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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
9/63

第9話:真実と戦いとヤンデレと

「さて、最初は俺たちだけだな」




商店街の一角にある、アジト。




白瀬さんも忠之もボスもいない、閑散としていた。




鍵は予め貰っていたので、入ることは出来ている。




だが、こんなボロボロで、鍵をかけている意味があるのだろうか……




俺たちはタイムカードを押して、奥の部屋のソファーに座っていた。




ちなみに、俺たちの席はまだない。

見習い期間中は、自席など不要とのことだ。



「永礼ちゃんじゃないけど、やっぱりドキドキさせるのって、恐怖以外思いつかないよね」




詩織はそんなことを言い始めた。




でも、確かにそうだ。




手っ取り早く、街の人をドキドキさせるには、神通力もあるし、恐怖がいちばんだ。




善い行いを伴うドキドキは、悪意も生まれやすい。



「じゃあ、恐怖でいっか♪

神通力で、脅しまくろう、兄貴♪」




詩織は怖いことを笑顔で言い出した。




今日は二人がいないので、街の人をターゲットにするのも、俺たちがやることになりそうだ。



「そうそう! 私、神通力の使い方、勉強してきたよ!」



「は? 使い方!?」



「うん!

ある程度練習すると、使いこなせるようになるよ!

今度、兄貴にも教えてあげるね!」



「お、おう」




どうやら、詩織は神通力をコントロールできる様に、いろいろ勉強しているらしかった。




どこまで使いこなせてるのか、興味はあるが、若干心配にもなる。



「さて、変身しよ♪」




そう言った詩織は可愛くウィンクする。




たまにこんな表情するから、俺は妹の言うことを素直に聞いてしまうんだろうな、と思ってしまう。



「よし! とりあえずは、いつも通り、恐怖だな」




だが、実際俺はまだ誰にも恐怖を与えてはいないだろう。

躊躇していることもある。




しかし、例の猿のこともあるので、そうは言ってられない。




本気でやらないとな。詩織や白瀬さんにも迷惑かけるし。



「ヒャハハハハ!」



「ヒャハハハ! 兄貴の下半身を――下さい」




変身の掛け声は例の如くだが、直球気味になってきた詩織のは聞かないようにする。




そして、俺たちは光に包まれる。




やはり、この光に包まれる度に思うのだが、昔、どこかで同じ経験があるような気がしてならない。



「やっぱり、兄貴、かっちょいー!」




俺は詩織の声に、現実に戻された。




俺たちはいかにも怪しい、黒い姿となっていた。



「さて、んじゃ行くか?」



「そうだね。

でも二人で行くの初めてだから、どうすればいいんだろ?」




確かにそうだ。今までは白瀬さんか忠之のどちらかが居てくれたので、なんとかなったが、今回は二人だ。



「……考えても仕方ないから、とりあえず、このまま行くか」



「うん!」




そこで、俺はさっきの神通力の話から、変なことを思いついた。



「なぁ。この姿の神通力で、トウッ! ってジャンプしたら、良い場所についたりするんじゃね?」



「あ! 別の場所に一瞬で移動する、良く見るやつだよね!

やってみようよ、兄貴!」



「だな!」




ということで、いっちょ試してみることにした。



「まぁ、敵を思い浮かべて、適当にトウッ! ってジャンプしてみるか」



「イエッサー! マイ・ブロス!」




詩織が敬礼して答えた。



「んじゃ――トウッ!!」




俺は屈伸した体勢から、思い切り垂直にジャンプした。




まぁ、何も起きるはずはないだろう。




そう思ったのだが――




着地。




景色は一変していた。




……まじか。




俺は辺りを見まわして驚愕する。




広い公園の敷地。




緑の絨毯の上で、優しい陽が踊っている。




いや、それはどうでも良い。




問題は――



「て、てめえ!

どこから出てきやがった、この野郎!」



「――え!?」



「ブ、ブラック・マグマ!? 何で、この場所が!」




例の猿と、マジカル・キュアの面々が勢揃いしていたのだった。



「くっ、まさか、私たちが揃うこの時を狙っていたの!?」




白い甲冑と赤い髪が、良いコントラスを生み出しているファイアが驚いて言った。



「まさか!

だって、会合はいつも場所を変えて、暗号化と時空フィールドだってかけているのに!」




アクアがそれに驚いている。




……なるほど。




確かに、俺を含めた、この一帯。空の色が少し青紫の色彩を帯びている。




空間を歪めている……?



「なるほどな。ここは少し違う空間なのか」




俺は納得してそう呟いた。



「――くっ!」




ファイア、アクア、ミドリの順で、俺の言葉に反応して、一気に距離を空けた。




戦闘態勢だ。



「お、おいおい。ちょっと待ってくれよ」




俺は慌てて警戒を解こうとする。




実際、おれは攻撃のやり方とか、神通力の詳細まで学んでいない。




詩織のように練習すらしていないし、練習で伸びるなんて、詩織に言われるまで知らなかった。



先ほどのワープ? だって、適当にテレビの真似をしただけだ。




第一、周りに俺の味方は――って



「あれ……あいつがいない」




そこで、妹がいないことに俺は気付いた。



「あいつ、ワープできなかったのかな……」




俺は更に焦ってしまう。




この状況で一人は流石にキツイ。



「ハハハハ!

こうやって乗り込んで来るとは、ホレボレしちゃうわねぇ。

この野郎!」




すると、猿が叫ぶ。



「今から、あんたたちを艦砲射撃を餌に上空から急襲して、一個師団を送り込む予定だったのによぉ!」




とんでもないことを言いだす、猿。



「そんな打ち合わせ、必要なくなったな、この野郎!」




好戦的な猿は、目を輝かせ、他のマジカル・キュアと同じように距離を置く。



「ヒャハハ!

急襲しかけたようだが、一人で何が出来るってんだ!」




酷い面をした猿が、唾を垂らしながらそんなことを言いだした。




……これが、本当に良い神様の化身なのか?

うちの犬と逆にしろよ。




俺は内心、そんなことを思った。



「よし! てめえら!

あたいのフルパワーをあんたたちに送ってやる!

それで、こいつを倒して、平和にしちゃうぜ、この野郎!」




猿はそんなことを言って、前足をマジカル・キュアに向ける。



「マスター! そんなことしたら、貴女の生命力が!」




ファイアが猿に向かって、止めるよう懇願する。




どうやら、パワーを使い果たしてしまうらしい。



「いいってことよ! ファイア!

あたいの力はそう簡単に無くならないよ!

見てな! これが、フルパワーだぁぁぁ!」



猿の周りに白い光が集まり、一気に輝きだす。




その輝きが、前足のほうに集まり、球体となる。



「いっくぜぇぇぇ! マジカル・キュア!

あたいのパワーを受け取って、あいつを地獄に――」




と、皆まで言う前に、



「――!?」




上空から、黒い塊が降ってきたと思うと、



「ぐぁぁぁぁぁくぁwせdrftgyふじこlp!!」




猿の頭に直撃した。




ぴくりともしない、猿。



「……」




俺とマジカル・キュアは、その様子を暫く眺めていた。



「ど、どうする……?」



「い、いや、どうするって言われても……」




何故か、俺とファイアがそんな会話をしてしまう。



「ん? 何か動いてる……」




ミドリが、猿にぶつかった黒い塊を見て、そう呟いた。




確かに、見ると塊がもぞもぞ動き出す。



「な、何だ?」




俺はその塊に向かって近寄る。



「ちょ、ちょっと何する気?」



「危ないですよ……」




アクアとミドリが交互に俺にそう言った。




ミドリの言葉にちょっと気になって、振り返る。と、



「――!」




ミドリは真っ赤になって、ファイアの影に隠れてしまった。



「ヤバイ。可愛い……」




明らかに、この前のことを引きずっている。

けど、俺を心配してくれたのだろうか。




これは――




まんざらでもない!?




俺は少しテンションが上がる――が、



「ギロッ」




ファイアが俺を睨みつけた。




う。

変身後のファイアは、ミドリの件で、俺を快く思ってないんだった。




いや、敵同士だから当たり前か――



「――って、ねえ! ちょっと!

いい加減、黒い塊を確かめろよ!

兄貴! 何でそこでいちゃつくの!」




と、黒い塊は立ち上がって、そんなことを言った。



「お、おう。シオ……ティンだったのか」




まさか、黒い塊が人だったとは。

いや、妹だったとは思わなかった。



「あ。シオティン、もしかして、来るの遅いと思ったら、隙を見て、猿を殺ってくれた――」



「違うわぁぁぁ!」




俺の言葉に、シオティンは絶叫する。



「兄貴のばかぁぁぁ!

”トォゥ!”を何回やったと思ってんのよぉ!

勝手に行っちゃって!

わーーーん!」




そう言ったシオティンは号泣する。




どうやら、置いてきぼりを食らって、今まで何回も例のポーズをしていたらしい。



「そ、それでやっと来れたと思ったら、空中に出たと?」



「そうだよ! バカ兄貴! 怖かったんだぞ!!」




シオティンは凄い剣幕で、俺に抱き付いてきた。




もしかすると、神通力にも向きとか不向きがあるのかも知れない。




俺がそんなことを思っていると、



「……な、なんなんだろう。

まるで私たちが悪者の雰囲気……」




俺たちの姿を見たアクアがボソッと呟いた。




それと同時に、



「うぐぁぁ! やりやがったな!

ゆるさん、ゆるさんぞぉぉ! 虫けらどもがぁぁ!!」




猿がボロボロで立ち上がって、絶叫する。



「マ、マスター!? その、少し冷静に……」




ファイアが猿に向かって、窘めるが、



「あぁぁん!?」




ファイアに向かって、超絶冷血な眼差しを向ける。




こいつ、本当に良い神様なのか……?



なんか、うちのボスと立場が逆なような気がしてきた。



「もう許さない。

って、前にも言ったが、本当だ、ごるぁ!

てぇい! こらぁぁ!」




猿はそう叫ぶと、猿の前足から光が収束し、それがファイアに向かって、炸裂した。



「――な!?」




ファイアは驚愕する。




さっきのエネルギーを分けると言っていたやつか?




その光を受け取った、ファイアは、



「ふ、ふふふふふふふ」




なんか、ヤバイ状態になっていた。



「マ、マスター! それはヤバイですって!」



「そ、そうです!

いくら悪だからと言って、それはいくらなんでも――」




アクアとミドリが非難を上げる。




だが、



「てぇぇい!」




猿は同じように、光を二人に放った。



「――!」




二人は声にならない悲鳴を上げたかと思うと、



「ふふふふふふ」



「あ、あははははは」




ファイアと同じように、何か、ヤバイ状態となっていた。



「な、なんなんだ?」



「分からないけど、ヤバそうだね」




俺とシオティンが、何らかの危険を察知して、面々から距離を取る。



「はははは!

これが、マジカル・キュア、本当の力よ! この野郎!」




猿がそう叫ぶと当時、周辺の青紫の色彩が晴れる。



「空間の歪みが!?」



「そうよ。取っ払ってやったわ。

これで、名実のもとに、ブラック・マグマ狩りを周知させてやるわ!

この野郎!」




猿と、目がうつろな三人が、こちらへの距離を詰めてくる。



「ふむ。やつめ、聖者の光を使いおったな」



その声に足元を見ると、子犬が警戒心の牙を出しながら、猿を見つめていた。



「ボ、ボス!?」



「本気でやると言ってたから心配になっての。

じゃが、結界でどこにいるのか見当つかなかったのじゃが……」




なるほど。ボスも見張っていたようだが、どうやら先ほどの時空の歪みのせいで、見つからなかったようだ。



「いけぇ! 悪の化身をやっつけろ! この野郎!」




猿が吠える――




と、一気に、ファイア、アクア、ミドリの三人がこちらに向かってくる。



「うひょーー!」



「あはははははは!」



「うふふふふふふ!」



三人は気が狂った声を出しながら、こちらへ突っ込んでくる。




「ストレート・ファイアー・ダンディズム!!」




ファイアがそう叫ぶ。




すると、ファイアの拳に炎が現れ、一気に、間合いを詰める。



「あ、あぶね!」




俺は、ファイアの炎の拳を寸前で避ける。



「グロス・ミックス・サー!!」



「ジャイアント・スィング!!」



ミドリとアクアも、それぞれ必殺技らしき名前を叫ぶ。




ミドリのあれは、以前に見ているやつだ。

草による攻撃。あれもヤバイ。




それと、アクアの――




ん? ジャイアント・スィング?




それって……




草の攻撃と炎の攻撃を躱しながら、アクアの方を見る。




すると、両手を広げて、じりじり俺の方へ向かって、俺の隙を伺っている。




そんな大技、決まるわけないだろう……




俺は憐みの視線をアクアに送った。



「うりゃぁぁぁ!」




と、シオテインの声が聞こえた。




ファイアの攻撃を躱し、シオティンはファイアに杖で一閃を咬ます。



「うひゃぁぁ」




……ファイアは変な叫び声を上げて、その場に倒れた。




うう。赤城さんのイメージが壊れる……



しかし、妹は本当に強いな……



「兄貴、危ない!」




と、シオティンが叫ぶと、目の前にアクアの姿があった。



「ふふふふ」




アクアは笑みを浮かべると、俺の足をめがけて、タックルしてきた。



「ま、マジであんな大技する気かよ!?」




俺はタックルを躱そうとするが、既に懐に入られているため、逃げられない。



「――くっ!」




俺は抵抗するものの空しく、地面に転がってしまった。



「うひょひょひょ」




アクアも壊れている笑い声をあげる。




……葵のこんな姿を見るのは、流石に精神的にクルものがあるな……




俺は精神的攻撃にもやられ、既に大技を食らう覚悟を決めた。




すると、



「たぁぁぁぁ!」



「ぐぅ――うぎゃぁぁ!!」




掛け声が聞こえたかと思うと、叫び声を上げたアクアが吹っ飛んでいた。



「な、なんだ?」



「大丈夫?

あの神様、聖者の光を使ったわね。

どうやら、本当にハルマゲドンが来たか!」




地面に這いつくばったまま、上を見ると、そこにはオタ・クールが立っていた。




どうやら、彼女に助けてもらったらしい。



「おぉ! ありがとう」



「いや、気にするな」




俺は礼を言ううものの、オタ・クールは気にせず、最後に残っているミドリの方を注意深く観察している。



「な、なぁ、聖者の光って何なんだ?」




俺はミドリを気にしつつ、オタ・クールに質問した。




ミドリは攻撃を止め、こちらをチラチラ伺っている。




もちろん、変な笑みを浮かべているので、壊れたままだ。



「あの光は、精神を破壊して、悪と感じるものを中毒症状で攻撃する」



「――は?

ちゅ、中毒?」



俺はその言葉に、畏怖を感じた。




まさか、マジカル・キュアは、本当に壊れてしまった――



「恐ろしい光だ。

つまり、ヤンデレになったまま、相手を攻撃する」



「ヤ、ヤンデレ?」




オタ・クールの続きの説明に俺は絶句する。



「……死んで死んで死んで私のために死んでアイシテルアイシテル」




ミドリの言葉がここまで聞こえてきた。



「しかも、ちょっとでも相手に好意があると、そのヤンデレ度と攻撃力は増す。

――と、まぁ、敵だから、好感度など無いから、そこは安心しても良いがな」




……俺は、その言葉に恐怖を覚えた。




ミドリって、俺にちょっとドキドキしていたよな。




……いや、きっと俺の勘違いだ。うん。



思春期の特徴で、相手が俺に興味を持っていると、勝手に思い込んでいただけ――



「――! ぐぐぐぅ!?」




すると、声と共に、オタ・クールは膝を折って、その場に倒れてしまった。



「……え?」



 

俺は驚愕の視線をオタ・クールに向ける。




何が、起きたんだ……?




オタ・クールは倒れて動かない。




すると、その視線の先で――



「ニヤリ」




ミドリの禍々しい笑みが、俺に向けれらた。



「マジかよぅぅぅっーーーーー!!」




俺は急いで起き上がり、その場から逃げだす。



「アハハハハハハハ!」




ミドリが追い駆けてくる。手には包丁を持っている。



「――ちょ!?

なんなんだ、それ!

マジカルの攻撃じゃないのかよ!

必殺技はどこ行ったんだ!」




俺の叫び声も空しく、彼女は包丁を持って追いかけてくる。



「あ、兄貴!」




シオティンが助けに来ようとするものの、距離が空いている。




それに、この状況じゃ、シオティンも無事に済まない。




俺がやるしかないか。




と、覚悟を決めて振り返った時、



「俺の出番だな」




声と共に、横から黒ずくめの男――ウザダーが現れた。



「う、ウザダー!」




俺は、助っ人に現れたいつもは残念な男に感激する。




ヤバイ! カッコイイぞ! ウザダー!



「ここは俺に任せ――うべぇぇぇぇぇぇ!!」




ウザダーは、酷い声と共に、空の彼方へ飛んで行った。



「あ、あれ?」



「……ニヤリ」




目の前にはミドリがいた。



「――く!」




俺は覚悟を決める。戦うしかない!




と、その時、



「ドキドキさせるんじゃ!

それでかの光は解ける!」



足元から、ボスの声が聞こえた。



「本当か?

意識ないんじゃないのか?」



「案じろ。意識は内部にちゃんとある!

支配されてるだけじゃ!

それより、早くせい!」



「あ、兄貴ぃ!」




ボスの声の後に、シオティンの声が重なる。




シオティンは、俺を助けにこちらへ突っ込んでくるが、距離は遠い。




だが、このままでは、どちらも危険だ。




正体を知っている、マジカル・キュアにも怪我をさせたくない。




そういえば、ドキドキは猿を弱らすんだったな。




ならば、それに期待して、ドキドキさせるしかないか!



「とびっきりのじゃぞ!

ええか! とびっきりのじゃぞ! ふふ」



「おい! ボス!

何で最後笑った! って、そのフリはなんだ!」




と、ボスに突っ込んでると――



「ハハハハハハハ!!」




絶叫と共に、ミドリは包丁を振り上げる。



「――み、ミドリ!

……その、お前って……可愛いな」




ピタ




ミドリの動きが止まった。



「まだじゃ!

まだ足りぬわぁぁ! もっとじゃあ!

思春期を出すのじゃぁ!」




下で子犬が騒ぐ。




くっ、この、犬畜生が。

遊んでるようにしか見えねぇ。




だが、ミドリはまだ包丁をこちらへ向けようとしていた。




俺は苛立ちながらも、確かに、続けるしかないようだった。



「……今度、デートしたい。

お前と二人っきりで。頼む」




俺は決めポーズでそう叫ぶ。




すると――



「ぬぉぉお! なんだと!」




今まで黙って余裕ぶっていた猿が、驚愕の声を上げた。



「ひ、光が……」




シオティンが呟く。




そう。




ミドリ――だけじゃなく、アクアとファイアから光が溢れていた。




その光が――弾ける!




すると、その光が一面を包み込む。

――と共に、俺は思い出した。




変身するときの光にも似た、この光。




いや、それよりも強力な光。




――これは、幼い時、例の神社で体験した出来事。




あの光と一緒だ!




――って、ことはだ。




俺は全てが納得した。



「あ……戻った……」




ミドリはそう呟いた。




すると、先ほどのヤンデレの面影は無く、いつものチャーミングなミドリになっていた。




――いや、チャーミングって俺が言うのはおかしいか。



「はぁ。助かったぁぁ」



「本当だよ。もう、マスターってば……」




見ると、倒れていたファイアとアクアも、元に戻っていた。



「ぐ、ぐぬぬぬ!」




一方、猿は悔しそうにこちらを見ていた。




さて、これからどうしようか。




もう、これ以上戦いたくなどないし。




先ほど思い出した……例の件をボスに話そう。




と、足元にいる子犬に話しかけようとしたとき――



「……あ、あの。

その……男の人と出かけるのは、初めてなので、その……デートっていうのは、まだ早いというか……なんですが、一緒に、行くのが嫌ってわけじゃないんですよ……」




ミドリが赤面で、モジモジ話しかけてきた。




うお! さっきの、返答か!



や、やばい。




いや、この状況下でこういうのは、ちょっと気が引けるというのもあるが、ミドリの姿が、その、可愛いというのもあり、俺は照れて何も言えなくなってしまう。



「そ、そう……か」




俺は気の利いたセリフも思い浮かばず、そんなことしか言えなかった。



「ちょっとぉぉ!

この、ヤマティンとやら!

この変態! 何やってんの!」




すると、ファイアが近寄って、ミドリと俺の間に入ってくる。



「まぁ、いいじゃない? ミドリも乙女なんだからさぁ」




すると、ニヤニヤして入ってきたのは、アクアだ。




どうやら、この状況を面白がってるらしい。




全く、どうしようもない幼馴染だ。



「ちょっと、アクア!

この前もそんなこと言って、何考えてるの!

相手は敵なんだよ!」



「そんなこと言ったって、仮に敵とは言っても、そんなこと言われたらね~。

ファイアは言われたことないだろうけどっ♪」



「――なっ! 何ですって!?」




何やら、アクアとファイアが言い争いを初めてしまう。




どうやら、アクアの発言を聞くに、アクアはミドリの件を怒っておらず、むしろ面白がっていたようだ。



「あんただって、言われたことないじゃない!

あの幼馴染の彼に言われたことあるの?」



「――なっ!

あいつは関係ないじゃない!」




何やら、雲行きが怪しい……




しかし、ファイア――赤城さんの印象が、どんどん変わっていく。




落ち着いて、元気いっぱいの優等生。




その印象が……壊れていく。




だが、こちらの姿の方が、真の赤城さんっぽくて、好感がもてるのも確かだ。




飾りっ気のない、今の赤城さんの方が。




それにしても、その幼馴染って、俺の事か……




何で、ここで俺の話が出てくるのかが謎だった。



――と、急に、俺の袖を引く感触があった。

見てみると、そこにはミドリがいて、



「あ、あの。ごめんなさい。騒がしくて。

で、でも、あ、あの……さっきの……嫌じゃないんですからね?」




……




うぉぉぉ! この破壊力!




男だったら、きっと落ちてしまうだろう、この破壊力!



「じゃ、じゃあ、今度、一緒に――」




俺は思わずそう言いかけた時、背後からボス級の殺気が俺を貫く。



「――!?」




振り返ると、そこには笑顔のシオティンがいた。



「お兄ちゃん?」




これは、ヤバイ。




妹の笑顔が、動かない。

そう、顔の筋肉がまるで動いていないのだ。




俺は後ずさりを始める。



「い、いや、何でもないぞ?

その、俺たちは敵同士だからな」




俺がそこまで言うと、今まで黙っていた猿が、突然叫びだした。



「この虫けらがぁ! よくもやってくれたぬぁぁ!」



怒り心頭に、吠えだした。



「正義の名の元にぃぃぃ!」




そこまで猿が吠えると、マジカル・キュアは顔を強張らせる。



「――そうね、そんな場合じゃないわ」




「ええ。さっきの光については、やり過ぎたと思うけど、相手は悪の組織」



「……そう……ですね……」




三人は顔を引き締め、こちらに対峙する。




だが、ミドリはちょっとだけ辛そうだ。




いや、俺のせいだけあって、俺も罪悪感でいっぱいになる。



「いいか、てめぇら!

日頃言ってるように、心を乱されるなぁぁ!?

それが我らの敗北に繋がるぞ、この野郎!」




猿がマジカル・キュアに檄を飛ばす。




どうやら、ドキドキされるなということを、示しているようだ。



「こいつらの目的は恐怖と不安の拡散。

それらを我らが対峙して、市民を平和にするんだゴルぁぁぁ!!」




な、なるほど……俺たちの目的のドキドキを恐怖や不安と言い表して、阻止しているのか。




まぁ、確かに俺たちはそれらをメインで行っているので、何とも言えないが。



猿が叫んだあと、マジカル・キュアの三人の目に力が戻る。



「兄貴! 来るよ!」




シオティンが警告する。



「――!?」




俺は三人の成行きを見守る。




すると、隣から、



「い、いよいよ決戦ね」



「俺も立ち向かおう。悪の名の元にな」




オタ・クールとウザダーの二人が立っていた。



「お、おい? 大丈夫か?」



「ええ、大丈夫。大したことないわ」



「ふ。あれごとき、俺の苦痛にはならぬ」




無駄にカッコイイセリフを言ったウザダーは置いといて、確かにオタ・クールも大丈夫のようだ。




しかし、あの光の攻撃は、確かにヤバいものだった。




足下にいたボスも、いつの間にか距離を置き、遠くから成行きを見守っていた。




ボスに尋ねるのは、後にするか。




俺は思い出したことを、一旦、胸の奥にしまう。



「――来るよ!?」




オタ・クールが叫ぶ。




マジカル・キュアの三人はこちらへ詰め寄り、ファイアが一歩、こちらへ近寄ると――



「悪の蕾は焼いちゃうぞ♪

マジ・ファイア!」




そして、アクアが向かって右手に立ち、手を掲げる――



「母なる海は、私の友達!

マジ・アクア!」




最後に、ミドリは左手に立ち、祈るようなポーズで――



「いけない子たちよ、私が植え替えてあげる!

マジ・ミドリ!」




そして、三人は、声を合わせて――



「マジカル・キュア!!」




三人はキメポーズでドヤ顔をする。




……




あれ?




自己……紹介?




い、今更?



「――ふふ!

現れたわね!」



「今日こそは倒させてもらうぞ」




オタ・クールとウザダーの二人は、テンプレ通りの答え方をする。




というか、さっきまでの流れは……!!




例の聖者の光の流れは何だったの!?




俺の残念な溜息を余所に、シオティンは俺の方を見て、何やら急かす。



「……兄貴」



え!? 俺も……何か言えと?



「コクコク」




俺の目の合図に、シオティンは頷く。




この状況で、どんな反応しろというんだよ……




シオティンは何の期待をしているのか分からないが、俺を期待の眼差しで見上げていた。




ふう。仕方ない。妹の期待に応えるか。




そして、俺は仕方なく、彼女たちを目で捕える。



「その……ヤンデレ治って良かった……な?

ああいう一面も悪くなかったかな?」



「「「――うっ」」」




俺の言葉に、マジカル・キュアの三人は真っ赤になって硬直した。



「な、何言ってんのよ!? あんた!」



「悪くなかったって、どういうことよ! この変態!」



「その、あれは違うんです! 私は普通です!」




三人は必死に弁解する。



「ええぃ! 今日は引くぞ! この野郎!」



「――マスター!?」




猿の声に、マジカル・キュアは慌てる。



「……今日は、仕方ない。

聖者の光も躱されたんだ……

それに、今のも含めて、お前たちの心の乱れも半端ない……この野郎!」




猿は悔しそうにそう述べる。



「次こそは容赦しない!

聖なる光は、悪には届かないぞこの野郎!

これは戦略的撤退じゃぁボケェ!」




猿は捨て台詞を吐く。




が、文法がおかしい……




届かないとヤバイだろう。




もう、何と言うか、滅茶苦茶だった。




俺はいろいろと残念な気持ちになり、頭を抱える。




すると、猿の言葉に反応したファイアは俺の方を睨む。



「……ミドリを……よくも。

次は容赦しないわ!」




ファイアはそう言うと、空気に溶け込んで消える。




アクアも同じように、



「私は別に構わないと思ってるけどね。

でも、あなたとシオティン。

その関係がちょっと腹立たしいから、次は全力でいくから」




そう言って、空気に溶け込む。




その関係って……




俺たちの正体は知らないはずだが、俺とシオティンのやり取りを見て、被るのだろう。



アクアが俺たちの正体に気付くのも時間の問題のような気もする。



「……その……デート、嫌じゃないですから……」




ミドリはそう言って、同じように消えた。




――マジか。




俺、意外にモテるのか?




ミドリの言葉に、俺は妙に浮き足立ってしまう。




すると、



「え? 勝った……の?」



「おおおおおおお」




オタ・クールとウザダーは、感激の様子でそれを見守っていた。



「兄貴! やったね! 悪の勝利だよ!」




隣で、シオティンも歓喜する。




――すると、



「な、なん……あ……悪のブラック・マグマが……勝っただと!?」



「キャーーー!! もう終わりよ!

私たち、あの人たちに襲われちゃうわ!」



「やべぇぞ! 逃げろぉぉぉ!」




いつの間にか群衆に囲まれていたようだ。




周りの人々は、そう叫ぶと、俺たちに恐怖の眼差しを向けながら、散り散りに逃げ出した。



「な、何なんだ……この展開、良いのか?」




俺はひとり呟き、脱力した。




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