第53話:またまた学食で
「あ! 叶! 依光くんとお似合いじゃん!」
「ブゥーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
赤城さんの一声に、俺は咀嚼していた唐揚げを思いっきり噴出してしまった。
そして、その唐揚げは、向かいの席の詩織の顔面に飛び散り、更に破裂すると、
「ふわぁぁぁ……お兄ちゃんシャワーだあぁぁ……これは間接キス超えちゃったよ……しかもお兄ちゃんからなんてぇぇ……!」
「え? え!? 私とお兄さんが!?」
恍惚な表情でトリップする詩織と、混乱する緑川さん。そして俺。
そんなことはお構いなしに、赤城さんは空いている俺の隣に座る。
持っているのはミートソースか。学食でも人気の品だ。
「え? ううん、お似合いだなって思って!
っていうか、ほら、依光くんって、あなたの想い人に似て――ぶべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」
俺はそれ以上言わせないため、赤城さんの口に思いっきり唐揚げを突っ込んでやった。
「はぁはぁはぁ……直球すぎだろ……」
「ばびぶろいの! ぼら! ばばべ! びてるでじょ!?」
口に突っ込んだ唐揚げを食べながら、赤城さんは俺と緑川さんに訴えるが、何を言ってるか分からない。
緑川さんは俺と赤城さんのやり取りに、更に混乱して、あわあわし始める。
すると、トリップしていた詩織が突然、
「ちょっと! ずるいよ! 赤城さん! その唐揚げは私と兄貴の間接キスの媒体に使うの!
――ってか、まさかその唐揚げ……!?」
「ちげぇよ! 新しいやつだっつーの!! 誰が口に入ったものを突っ込むんだよ!?」
「良かった! 兄貴の間接キスシャワーは、私だけのものだもん!」
「……変態すぎて、ドン引きだわ……詩織……」
「――ごっくん。酷いじゃない! 依光くん! いきなり口に突っ込むなんて!」
「うっさいわ! ってか、ちょっとは手加減してくれよ……」
俺は最初の言葉こそ大きな声で反論したものの、最後の言葉は小声で諭すようにお願いする。
「ふふふん! まぁ、私に任せなよ!
ってか、私もあんな扱い受けるなんて……! ふふ、やっと自分を出していけるようになったかも!」
赤城さんは俺の手荒い扱いに歓迎のようだ。今のは俺もやり過ぎたかと思ったけど、どうやら丁度良いのか。
こんな扱いを表沙汰にすれば、クラスでも意識の高いキャラを演じることも無さそう。
まぁ、まだまだ時間はかかるし、今度は別な問題も出そうだが……
と、俺は全く別の方に意識を取られてるうちに、赤城さんは更に勢い付いて、詩織と緑川さんに突っ込んでいく。
「ね、詩織ちゃん、そう思わない? 叶ってお兄さんと言うか、引っ張ってもらうような人と相性良いと思う」
「え? は? え? どうしたの急に!? それに、そんなこと……!」
突然のことに詩織は、赤城さんの発言に困惑し始める。
「ね、叶! 依光くんって、あのヤマティ――ぶべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」
「だから、はえぇよっっっっ!! もっと慎重に行けやぁぁぁぁ!!」
また正体をばらそうとする赤城さんに向かって、俺はミートソースを口に押し込んだ。
「な、なんなの? 一体……?」
「さ、さぁ……何だろうね……」
詩織と緑川さんは、俺たちの漫才を見て、面を食らっているようだ。
しかし、キャラ設定しない赤城さんは、ここまで酷いのか……!
これじゃ、葵の性格以上だぞ……!
「叶! 依光くんって似てるよね!」
口の周辺を真っ赤にして、ミートソースを一気に食べた赤城さんは、緑川さんに向かってそんなこと告げた。
「……似てる? え? ……誰に?」
訝しげな表情をした緑川さんは、俺に視線を向ける。
つられて詩織も俺に視線を向けるが、釈然としないようで、首を傾げてる。
すると、突然赤城さんは、さっきの会話から繋がりもなく、
「ね、詩織ちゃんって、お兄さんのこと好きなの? 」
「ブゥーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
赤城さんの一声に、俺は咀嚼していた唐揚げを思いっきり噴出してしまった(二度目)。
あー、もう、俺の唐揚げ……
今度は誰もいない空間に飛び散ったから良かったものの……はぁ。
あ、詩織がその飛び散ったものを、名残惜しい目つきで見ているし……お兄ちゃんシャワー欲しかったのかな……勘弁して……
と、詩織はそこから視線を外すと、赤城さんに向き直って
「もちろん! だって結婚するんだもん! 婚約指輪もあるし!」
詩織は笑顔でそんな事を言う。
俺はふと、白瀬さんの同人誌のことが思い浮かんだ。
依存しまくってる関係から、信頼のある新しい関係か……
巣立ち……でも実際……難しいよな。
と、考えると、
「ううん、結婚なんてできないよ。それおかしいし」
「「「……」」」
赤城さんは、さも当然、と、真面目な顔で仰った。
いや、うん、当然だよね。うん。兄妹だし。結婚できないし。
あ、正論で返されて、詩織がぽかーんとしてる。
そういえば、みんな暖かく見守るだけで、正論で普通に返されたこと無かったかも……
「う」
「う?」
「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
詩織は雄叫びを上げ、学食を走り去ってしまった。
「あら……あれは、意外に……分かってる風だね」
赤城さんは走り去る詩織を見ながら、そんなことを呟くが、一体何のことかさっぱりだ。
ってか、いきなりの展開過ぎて、びっくりすぎる……!
いや、手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、何と言うか、もっと丁寧と言うか時間をかけて、ゆっくりと……まぁ、そんな時間もないけど!
そんな思いを赤城さんに伝えようと、
「なぁ、赤城さん、もっと丁寧に――」
「ねぇ! 叶! 依光くんって、ヤマティンに似てるよね」
「「……」」
爆弾を落とした。




