第52話:協力者
ここは、いつものファミレス。
窓際の端にある四人掛けの席。
そこに、俺と赤城さんの二人が座っている。
今日は赤城さんにバレて以来、初めての日曜日。
学校でこっそりと、「例の件について話したい」とのことで、誘われた。
お互いに私服を着て、まるでデートのようなシチュエーション。
……なんだけど、互いに真剣な表情で、緊張感のある会話をしていた。
うん、なんかここだけ予算会議してるような雰囲気だ……いや、予算会議って知らないけど。
「そういうことね……」
赤城さんはそう呟いて、コーヒーを啜る。
俺は、赤城さんに状況をほぼ全てを説明した。
俺は、ミドリやアクア、ファイアの正体を知っていること。でもその理由は言えないこと。
シオティンは詩織であること。
だが、他のメンバーについては、俺の口からは言えないこと。
そして、俺はミドリを好きなこと。詩織を兄離れさせたいこと。葵にもちゃんとケジメを通したこと。
ドキドキメーターが貯まり、そろそろ決着が付きそうなので、わざと負けようとしてること。
……勝負を長引かせる理由は、決着が付いても、ミドリを忘れないように。
以上が主な説明の内容だ。
その説明が終わり、俺たちは一息を吐いたのだった。
「でも……いろいろ複雑なことになっちゃったね」
「そうなんだよな……俺も自分で説明してて、頭がごっちゃになってくるよ」
「……私も協力するから」
赤城さんはコーヒーを置くと、俺を真っ直ぐ見てそう言った。
「え? マジすか!?」
赤城さんの好意に俺は驚く。
「だって、別に裏切るような行為じゃないし、むしろ私たちが勝つように仕向けてくれるなら、尚更良い事じゃない」
そう言って、赤城さんは一呼吸置くと、続けて、
「それに、叶も幸せになって欲しいし」
「……う……その、ありがとう」
赤城さんの真っ直ぐな応援に、俺は照れて顔を背けてしまった。
「……あとは、葵も面倒だけど、サポートしなきゃだしね。
でも、まぁ……解決してるんだけどな……
ふふ……ふふふっ! でも、なんか楽しいかも……!
秘密の共有みたいで……ふふふっ」
俺の反応に気付かず、赤城さんは一人楽しそうに笑っている。
「よし……!
葵については、私もフォローを入れるとして、厄介なのは詩織ちゃん。
ふふふ! この前の楽しかったし……詩織ちゃんの兄離れ、どんどん私もやっていくから!!」
あぁ……赤城さんの本性がどんどん露わに……
すごく頼りになる、と言うよりも、不安にしか感じないな……
まぁ、本来の赤城さんの方が「らしい」と思ってるから、良いんだけどね。
「……」
すると、赤城さんは何かを思い出すように、窓へ顔を向け一点を見つめる。
「……? ん? どうした?」
「……うーん……どうしようか迷って……ね」
俯いて、何かを考える赤城さん。一体、急にどうしたんだろう?
「ね……本命と言うか……好きなのは叶で間違いなくて、葵には道理を通すで良いんだよね?」
「ん? あぁ、そうだ……な。
葵のは……断ったけど、待ってるって言われたんだっけ。
あの時は詩織の事があったけど、今は好きな人が……出来たから」
俺は赤城さんの問いに答える。
「そっか、じゃあ良いかな。確実にケジメ付けるためにも……」
赤城さんはそう言うと、この前、ファミレスで偶然会ったという、葵と詩織についての会話を教えてくれた。
その事実に加え、葵の心情についても、感じたことを言ってくれた。
つまり、葵はもう俺に対して、初恋の気持ちだけで行動し、そして既に満足してしまっているのではないか、ということ。
「――と、思うわけなんだ。
だから、その……まぁ、いろいろ葵について学食で言ったこと、あまり気にしないでね。
あの時は、詩織ちゃんのことだと思ってたけど、叶の件があるから……まぁ、安心したかな」
「葵のことは……うん、あの時は詩織の事がネックになってたけど、今は緑川さんの事があるから……
まぁ、どっちにしろ、詩織の兄離れは必須だけど……
でも、そっか。そんな話を、ここでしてたんだ」
「うん、まぁ、私は立ち聞きに近いけど」
「え?」
「実は――」
赤城さんは、少し気まずそうに眼を逸らしながら、自分がたまたま居合わせて、勝手に話を聞いてしまったことを告白した。
いや、まぁ、その状態じゃあね、仕方ないよ。
「ってことだから、その、今の話は当事者に言わないでね……」
「あ、うん、分かった」
「よし! じゃあ、私もバッチリ協力するから! 任せといてね!
あ、変身前の状態でも協力するから!」
「え!? でも、それは、緑川さんにとって二股状態になるじゃん!」
「あ、そっか……さすがにそれは不味いか……
あ、でも、依光くんの正体を、それとなく匂わす程度なら大丈夫じゃない!?
自主的に叶が気付いたら、万歳だし! その方が、絆も繋がりやすいって!」
「えぇ!? そうなのかな……ってか、それって良いのか!? これ以上、正体が互いにバレるとヤバイっていうか……」
「良いよ! もう気にしない気にしない! 私は”愛を見守るチーム”なんだから!」
「いや、”リア・デス”解散したから、それも必然的に解散……ってか、その所属変更は裏切り過ぎだろ……」
「あはは! まぁ、任せといてよ!」
そう言って、赤城さんは笑うのだった。
うん、嫌な予感しかしない。




