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第1話

うがああああああああああああああ!!私、こと中森由利亜なかもりゆりあは頭を掻きむしっていた。端的に言って私は病気なのである。「自作二次元ショタコン」というジャンルの…初恋は某長寿忍者漫画の担任の先生(二十代半ば)。物語を読めば勿論適正年齢のメインヒーローに夢中になるし、現実でだって格好いいと思うのはちゃんと同じ学年やそれ以降の年齢の芸能人。なのに!なのになのに!自作で小説を書こうとするとメインヒーローがすべからくショタになるのである。しかもこんなやついねーよ!と思わせるようなイケショタだったりする。これは病気!間違いない!!(確信)もしや少年たちに歪んだ愛情を抱いているのでは?と通学途中に小学生を観察してみるが全くときめかない。安心と共に苛立ちが募る。どうして!私の書く小説のメインヒーローは!みんなショタなの!?適正年齢のメインヒーローの小説を書きたいのに書けない…悩ましい!悩ましすぎる!!苦悩していたら階段からすっ転げた。



***

「アッハハハハハハ!ウケる!マジウケるんですけどー!!」


私はちっとも全然ウケないよ。

さっきから笑い転げてるのは転生を担当している女神様である。さらっとした金髪にサファイアのような綺麗な青い目をした、ハリウッド女優も真っ青な美人で、登場シーンは大層神々しかったが、私の死に様を見て大爆笑なさっている。私は階段からすっ転げて死んだのだ。


「自作二次元ショタコンなんて言うジャンル初めて聞いたわー。新ジャンルすぎるでしょ!しかもあれだけショタコンぶちまけておいて全然リアルのショタにときめいてないし!」

「だってリアルのショタって…ギャーギャー喚く猿のような…体つきも頼りないし。」


私が観察した奴らは大抵そうだった。猿のように喧しく友達とふざけ合う。貧弱な体つきのガキンチョである。


「アハハハハ!確かに!イケショタなんて二次元にしかいないわよねー!」

「現実なんてそんなものだって理解してるんです。だから物語の世界でも真っ当なヒーローを書きたい!この性癖を直したくて直したくて仕方なかったんです…なのに、真っ当なヒーローを書く前に死んじゃって…」


無念なり。学生生活もまだ堪能してなかったし、ウェブ小説家になるという夢も…ああああああああああ!ショタコン滅せよ!!!私は大人が好きなのに~!!


「まっ、来世では頑張んなさい。」

「私の来世ってどうなるんでしょう?」

「一応人間の予定。はい、これ持って。」


渡されたのはサイコロだった。

???


「まずは生れね。サイを振って。」


振ると2だった。女神様はふんふん頷くと手元の書類に何事かサラサラ書きこんでいく。


「あんまり良くないけど最低ではないわ。あとは私から個人的にプレゼントがあるから期待してて。次に容姿ね。サイを振って。」


振ると6だった。


「あら良かったじゃない。ものすごい美人に生まれるわよ。容姿は私が勝手に決めちゃうけど、ちゃあんと可愛く調整しとくから。わらかしてくれたお礼に美魔女効果も付けとく。老いても若々しく美しいわよ。」


有難いです。来世が美人確定だなんて嬉しい。来世では今の記憶なんて残らないだろうけど、楽しんでね、来世の私。


「次は才能ね。知能から行きましょう。サイを振って。」


サイコロを振ると4だった。


「中庸かそれよりちょっと良いくらいね。天才にはなれないけどちゃんと勉強すれば人並みになれるわ。次に運動神経ね。サイを振って。」


サイコロを振ると2だった。


「あらあら残念。最悪ではないけれど運動神経はあんまり期待できないわね。悪漢に狙われたらまず何の抵抗も出来ず捕まるんじゃないかしら。美人で生まれも良くないからちょっと危ないかもしれないわねえ。」


そんなあ…


「まあ、容姿が命みたいなもんだから、奴隷にされたって、体を傷つけられるようなことはないでしょうよ。」


奴隷なんているのか…来世の私、ごめん、奴隷落ちするかも…


「じゃあ、手先の器用さ、ね。サイを振って。」


6だった。


「あなた相当運がいいわ。めちゃくちゃ器用になるわよ。それはもうお針子にでもなったら売れっ子になるわ。」


「次は芸術性ね。サイを振って。」


5だった。


「程々の才能だけど、例えば絵画についての才能があるとか楽曲についての才能があるとかどういう種類の芸術に秀でているかは私が選んでおくわ。まあ、ぶっちゃけ刺繍の図案とかレース編みの図案とか編み物の配色とかそういうのに優れたセンスを持つようにしておくわ。」


美人で手先が器用で手芸のセンスが良くて頭の出来が普通で運動が今一つで生まれがいまいちなのか…


「さあ、じゃあ、転生するわよ。」

「来世ではショタに夢など見ない生活が送れますように。」


女神様がにんまり笑った。


「そうねえ。運命神に頼んでサービスしておくから期待してて。」


因みに全く説明していなかったがここは応接間のような部屋で、奥に転生用の扉がある。女神様の説明によると転生の女神はそれはもう数え切れないほどいて、この応接間も無数にあるらしい。そして死んだ魂はいくらか待たされて(数百年単位)この応接間に通されるそうだ。しかし魂には時間の感覚があまりないので数百年待たされても一瞬の事に感じるとのこと。因みに私の事を担当してくれた女神の名前はL-48と言うらしい。まともな名前を与えていられないほどの数がいるようだ。

女神が扉の横のポストに書きこんでいた書類を突っ込んだ。


「さあ、お行きなさい。」


私は恐る恐る扉をくぐった。

次に由利亜としての記憶を取り戻したのは5歳になった時だった。孤児院の階段から転げ落ちて頭を打った時だった。それまでの記憶もちゃんとある。私はユリア。5歳。孤児院の前に捨てられていた捨て子だった。孤児院で5歳まで何とか成長した。カツカツの生活でお世辞にも豊かとはいえないが、孤児院の院長さんはそれはもう良い人で、いくら生活に困っていても子供を奴隷として売り飛ばすような非道な真似はしない人だ。有難い。

それとは別に地球で「自作二次元ショタコン」という病に冒された女子高生の記憶があるんだけど。

女神様が約束してくれたとおり私は美しい子供だった。オレンジっぽさがない綺麗なワインレッドの髪。瞳は澄んだエメラルドのような翠。鼻は小ぶりながらも鼻筋が通っていて唇はふっくらとしていて薔薇色。肌は白く、シミ一つなく、肌理細かい。美幼女である。なんとか奴隷落ちしなくってほっ…地球では西洋では赤っぽい髪をしてると苛められる傾向にあったが、こっちではそんなこと全然ないし。赤毛は遺伝的にそばかすが出来やすく、赤毛の子で「そばかすが多い!」ってからかわれてる孤児院の子はいるけど、私の肌はシミ一つない。

しっかし孤児院のガキどもは猿以下だな。ギャーギャー喚いて女の子のスカートはめくるわ、カーテンを鋏で切り刻むわ、食事は横取りするわ。到底ショタに夢を見られる環境ではない。ある意味夢はかなったけど、むなしい…こっちで作家活動など出来ようはずもないし。私はとりあえず勉強することにした。頑張れば人並みの学は身につくはずなので。ついでに裁縫とレース編みと料理を習った。急に勉強やお手伝いを始めたいと言った私に院長先生らは吃驚していたが、快く認めてくれた。

計算は由利亜の頃の下地があるから大丈夫だった。文字とか社会科とかが難しかった。手先は確かに器用みたいで、教えられたことをするする覚えていって今ではかなり綺麗なレースが編める。貴族に高値で売れるので院長先生らは大喜びだ。

そうして私が悪ガキどもを調教しつつ8歳になった頃、6歳の男の子が孤児院にやってきた。名をアレク・ウェインバースと言う。金髪に琥珀色の目をした綺麗な子供だった。元貧乏騎士の子で両親を亡くして孤児院に来たそうだが、この子は他の子供とはどこか違った。6歳なんて悪ガキ盛りの頃だろうに、悪戯なんて決してせずに、よく院のお手伝いをし、毎朝鍛錬に励み、勉強し、話しかけると柔らかに品良く笑う。まるで私の小説にでてくるショタ様のように出来た子供であった。

原っぱにごろんと横になっているアレクの隣に腰かけた。


「アレクは毎朝剣の鍛錬をしているけれど何かなりたいものがあるの?」


そう聞くとアレクは少し困ったように笑った。


「騎士か、傭兵になろうかと…」


この世界に冒険者と言う職業はない。魔物という存在がいないからだ。ファンタジーじゃないね。代わりに傭兵と言う護衛依頼や戦争の助っ人として呼ばれる職業がある。勿論あまり地位は高くないし、生活はそれほど豊かではない。恐らくアレクは騎士の方になりたいのだと思う。


「誰かを斬ったりするのって怖くない?」

「怖いけど…いざという時に誰も守れない方がずっと怖い。」

「そっか…」


イケショタ現る…!どういうことなの!?今世こそはショタのショの字にも触れることはないと思ってたのに!


「なんか、アレクは落ち着いてるね。他の子たちとどこか違う…」


アレクは苦笑した。


「そんなに違わないよ。背伸びをしたいお年頃なんだ。ユリアこそ他の子たちと全然違う。成熟した女性みたいで…ドキドキする。」


そう言うことを私の髪に触れながら言わないでくれるかなっ!?私の方こそドキドキするわ!でも2歳差だから私はまだ正常なのよね?多分。この年頃の2歳差はかなりでかいけど。小学1年生と小学3年生くらいの差だから。それに前世の精神年齢を加味してしまうとかなりのショタだが。


「ユリアは院の男の子にも人気があるよ。将来お嫁さんにしたいって言っている子がいっぱいいるでしょう?」


うーん…いるにはいるんだけど「ブース。お前みたいなとろいブス嫁に貰ってくれる男なんていねーよ。仕方がないから俺が貰ってやる。」的な言い方なんだよね。そんなら「こっちこそ願い下げだわ!くそガキ!」って感じなんだよねえ。いや、私は心の中で思ってるだけで口では「ありがとう。でも無理しないで他の女の子と結婚してあげて?」って優しく振ってるけど。くそガキの将来性に期待できないし。


「ふふっ。そう。ユリアはいつも優しく振ってるよね。」


口には出してないはずだけど、顔に出てたかな?


「僕も告白したら優しく振られちゃうのかな?」


アレクが私に告白!?アレクは優しく私の髪を撫でた。


「ユリア、す…」

「おい!アレク!ユリア!そんなとこで何やってるんだよ?食堂行こうぜ。さっき傭兵のおっちゃんがでかい猪肉寄付してくれたんだぜ~!」


私と同い年のくそガキのアンディに声を掛けられた。アレクは肩をすくめた。「す…」?なんて言うつもりだったんだろう?好きだよ、とか?まさかねー。まあそうだったとしても幼稚園の幼児たちが誓う「大きくなったら○○ちゃんと結婚する!」くらいの意味合いだと思うし。……非常にドキドキしたけど。

その夜は久しぶりにたっぷり肉が食べられた。くそガキ達の肉の奪い合いと言う一幕はあったが。



***

9歳の誕生日(私が院に捨てられていた日)、院の男の子たちが蝉の抜け殻や脱皮した蛇の皮を私にプレゼントしてくれる中、アレクは真っ白な薔薇を1輪プレゼントしてくれた。薔薇を育てているおうちでしばらく庭仕事を手伝う対価として得たらしい。き、気障すぎる。次点の男の子でもタンポポだったのに…

アレクはにっこり微笑んで、「その綺麗なワインレッドの髪には白い薔薇が似合うと思ったんだ。」と言って私の髪に白い薔薇を差した。


「すごく嬉しい。ありがとう、アレク。」


私はお礼にアレクのほっぺたにキスをした。湧き上がる悲鳴。私もアレクもそれぞれ人気があるので、院の男女が悲鳴をあげているのだ。

アレクはちょっとびっくりした顔をしたけど「喜んでもらえて嬉しいよ。」と笑った。まさかリアル世界にこんなイケショタがいるだなんて…女神様、反則ですううううううう!!!!

私はアレクの誕生日には毛糸の細糸で超絶技巧を凝らしたカーディガンを編んだ。アレクはその出来栄えに目を見張って「すごく嬉しい、ありがとう。」と言って秋のワンシーズン洗濯する日以外は毎日それを着ていた。

私は悪ガキどもを調教しつつ、10歳の誕生日を迎えた。このときのアレクからのプレゼントは白いシェルのペンダントだった。シルバーの上に虹色に輝く白いシェルが張ってある飾り気のない丸いペンダント。きっと裕福な人たちからすればゴミみたいなペンダントだろうけど、アレクはこれを購入するためにすごくお小遣いをためたと思う。可愛いし嬉しい。


「アレク…ありがと…」

「そんな泣きそうな顔しないでよ。笑ってほしくて買ったのに。」


アレクが笑ったのでつられて私も少し笑った。


「つけてあげる。」


アレクは銀のチェーンの留め具を器用に首の後ろで留めた。そしてついでに耳にキスした。あううううううううう。リアルショタにときめく日がこようとはあああああああ!!私は大人な男性が好きだったはずなのにいいいいいいいい!!


「すごく似合う。」

「ありがとう…」


ぎゅっとアレクに抱きついた。駄目だ。ときめく。自分の心に嘘はつけない。アレクは優しく私の髪を撫でてくれた。

アレクの8歳の誕生日。私はアレクに刺繍の施されたハンカチを贈るつもりでいた。それはもう手の込んだ刺繍で金持ちなら是非購入したいというであろう見事な出来栄えだ。ところが直前になって私を養女として引き取りたいという話が出た。とある男爵家の御夫婦で、子供が出来ず、ご夫人が女の子の子供をもって一緒に着飾ったり、お茶会に出たりしたかった。という希望があったようだ。他の貴族からすれば女児は大事な政略結婚の駒。とても男爵家ごときには渡せない。それならいっそ孤児院で一番美しい女児を引き取ろうということになったらしい。犬猫でも引き取るかのような気軽さで「この子を貰っていく。」と言われた。

私は孤児院を離れるのが嫌で散々ごねたが聞きいれてもらえなかった。「あちらのおうちに行けばユリアは裕福な暮らしが出来るのだから。」と。裕福な暮らしがしたいわけじゃない。ただ、孤児院で育ち、一人の人間として普通に働きたいだけだったのに!私の裁縫の腕があればそれは容易に叶ったはずだったのに!


「行っちゃうんだね…」


アレクが悲しそうな眼でこちらを見ていた。


「行きたくないのに…!」


私は泣いた。アレクは悲しそうな目で微笑んだ。


「…それでも誰かに望まれて生きるのは幸せなことなんだと思うよ。」


アレクが私の手を取って指先にキスした。


「好きだったよ。ユリア。」

「私も好きでした…アレク。」


アレクは一度だけそっと抱き締めてくれた。


「もう、僕の事は忘れて。幸せになるんだよ。ユリア。」

「…うん。アレク。これ、誕生日に贈ろうと思っていたの。少し早いけど、おめでとう。」

「ありがとう。ユリア。」


孤児院ともアレクともお別れ。私の新しい生活が始まる。


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