク?」

「うん。僕の宝物を見せてあげようか?」


アレクシス様はポケットからハンカチを取り出した。私が刺繍して最後にアレクに渡した、あのハンカチだった。


「な、なんで!?アレクって金髪だったのに…!」

「なんか徐々に生え変わって茶褐色になっちゃった。時々こういうこともあるみたい。母さんのレオノーラは茶褐色の髪をしていたみたいだから別に不思議なことではないよ。」

「レオノーラ様って公爵家の…?」

「うん。お父様の姉。僕の本当の父さんとは駆け落ち同然に家を出たみたい。必死に探して手がかりを見つけた時には既に亡くなって、僕だけが残されている状態だった。僕が孤児院で9歳の頃のこと。僕を見つけたお父様、コンラッド様は自分に子がいないのもこのために違いないと僕を引き取ることを申し出た。僕は騎士になりたかったから断ったよ。そうしたらコンラッド様は騎士になりたいという僕の未来を公爵家に捧げてくれるなら僕の望むものを何でも一つ与えてくれるというから『最愛の伴侶を得て優雅に過ごす生活』を望んだよ。勿論それはユリアの事だけど。平民でいたらユリアは一生手に入らないけど爵位を持てるなら手に入るかもしれないと思ったんだ。貴族として生きるために死ぬほど勉強させられたけど。」


自分の未来全てを捧げて私を得たというの!?どんだけ私が好きなんだよ。


「どうして教えてくれなかったの!?」


もし教えてくれていたらあんなに悩むことはなかったというのに!


「僕の方から『もう、僕の事は忘れて』って言ったのに今更『爵位を貰えることになったから思い出して!』なんて調子の良いこと言えないよ。エレミヤ学園へは入れたけど、学年も違うし、なんて声掛けて良いか分らなかったんだ。その点だけリリアン嬢に感謝してる。2年もやきもきした僕の気持ちがわかる?再会した君は随分女の子らしい体つきになっていて、「過去を美化している」どころか5倍くらいは美しくなってたもの。いつルークみたいな君に惹かれる男が現れるかわからなくて、それでも僕は声をかけるタイミングすら掴めない。すれ違っても君は全然気づかない、それどころか言葉を交わしても気づかないし。」


似てる、似てると思っていたけど本人だったなんて。


「ペンダントを見て君が僕を忘れてないのはわかったけど、いくら話しかけても君は気付かないし、『もしかして過去の美化した僕の事が好きなのかも』って本気で悩んで、過去の自分に勝つまでは自分からは打ち明けないようにしようって決めてたんだ。それで、ペンダントより現在の僕を選んでくれたのがつい先日だよ。お父様もお母様もエルザも僕の過去の事も僕の現在の気持ちも全部知ってるから、彼らにとってはさぞや面白かっただろうね。エルザには散々笑われたよ。」

「…なんかごめん?」

「謝られても困るよ。」

「じゃあ、大好き。」

「僕もだよ。去年も一昨年も月光祭には来ていない。君以外のパートナーと出たくなかったから。君が出るんなら考えたけど参加しないって聞いてたし。」

「ありがと…あの…」

「ん?」

「キスしてほしい。」


アレクはくすっと笑った。


「そのリクエストは大歓迎。」


優しく唇を啄んだ。

月光祭は本当に楽しかった。ダンスも出来たし、アレクから正体も聞けたし、料理も美味しかった。エルザ様はイベントを起こしたらしくセオドア様に迫られていたし、私とアレクがくっついて、しかも周囲が身を固め始めてることを知ったルーク様は本気で婚活中。月光祭でアンナ・マルク男爵令嬢と仲良くなっていた。アンナ・マルク男爵令嬢はゲームではモブ。名前すら出てこない。そんな相手にパートナーを掻っ攫われたリリアンは金切り声をあげていた。もう猫を被るのはやめたのだろうか。リリアンが狙っていたパトリック様は月光祭中もカチュア様に夢中でリリアンには見向きもしなかったし。ヴィクター様はマリエル様とほのぼのいい感じだった。初めての月光祭に興奮しているマリエル様に大分振り回されていた。


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