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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
8/63

第8話:役者は揃った

「ふぉふぉふぉふぉ! 今日は活躍だったのぉ!」



ボスはご機嫌だった。




どうやら、俺の……告白?


が、ミドリに対して、ドキドキを与えたらしい。




「あ、ありがとうございます……」



俺はげんなりして、お礼を言った。




「ぶーぶー」



詩織は隣でふくれている。




何とか、お前を守るためだとか適当言って、いつもの詩織に戻らすことができた。




「それに引き替え……ウザダー?」



ボスは、項垂れていた忠之に声をかける。




「は、はひ」



忠之は咬みながら答える。




「お主はいつになってものぉ。

不器用じゃで。

――だが、この二人を連れてきたお主の眼力は認めておる。

なので、単純な不器用なのじゃろうな」



「……すみません」



忠之は、その言葉に対して余計に自己嫌悪に陥ったようだ。




「お主は、ヤンキー校の番長で、強いはずなのじゃが……

オタ・クールとシオティンが強過ぎるのもあるのかも知れぬが、あとは、もう少し要領を良くすることじゃな」



ボスの言葉に項垂れる忠之。




しかし、ヤンキーで有名な学園の、しかも番長とは。




番長……古いな。昭和だな……




いや、それより強い、白瀬さんと詩織って、一体……




「さて、では本日の給与を――」



ボスがそう言った時、ボスは俺たちの後ろを見て、牙を出してうなり始める。




「な、どうした!?」



ボスの様子は、すぐにでも飛びかかろうという体勢だ。




俺と詩織は、危険な気配を感じ、距離を取って、後ろを振り返る。




すると、そこにいたのは、




「……猿?」



「……猿だね。兄貴。しかも、不細工だね」



そう。そこにいたのは、猿だった。




ニホンザルのような容姿なのだが、何せ、デブすぎる。




手にはリンゴを持ち、ヨダレを垂らしながら、かぶりついている。


これは、流石に可愛くはない。



すると、




「あんた、不細工って言ったね?

バラすぞこの野郎! 乙女だぞこの野郎!」



やけに口の悪い猿だった。




しかも、乙女って……




俺はついつい、憐みの視線を送ってしまった。




「あんたも、あたいにそんな視線を送るなんて……

あたいにホレたか? この野郎!」



しかもバカだった。




これ以上、関わりたくないので、ボスに尋ねる。




「あの、ボス。このエテ公は一体……?」



「エテ公だと、この野郎!

これで指詰めてみろって言ってんだ、この野郎!」



突っ込みたくないので、俺は猿をスルーして、ボスに答えを促した。



「ふむ。こいつは、敵の親玉じゃ。マジカル・キュアのな」



ボスは牙を隠したものの、鋭い視線は猿を捕えたまま、そう答えてくれた。




マジか……この猿が、マジカル・キュア側の神!?




どこからどうみても、残念にしか映らない猿。




俺は虚無感を覚える。




犬と猿ね……勘弁して欲しい…




「そうだ!

分かったら、土下座しやがれ!

この腐った下種で下賤な人間ども!

私は聖なる神だぞ! この野郎!」



と、残念な猿が叫ぶ。だが、その時、




「うりゃ!」



詩織は、その猿に向かってパンチした。




クリーンヒット。




「――くぁwせdrftgyふじこlp!!」



猿が吹っ飛ぶ。



「な、何してくれたんだこのクソ人間!! ゴルアァァ!! てめえに神罰与えるぞ! この野郎!!」




猿は起き上がりながら、まさに怒髪天を衝いていた。



「――それで、何の用じゃ? 聖なる神よ」




ボスは今までのやり取りをスルーして、猿に尋ねた。



「用だと? この悪なる神よ。

お前の所に新人が入ったと聞いてな。どんな玉か見に来てやったのよ。

――結構、こちらが酷い目にもあってるんでね」




猿はそう言って、俺たちを睨む。




「ふふ。面白いな。

いきなりこの私にパンチしてくる人間はいないぞ!?

良い新人を見つけたな? 悪なる神よ」




猿はニヤリと、笑みを浮かべる。



「そうでこそ、面白い!

さぁ、戦おうぞ、この下種なる人間どもよ。

我らの力を用いて、その下種なる器を――」



「うりゃ」




詩織がパンチする。




だが、猿は避ける。




避けた瞬間、猿の前足から光が生まれる。




「このバチ当たりの下種が。

少しお灸を据えてやろう……

くらえ! 我が――」



「うりゃ」




詩織が返しでパンチする。ワン・ツーというやつか。




今度はクリーンヒット。



「――くぁwせdrftgyふじこlp!!」




猿が吹っ飛んだ。




吹っ飛んだ拍子に、猿が前足から出していた光球が、猿の顔面に叩きつけられる。




「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




猿が悶絶していた。




……と、悶絶すること、数分。



「て、てめぇぇぇぇ!!

あたいを本気で怒らせたな!!

やるぞ!! やってやんよ!! この野郎!!

ハルマゲドンだな!! そうか、ハルマゲドンだこの野郎ぉぉぉぉ!!」




猿はそう言って、咆哮する。



「見てろ!!

てめぇらに地獄すら生ぬるい恐怖を与えてくれるわぁぁ!

楽しみに恐怖を待っていやがれぇぇぇぇ!! 宣戦布告スゥゥゥ!」




猿はそう言って、半分かじられたリンゴを投げつけた後、瞬時的に消える。



「――あ、逃げた?」




すると、そこに残されたのは沈黙。




そして――そのリンゴを顔面に受けて伸びている、ウザダーの骸……




一体、何がどうなったのか、分からずにいた……のだが、俺は冷静さを取り戻す。



「な、なあ。詩織? 何で、パンチ……したんだ?」



「え?」




詩織は驚いて、俺の顔を見る。


いや、何で驚くんだよ。驚いてるのはこっちなんだが。



「だって、敵じゃん!

ムカつく言い方してたし!

あんな猿、変身しなくてもパンチですっ飛ぶよ!

ボテボテだったし!

それに兄貴にホレさせようとしてたし!」




恐らく最後の言葉が真実の百パーセントだろう。




まぁ、ある種、感情に任せる詩織らしいといえば詩織らしいのか……



「……ふぅ。とうとうこの時期……かの」




ボスはため息交じりに、そう呟く。



「あ、やっぱり……まずかったですか……?」




詩織はテヘペロの表情で、ボスに問いかける。




何か、ムカつく表情だ。



「いや、どうせ、いつかは決戦するときが来る。

それが、今しがた決定しただけのことじゃ」




ボスはそう言って、上を向く。



「本格的に、戦うぞ!! 情けは無用じゃ!」




ボスはそう言って、犬の咆哮を上げた。



「よいか!

ドキドキさせるのも忘れてはならぬぞ!

それは変わらん。我らの目的は戦いよりもドキドキじゃ!」



「そ、そうなのか?」



「そうじゃ!

それに、ドキドキはあの猿の力を弱めるからの!

覚えておくとええぞ」



「ま、マジか……?

じゃあ、さっきのは結構ダメージを喰らったんじゃ……」




ドキドキさせる目的の俺たちと、それを邪魔するマジカル・キュア。

その因果関係と関連がありそうな話だった。



「ふぉふぉふぉ。報酬は今まで通りやるからの」



「――あれ? そうなると、今までと変わらないんじゃ……」



俺は疑問をぶつける。



「いや……最終決戦に近いものになる。

だから、覚悟を決めた戦いになるじゃろうて。

ウザダーにも、オタ・クールにも、協力をしてもらわねばの」



「な、なるほど」



俺は下に転がっているウザダーを見ながら、微妙に頷いた。




……



……




――そして、次の日。


いつものように寮を出て、学園に登校する途中で白瀬さんと出会った。




「話は聞いたわよ」



「あれ? もう聞いたの?」



「ええ。昨日、ちょっと用事でアジトへ顔を出したから」




俺と白瀬さん、そして詩織が並んで、学園への道を歩き出した。



「そっか。まぁ、どんな感じになるのか予想できないんだけど……」




俺がそう言うと、白瀬さんはにっこり笑って、



「大丈夫。今まで通りよ。

まぁ、もっと激しい戦いになるとは思うけど」




そう言った白瀬さんは、何か楽しそうにしていた。




笑顔が可愛く、ちょっと見とれてしまう。




……のだが、横で詩織が随時チェックしているので、俺は悟られないように話題を変えた。



「そういえば、ブラック・マグマの活動内容は恐怖じゃなくて、ドキドキなんだってな? 恐怖じゃなければダメだと思ったよ」



「ドキドキは恐怖でしょ? 同じこと」




そう言って、白瀬さんは、ドキドキと恐怖は同義であることを示した。




まぁ、白瀬さん……らしいのか?




白瀬さんは淡泊で読めない性格もあり、不思議な人物だなと感じた。




見た目はツインテールとアンダーリムの眼鏡が似合っていて可愛らしい感じがするのだが。




だが、あの強さも、マジカル・キュアにはやられてたんだよな……




俺はふと思う。




マジで戦うことになったら、俺は瞬殺だろうな……



「あ、叶ちゃん!」




すると、今まで黙っていた詩織が、前方に緑川さんを見つけて、声をかけた。



「……」




だが、緑川さんはうわの空で、詩織の声は聞こえていない様子だった。



「なんか、昨日からあんな様子なんだよね」




そう言った後ろの声に振り向くと、そこには赤城さんがいた。



「昨日から? 何かあったの?」




詩織は赤城さんにそんなことを訪ねた。




っていうか……




普通に考えて、俺のせい……だよな……




だが、俺しかこの事実を知らないわけだから、何と言うか、居心地が悪い。



「……依光先輩? どうした?」




隣の白瀬さんが、俺の表情が強張っているのを見たのだろう、変に気にしてくれた。



「い、いや何でもない……よ」



「そうか。じゃあ、私は行くから。また後で――」




そう言って、白瀬さんは先に行ってしまった。



他の人たちも合流したため、ブラック・マグマの話ができなくなったから、場を離れたのだろう。



「――え!? 男の人に!?」




すると、赤城さんに尋ねていた詩織が驚きの声を上げた。



「そうなるのかな……もう!

本当に、あいつめ!

許さない……!」




赤城さんはそう言うと、怒りと共に闘志を燃やしていた。




マジか……




結構、怒らせてしまったようだ。




すると、葵の方も怒っているだろう。

……こうなると、本気で決戦となるのが目に見える。



「でも、叶ちゃん、モテるなぁ。

いいなぁ。私も兄貴にモテたいなー」




詩織は呑気にそんなことを言っている。



「でも、そんなに嫌なやつなの?」



「ええ。

詳しくは離せないけど、私にとっては……ある意味敵のような感じだからね……それに、軽い男だわ……四角関係なんて……葵も全く……」



詩織の問いに、赤城さんは怒り心頭で答える。


最後の方は呟くようになっていたので、あまり聞こえなかったが、終始ご機嫌斜めだ。




俺は居たたまれなくなり、歩く歩調を落として、少し二人から距離を置く。




緑川さんは、二人の前をフラフラと酔っぱらいのように歩いている。




うーむ。




確かに、スケープゴートに使うには、純粋過ぎてしまったかも知れない。




俺は少し反省する。



「あ、依光君!」




すると、後ろを振り返って、赤城さんが笑顔で呼びかけてくれた。



「お、おう」



「この前はありがとね! また話そう!」




そう言って、可愛い顔を俺に向けてくれた。




……のだが、俺は罪悪感で変な顔しかできなかった。



「えー! 何!? 何の話!? ずるいよ!」



「ふふ。じゃあ、今度詩織ちゃんともお茶しようかなー」




二人はそんなやりとりをしながら、学園までの道を歩いて行った。




俺は……




この複雑な関係性に頭を痛めていた。




……



……




「それじゃあ、みんな気を付けてねー」




若くはないが、美人の田中先生がホームルームを終えた。




一応、今日もアジトへ行く予定なのだが、昨日のことがあったので、何故か不安になっていた。



「うーむ。どうしよう……」




クラスメイトが帰宅する中、俺は席でドキドキさせる秘策を考えていたのだが、何も思いつかない。




あの猿のことだ。きっと何かをしてくるような気がしてならない。



「あれ? 依光君、珍しいね」




机で頬をついて考えていると、赤城さんに声をかけられた。



「ん、ああ。ちょっと考え事かな」



「へぇ。何なら、相談に乗るよ!

この前相談に乗ってもらったし」



「いやいや、途中で詩織の邪魔が入って、相談されてないし!」



「あ、そうだっけ!? アハハ!」




赤城さんは明るく笑う。



うん。美人で明るくて、何よりも人懐っこい優しさを持っている。




これは人気出るよな、と改めてまじまじと赤城さんを見てしまう。



「ん? どうしたの?」



「いや、赤城さんって人気ある理由が分かった気がしてさ」



「え? 私、そんな人気あるわけじゃないと思うけど……」



「またまたー。いつもクラスの皆に引っ張りだこじゃん」



「あぁ……まぁそうなんだけどね」




気のせいか、赤城さんは少し影を落とす。




その見たことのない表情に、俺は少し焦ってしまう。



「そ、それより、赤城さんも珍しく残ってるんだね」



 

話の内容を逸らして、俺は明るい声を出した。



「うん。葵と待ち合わせなんだ!」



「え!? 葵と?」



「そうそう!

あ、そういえば、詳しく聞きたいなー。

葵と依光君くんのこと! 幼馴染だったんでしょー!」




赤城さんの影は消え、また明るい声が教室に響き渡った。




既に教室には誰もおらず、いつの間にか二人っきりになっていた。



「詳しくって言っても、昔三人で一緒に遊んだだけだし……」



「聞いたよー! わざわざ隣町からここまで来て遊んでたらしいね!」



「そうそう。探検したりしてね。神社の方とかにも行ったりしてたし」




俺は懐かしくなる。




よく小高い山の頂にある神社で遊んだものだった。




だが、幼いころだったので、今はどこにあるのかも分からない。




よく、かくれんぼとかしてたっけ……



「神社……?」




赤城さんは、俺の言葉の意味が分からなかったようで、首を傾げていた。



「あ、ああ。昔なんだけど――」




俺は、三人でよく遊びに行った神社のことを話す。




古びた神社だったけど、周りは綺麗で、森に囲まれている神秘的な場所だった。



「――へぇ。私知らなかったなぁ。ずっとこの街にいるのに」



「あれ? そうなの?」



「うん。

小高い山……は、もちろんいっぱいあるけど、その上に神社かぁ。

それは知らなかったよ! 思い出したら連れて行ってね!」




そんな可愛い笑顔をされて、しかも連れて行ってとか言われてしまうと、その神社を絶対に探したくなってしまう。



「分かった。探しておくよ!」




俺も少し期待して、そう笑顔で答えた。



「でも、葵もうらやましいな……何となく分かる気がするかも」



「――え?」



「ううん! 何でもない!」



聞き取れなかった声に、赤城さんは顔を真っ赤になってはぐらかした。




すると――



「ん……?」




扉の影から、座ってこちらを覗き込んでいる不審者がいた。




しかも、声が聞こえる。



「見まして? 奥さん? あれがリア充ですわよ?」



「ええ、見ましたとも。でも、あれはリア充じゃなくて、ただの勘違いですわ」



「勘違い?」



「ええ。ああやってフラグを立てたつもりになってますが、これはデスフラグですわ!」



「なんと!」




……どう聞いても、詩織と葵の二人の声だった。




しかも、何で死亡フラグになってるんだよ。

何もそれらしいこと言ってないだろ。



「てぃ」




俺は、葵の頭にパンチする。



「ぎゃぃて!」




酷い悲鳴を上げて、葵は立ち上がった。



「な、なにするでごわすでございますか!」




キャラが壊れたまま、葵が頭を押さえて悲鳴を上げる。



「葵、お前、よその生徒がここまで来て、大丈夫なのか?」



「ふん!

遅いから詩織ちゃんに案内されて、ここまで来たって寸法よ!

大和ぉぉぉ!」



「何で、中二バトル風になってんだよ!」




葵と詩織は、キャラが被っていて、似ている部分が多い。



だから仲も良く、互いが互いの影響を受けているのだが、葵のこのような態度は俺たちの前でしか見せず、余所行きでは清楚系を売りにしている。




それに、詩織も黙っていれば清楚系なだけに、よく姉妹と間違えられてた程だった。




まぁ、葵の方はツンデレが入っているが。



「葵」




その時、赤城さんが俺たちの間に入ってきた。



「葵は、依光君が絡むと、本当、印象が変わるね!

私たちにはずっと猫かぶってたんだぁ~?」



「そ、そんなことない!」



葵は、ツーンと、頬を膨らます。



「もう!

分かりやすいんだから――って、もう行かなきゃ!」




赤城さんは教室内の時計を見ると、葵に向かって、急かしだす。



「え? もうこんな時間!

せっかく大和と話せ――じゃない!

何でもない! 急ごう!」




そう言った葵は、踵を返して、急いで教室を出て行った。



「あ、ちょっと!

――依光君、ごめんね。また明日ね!」




赤城さんは俺にそう言うと、葵の後を追って出て行った。



「……一体、何なんだ……」




俺は放心状態になりながら、今まで言葉を発してない、我が妹の姿を視界に捕える。



「兄貴はフラグを立てることにご執心のようで」




と、ジト目で俺を睨んできた。



「だから、フラグじゃないっつーの。

それより、何だったんだ? 今の」



「さぁ……

でも、葵ちゃんとはあんまり話せないね。

せっかく久しぶりに会ったのに」



「まぁな。

でも、連絡先は聞いてあるから、会おうと思えば会えるんじゃないか?

また、久しぶりに遊びに行くのも良いかもな」



「あ、良いね! 神社でかくれんぼしよっ!」




そう言って、詩織は腕を絡めてくる。



「――おい、やめろって」




教室内ということもあり、流石に恥ずかしくなって腕を抜こうとするが、詩織はがっちりホールドしていた。



「そういえば、兄貴?

あの神社で綺麗な石拾って、私にくれたよね?」



「あれ? そうだっけ?」



「もう! やっぱり忘れてる!

私にプレゼントしてくれたじゃん! 婚約指輪だって!」



「――!?」




その言葉に絶句する。




そうだ。思い出した……




確かに、あの神社に、綺麗な青く光る小石があった。




宝石のようだが、またそれとは違う、神秘的な石だった。



供えてあるものかとも思ったが、神社の裏手にある土手に落ちてあったので、そうではないと思ったので、拾って、妹の詩織に見せたのだ。




その時、ませた妹は


「じゃあ結婚の約束みたいなもので、もらっとくね!」


と言って、そのまま――




「ううう……」




俺は冷や汗をかく。




実際、指輪ではないが、それに近い感情が入っている物に違いない。




すると、詩織は悦に入り、語りだす。



「――だから、素敵な思い出があるし、

私たちはもう、離れられない運命なの!

あれからずっと肌身離さず持ってるんだから!」




まぁ、確かに兄妹だし離れられないとは思うが、このテンションはヤバイな……




俺は何か言い訳を考えるものの、何も思い浮かばない。




すると、



「よし! 私たちも行こう! 兄貴!」



「お、おい!」



俺は詩織に強引に腕を組まれたまま、教室を後にする。




そのまま廊下を引きずられるような形で、昇降口に差し掛かった時、



「依光先輩、詩織さん」




袋を持った、白瀬さんが声をかけてきた。




今日のバイトは、白瀬さんと一緒だったので、聞いてみることにした。



「やぁ。まだ行かないの?」



「ええ。今日は少し遅くなる。委員会があるから」




そう言って、白瀬さんは少し微笑んで、アンダーリムのメガネを持ち上げる。



「委員会に入ってるんだ?」



「――あ、もしかして図書委員?」




すると、詩織が会話に入ってきた。



「ええ。よく分かったわね」



「だって、本持ってるから!」



詩織がそう言ったので見てみると、確かに、白瀬さんは数冊の本を袋に入れて持っていた。



「そう言うことだから、先に出動してて」



「え? 先に行ってて良いのか……?」



「直ぐに追いつくから問題ないわ」



「ああ、分かった。んじゃあ、また後で」




俺はそう言って、詩織と昇降口へ向かおうとすると、



「――あ、そうそう。

もしかすると、黒滝先輩も今日は来るかもね」




白瀬さんが少し嫌そうに、そう言った。




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