第61話:最終戦争 ~ 決着
脱力光線……いやいや、あそこまで脱力させられる効果があるとは……
正直、大したレベルじゃないと思ってたけど。まぁ、皆の反応見ると、全員がそう思ってたんだろうな。
「ま、まぁ、アクアの事は置いておこう。この際」
と、来るべき未来から目を背けることを俺が選択すると、無言で赤城さん、白瀬さん、忠之の三人が頷いた。
ちなみに、ボス、エテ公、葵の三人は詩織にやられて、背後で未だに伸びている
「あ、そういえば、緑川さんは……!?」
「……叶!!」
赤城さんは叫んで、緑川さんが吹き飛ばされた場所へ駆け寄る。
そう言えば、俺への攻撃の余波で、吹き飛ばされてたんだった!
「小鳥……大丈夫……だよ」
と緑川さんが言うものの、その言葉には元気がない。
赤城さんの手を借りて、緑川さんは立ち上がった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ、なんか、もう、いいわぁぁぁぁぁぁ……」
すると、詩織はそんなことを溜め息交じりに言うと、その体が青色に包まれた。
「え? 何だ!? 詩織!」
俺は、更なる異変が始まったと感じ、詩織の傍へ駆け寄る。
それに合わせて、他の皆も後ろから追いかけてくる。
青く光っているのは、首元から下げている勾玉。
堕天使の姿になっても、それはそのままだった。
そして、光に包まれ、堕天使の姿は小さくなり、徐々に元の詩織の姿に戻って行く。
首からのペンダントの輝きは小さくなり、瞬く程度の光となった。
「もう……いいや……」
いつもの詩織? に戻った。
いや、いつものじゃないな……脱力しまくってるし……
「詩織ちゃん……!」
「叶ちゃん……」
詩織の後ろから、緑川さんが走り寄る。
そして、そのまま詩織に抱き付いた。
「私ね――」
「ううん、もういいよ……なんかやる気なくなっちゃってさぁ……」
緑川さんの言葉に、やる気のない詩織が被せる。
「お兄ちゃんを……よろしく……叶……私、妹だったけど……本気だったんだ……」
そう言って、詩織は緑川さんを抱き返した。
「良く分からんが、これで……決着なのか……?」
忠之がそんなことを漏らす。
「……なぁ、脱力光線の威力って、ずっとあんななの?
あれはあれで問題なんだけど」
「でも、効果が無くなったら、またラスボス化するけど?」
俺の疑問に白瀬さんが答える。
忠之がその返事をする前に、後ろから赤城さんの声が聞こえた。
「あ……葵……大丈夫?」
葵が立ち上がって、満身創痍でこちらに歩いてくるのを、赤城さんが見つけたようだ。
「何とか……でも、これで終わったのかな……
何がどうなってこうなったか分からないけど」
「「「「……」」」」
その言葉に、全員が目を逸らす。
――と、葵を見て、尚更言わないと。
「おい、忠之……それで効果って一時的なものなのかよ?」
俺は忠之の隣に移動し、小声で質問する。
「うーむ……考えたんだが……多分、変身を終えたら効果が無くなると思う。
というのは、神通力の効果は、変身してる時だけだからな」
「あぁ、それもそうか……あ!? じゃあ20年後なんて元々無理だったのか?」
「そうなのかな……子供たちがターゲットだったから、丁度良いと思ったんだが」
俺と忠之がそんなことを話してると、復活したボスも足元にやってきて、それに肯定する。
「20年後なんて無理じゃよ。言ってるとおり、変身してる時だけの効果じゃからな……
それに普通に考えたら、即効性より20年後に効果が出る方が制御が難しいじゃろうが。
本当、ウザダーは馬鹿の子じゃわ……どうせ微力な神通力を与え続ければ、そのうち、とか思ったんじゃろう?」
「ぐぬぬ……」
辛辣なボスの言葉に、ウザダーは俯く。
まぁ、言われてみるとそうだ。あの攻撃を与え続けることで、20年後にやっと効果が出る程度の神通力だった、というのが正解だったのか。
「ふぅ……しかし、いろいろ酷い目にあったがのう……これで終わりじゃのぉ」
ボスが落ち着いてそう言うと、後ろから俺たちに近付く足音が聞こえる。
「……それで、どうするの?」
葵の俺を問う声が聞こえた。
そして、全員が一斉に葵を眺める。
「「「「……良かったな」」」」
「え? な、何の事……?」
呆然とした葵を皆は満足げに眺め、そして、放っておく。
さて、葵への労りはそのくらいにして、俺は先ほどの答えを告げる。
「詩織から勾玉を返してもらって、終わりかな……
そのまま忠之も変身を解いて、戦いが終われば、詩織も――」
「……でも、未だなんじゃない?」
赤城さんは、俺に向かってそう言い放つ。
その声には力があり、絶対に折れない意志の強さを感じた。
俺はその意図を認識し、赤城さんの目を見て頷いた。
「……そうか……そうだな」
「……今の状態は……不本意だけど、ちゃんと言ってあげなよ」
「分かった」
赤城さんの言葉に、白瀬さんと葵も頷く。忠之だけ何の話か分かってないようだがスルーしておく。
「じゃあ、終わったら……勾玉を返してくれぞな」
「ったく、頼むぞゴルァ」
ボスといつの間にか復活したエテ公から、そんなことを頼まれる。
そして、俺は静かに抱き合ってる二人の元へ、歩いていく。
周りは静かだ。
俺の足音だけが聞こえる。
そろそろ、街のみんなも戦いが終わった気配を感じとって、戻って来るだろう。
その前に言わなければならない。でも焦りは無い。
俺に気付いた二人は、抱き合ったままの形で、俺に顔を向ける。
「……詩織」
俺は言葉をかけると、詩織は顔をこちらへ向ける。
穏やかな表情に加えて、やる気が見られない脱力さも合わせている。
その表情に気を取られるが、それでも俺は意を決して、言葉を繋ぐ。
「……俺たちは兄妹だから結婚できないし、俺はお前を妹としてしか見てない。
それに、俺は緑川さんが好きだ」
その言葉に頷いた詩織は、微笑んでいた。
脱力光線の効果は、そこには存在しないように思えたのは俺の気のせいだろうか。
「お兄さん……ありがとう……ございます……!」
そして、緑川さんは俺に向かって最高の笑顔を向けた。




