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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
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第7話:ドキドキ!

「ふふふ~ん♪」



詩織はご機嫌だった。




それもそのはず、詩織は買ってもらったバレッタを髪につけて、終始笑顔を振りまいていた。




本当は指輪が良いとゴネたのだが、流石にハードルが高すぎたので断った。




そこで、綺麗な髪をしている詩織なので、アクセントと思い、バレッタを薦めたところ、妙に気に入ってしまったようだ。




「似合ってるぞ」



俺も素直に褒める。




「うふふぅ~。

兄貴、もっと私の事褒めていいんだよ。

なんなら、言葉責めで凌辱を――」



「コ、コホン」



すると、隣にいた忠之が咳払いをした。




俺たちはバイト先のアジトに到着していた。


これからマジカル・キュアを怖がらせなくてはならない。


――いや、正確にはドキドキさせないといけない。



今日のパートナーは白瀬さんではなく忠之だった。




「ふぉふぉふぉふぉ。しかし……」



今まで黙っていた子犬――もとい、ボスはが口を挟む。




「のぉ。ヤマティン。

おぬし、戦ってない時も、マジカル・キュアをドキドキさせおったな?

今日の報酬は弾むぞえ」



「……え? マジで?」



ボスがそんなことを言ったので、皆が驚く。




そんな覚えはないんだが、いつどこで誰にそんなことをしたのだろう……?




「あ、兄貴!?

そんなこと、いつの間にやってたの?

しかも、ドキドキ!?

何、それ! 私をドキドキさせなよ!」



矢継ぎ早に詩織が俺に食って掛かる。




「お、落ち着け? な?」



「これが、餅ついてられますかーー!」



ダメだ、壊れてきた。




「うむ。俺も詳しく聞きたいな」



忠之も食いついてきた。




――ので、俺は簡単に説明する。




のだが、俺は全く見覚えにないので、とりあえず、ドキドキの部分だけ説明した。




詩織は既に知っていたので、主に忠之への説明となる。




ただ、詩織は、俺がドキドキさせたことに不満があるようだった。




「なるほどな。

俺も白瀬殿からは、恐怖と聞いていたが、ドキドキで良いのか。

……ふふ、それならば、やりようがあるというもの!」



忠之は無意味に興奮していた。




「兄貴、ドキドキさせて、しかも自分の知らないところで、それが行われていたという判決が下ったことでFA?」



「あ、あぁ。そうみたい……だな」



嫌な予感がする。




「つまり、マジカル・キュアをいつの間にかドキドキさせていたってことで、相違ないか?」



「ま、まぁ、ボスが言うにはだが……」



「何をおっしゃいまするか? ござる?」



あぁ……詩織が壊れかけてきた。




「ふぉふぉふぉ。

まぁ、その辺はいいじゃろ。

それよりも、仕事じゃよ」



すると、ボスが助け船を出してくれる。




「何はともあれ、きゃつらを含め、この街の人々をドキドキさせよ。

我がパラメータ計測器でそれを測っておる……報酬は弾むぞえ?」



ボスはそういうと、前足で顔を掻いた。




「――そうだね!

負けてらんない。

私は勝たないといけないのよぉぉぉぉ!」



詩織は意味不明に絶叫して、十字架を取り出す。




「ヒャハハハハ! 我が兄貴! 我を食らえ!」



カッコイイが、勘弁してほしいセリフと共に、詩織の体から光が溢れる。



そして、忠之は黒い手鏡を出して、気持ち悪い笑顔を作る。




変身の方法らしいが、本当にあの姿は気持ち悪いというか、ウザいというか……




すると、忠之も同じように光が溢れる。




何はともあれ、俺も変身するか。




「……ヒ、ヒャハハハハ!」



そう叫ぶと、俺も同じように光に包まれ、その姿が変わる。




前回も思ったが、この光――どこかで……




光に包まれながら、俺の思考は加速する。




恐らく、一瞬の出来事なのだろうが、俺には長く感じる。




どこか……幼い時か。




――視界が戻る。




「兄貴、やっぱり、カッコイイぞぉ!」




そう言った可愛い恰好をしたシオティンが抱き付いてきた。



「そ、そうか? しお……ティンも、可愛いかな?」



「――お、お兄ちゃん。

……ありがとっ」



しおらしくなったシオティンが、真っ赤になって、モジモジ始めた。




「行くぞ!」



と黒ずくめになった、ウザダーは、さっさとドアを開けて、出ていく。




「お、おい! 待てって!」



「お、お兄ちゃん。

一緒に手を繋いで行きたいな……?」



あぁ! シオティンが!




「くっ!」



俺はウザダーの後を追って、アジトを後にする。




「待ってよぉ! おにいちゃーーん!」



後ろからシオティンの声がする。




やっぱり、こうなった妹には逃げるしかない。



俺は階段を下りて、商店街へと飛び出した……のだが、既にウザダーの姿はない。




ウザダーの黒ずくめは、黒いマントに怪盗マスクなので、見るからに怪しい恰好だから、すぐ見つかると思ったが、足が速かったようだ。


すっかり見失ってしまった。




「ったく、どこ行ったんだ?」



すると、遠くの路地から、




「キャァァァ! 変態よぉぉぉ!

い、いや!? ブラック・マグマ!?」



分かりやすい絶叫が聞こえた。




始めたか。


っていうか、変態って、あいつ何をしやがったんだ……




俺は声のする方へ急いで向かう。




俺とすれ違う買い物客は、怯えたように道を開けていく。




確かに、ブラック・マグマは怖がられている対象なんだと改めて思う。




「いやぁぁぁ!」



また、女性の悲鳴が聞こえる。



あいつ、何やってるんだ?


嫌な予感がする。




人だかりが出来ているのを発見し、俺はそこへ飛び込む。




俺の姿を見た人々は、驚いて距離を空けてくれたので、すんなりとその中へと入ることができた。




そこに、例のウザダーの黒ずくめの姿があった。




「な、何やってるんだ?」



「ふ、知れたこと。

ドキドキだから、ドキドキさせてやったまで。

夫人のスカートを捲ってな」



そう言ったウザダーは、ドヤ顔で誇らしげだ。




……痴漢行為をしていやがった。




「とりゃ!」



すると、シオティンは可愛い声を上げ、ウザダーの急所をかかと側で蹴り上げた。




「――くぁwせdrftgyふじこlp!!」



声にならない悲鳴を上げたウザダーはその場に倒れ込む。



「……女性の敵は、どんな理由があろうと私が許さないから」



シオティンは、ゴミクズを見るような目つきでウザダーを見下ろす。




こ、こえぇぇ……




やはり、この妹を敵にするのだけは止めておこう……




俺は改めて、神に誓いを立てた。




と、その時、




「そこまでよ! ブラック・マグマ!」



大きな周りの歓声と共に、空から現れたのは、マジカル・キュアの面々。




のだが……




「……あ、あれ?」



ファイアは俺たちの様子を見て、疑問の表情を浮かべる。




「あ、やっつけたから」



シオティンは、彼女たちに向かってそう言い放つ。




「や、やっつけた……の……ですか?」



「ど、どういうこと……」



ミドリとアクアも同じように疑問の声を上げる。




「女性のスカートを捲る、不届きな変態野郎は、この私が許さないわ」



シオティン、カッコイイ!!




と、俺が悦にしたると、周りの人々も、




「すげぇ!

あの悪者の姉ちゃん、カッコイイぞ!」



「カッコィィ!

よく見ると、美人だわ!

私、ファンになっちゃうかも!」



「本当だ……すごい可愛い子だ……」



周りの人々は、シオティンのスタイルに惚れ惚れしているようだった。




これは、兄としては誇り高いものの……マジカル・キュアの方は大丈夫なのか……?




この隙に攻撃される可能性もあるので、距離を保ちながら俺は彼女たちの観察を始める。




ファイアとミドリは、ぼーっと周りの反応を見ていたので、とりあえず安心。



まぁ、この反応は確かに驚きだろう。




だが、一人だけ。




「な、なん……だと……!?」



アクアの驚愕の表情は苦悶に満ちていた。




あいつは、昔から負けず嫌いだったからな……




アクアの本体――葵について、俺は思い浮かべた。




見た目は清楚な感じ。


これは詩織と全く同じなのだが、やはり中身も詩織と似ている。




こいつらの見た目に騙されて、ズダズダにされた男どもは数知れず。




「あら? アクアさん?

悔しいの? 人気を取られたから?

まぁ、貴女みたいな勘違い女性はどこにでもいるからね」



と、その表情を読み取ったシオティンは、アクアに向けて挑発的な言葉を投げる。



そして、更に追い込む。




「あなたって清楚なイメージなのに、意外に人気取りで嫉妬深いんだね。

私は善意でやっつけただけなのにねー」



「――!」



その言葉を受けて、アクアは悔しそうにこちらを眺める。




っていうか、シオティン、周りに褒められた影響でキャラ変わってないか……




「分かったわ、アクア。

あなた、さては――ヤンデレね!」



シオティンは、とどめとばかりに、アクアに指を向けて、言い放った。




「……ざわざわ」



「……ざわ……」



周りの人々が噂を始めだす。




「ヤ、ヤンデレだってよ」



「まじかよ……俺、結構好きだったのに」



「やべぇって。切られて料理に使われるぞ」



「ヤンデレ萌えるわ」



周りからの異様な雰囲気を受けて、アクアは半歩下がる。



「アクアは、そんなことないわよ!」



「そ、そうです!

アクアはとってもいい子で――」



ファイアとミドリが、アクアに対してフォローする。




のだが、なんだろう……この展開。




「……なんか、あなたはライバルっぽい感じがするから、手加減できないみたい……」



そんなことをシオティンは言い出した。




その推測は当たっている。


あいつは葵をライバル扱いしてたからな。




「何それ!

訳分からない!

――挽肉にしてやるよ! ブラック・マグマ!」



「す、少し落ち着いて、アクア!」



「そうです! 落ち着いてください!」



どうやら、いつものキャラじゃないアクアに戸惑ったのか、ファイアとミドリがアクアを窘める。



だが、すっかりシオティンのペースに乗せられてしまったようで、その声は聞こえていないようだ。




……さて、俺はどうしようか。




あちらを見る限り、シオティンとアクアの一騎打ちでも始まりそうだ。




まぁ、俺がシオティンのフォローに入っても良いが、そうなると結果的に三対二。分が悪くなる。




……ウザダーはすっかり伸びているし。




要は、ドキドキさせればいいんだっけ。




戦わなくてもドキドキさせればバイト代は出るし。


セクハラ以外で何か無いだろうか。




考えてみるものの、何も思いつかない。




そんな時、




「兄貴!」

「ちょっと、そこの貴方!」




シオティンとアクアの声が俺に向けられて発せられた。




「な、何!?」



尋常ではない雰囲気なので、思わずどもってしまう。



「「――私とこいつ、どっちが魅力的なの!」」



もの凄い剣幕の声で、二人の声がハモる。




しかし、一体、何事なのだろう。


俺は思わず、ファイアとミドリを眺め見た。




「……」



俺の方を見て、苦笑いする二人。


何故か、この瞬間、敵同士だというのに親近感が湧いた。




「ど、どういうことだよ?」



「決まってるでしょ!

私をヤンデレ扱いした、この残念な胸の人をここで窮地に追い込むのよ!」



「ざ、残念な胸ですって!

このすっとこどっこい!

私に人気が出たからって、貴女みたいな、ぶりっ子オカマに言われる筋合いないわ!」



「だ、だれが、オカマですってぇ!

私は誰がどう見ても女の子よ!」



二人の怒りは頂点に達していた。




それに加えて、周りの観客は盛り上がっている。



しかし、残念な胸とは……


妹の唯一の欠点を見破るとは、恐ろしい幼馴染。




「「――で、どっちなの!」」



二人は再度ハモりながら、俺を睨む。




「え、えーと……」



俺は逡巡する。


こんな、どちらを言っても地雷みたいなのは止めてくれ。




――いや、待てよ。




俺の立場的に、普通にブラック・マグマのシオティンを応援すれば良いのだ。




なるほど、そうか!




「俺は――」



「私を選んでくれたら、今日の夜は離さないであげるからね!

兄貴!」



……あの残念な妹が、そんなことを言ってしまった。




「こりゃすげぇ! 熱い展開だ!」



「あぁ! あんな熱烈な言葉、職場内恋愛だな!」



周りは騒ぎ始める。



妹を選んだら選んだで、俺は引き返せない窮地に立たされそうな気がしてどうしょうもない。




「私を選んだら、そうね。

何でも貴方の言うことを聞いてあげるわ」



アクアはそんなことまで言い出した。




「うぉぉぉ! すげぇ!

なんだこのバトル! 今までで見たことないぞ!」



更に、周りはヒートアップ。




俺は助けを求めるように、ファイアとミドリを見てしまう。




「あ、……が、頑張って♪」



「ファイトです♪」



二人は、俺に全てを一任した。




な、何なんだ! この展開!




「ア・ク・ア! ア・ク・ア!」


「シ・オ・ティン! シ・オ・ティン!」



二人のファンが、周りでコールし始める。




「修羅場きたーー!」



「私、こんなの初めて見る!

どっちを選ぶのかな、あの彼氏」



更に周りはヒートアップ。



「――くっ」



俺は……覚悟を決めるしかないのか。




シオティンとアクアは火花を散らしながら、横目で俺を睨む。




「「さぁ、選んで」」



二人の声が悪魔に聞こえる。




「……」



俺は、肝を据える。




「――俺が魅力的だと思うのわァァ!!」



俺は高らかに絶叫してやる。




「……ゴクリ」



皆が、俺の言葉を待つ。




「ミ、ミドリさんで……」



俺はミドリの方を向き、「ずっと前から決めてましたぁ」風に、手を出しながらお辞儀をした。




「へ、へ! わ、わたし!?」



ミドリは驚いて、顔を真っ赤にした。




すると、




「うぉぉぉぉぉ!

三角関係だぜ! これ!」



「いや、四角だぞ!」



「あぶれたファイア、何か可哀相……」



周りのボルテージは際骨頂。



いや、もう、こうするしかないだろ。




ありきたりだが、第三者をスケープゴートにするしか……




するとその時、




「あ、あの……わ、私、そんなこと男の人に言われたの、は、始めてで、その……あ、でも、嫌いとかじゃない……ですよ!?

あ、でも敵同士なんですよね……」



ミドリはまんざらでもない様子になっていた。




「マジかよ……」



俺は、ここである程度寒い雰囲気になって欲しかった。




そして、なし崩し的に、いつものバトルへと進捗するものと思っていたのだが……




「お、おにい……ちゃん……」



シオティンが俺の方へゆっくりと歩いてくる。




しかも、ヤバイ言葉使いになって。




「――くっ」



逃げるしかない。




「く、お前ら、覚えていやがれ!」



俺はザコのセリフと共に十字架を掲げ、エスケープボタンを押すしかなかった。




「あ、待ってよぉ! お兄ちゃん!」



そう言ったシオティンもエスケープボタンを押したようだ。




俺たちは光に包まれて、戦線を離脱することとなった。




……ウザダーを置いて。




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