第51話:リア・デス解散
うぅ……参った。
咄嗟にミドリを庇ったので、思い切りシオティンの攻撃を食らってしまった。
俺は倒れた体を起こし、辺りを見回す。
どうやら、かなりの距離を吹き飛ばされたらしい。
周りには誰もおらず、遠くに騒がしい声と爆発が見えるので、戦いは続いてるのだろう。
さて、俺も行こう――
「……」
びっくりした……立ち上がろうと振り返ったら、俺の背後にファイアが立ってるし。
「……」
俺を見下ろすような恰好のファイア。でも何も言わず、力強い目で俺を凝視している。
俺は防御の姿勢を取って立とうとすると、
「ミドリのこと、どう思ってるの?」
それは唐突で、ファイアは静かに訪ねてくる。
何というか、迫力が半端ない。
俺はその迫力に押され、正直に話すことにした。
「……結構、本気だよ」
だけど、好きだとか、愛してるとか、付き合いたい、とかは照れくさくて言えず。
でも、その答えに満足したのか、ファイアは少し表情を緩める。
「……じゃあ、あの時言ったこと……葵に対して、ちゃんとしてね、依光くん」
「うん、もちろんだよ、赤城さ……」
「……」
「……ふぁ?」
「……」
「……ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?」
「……はぁ……もう良いよ。うん。
私は、ミドリと”ヤマティン”を応援するから
……これで良いんでしょ?」
「……お……おう」
「……念のために確認するけど……依光くんだよね? ……私は赤城だよ」
「……お……おう」
「で、あっちが……詩織ちゃんだよね?」
「……お……おう」
俺は見事に混乱していた。
なので、赤城さん――ファイアの言う事を全て肯定していた。
と言っても、全部当たってるから、誤魔化そうと思っても無理ゲーな気はする。
「残りのメンバーは誰か知らないけど……でも、なんとなく予想はつくかな」
「……お……おう」
「ねぇ、依光くん」
「……お……おう」
「……」
間が空く。
俺は恐る恐る、ファイアの質問を待つ。
この間に、俺は思考をフル回転させ、どこで正体がばれたか、もしくは俺がどこかでヘマしたのか、記憶を探る。
一拍か二拍、間が空くと、ファイアは訝しげに俺を見つめ口を開く。
「私が名乗る前から、私の事知ってたよね」
俺の思考が中断される。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? しまったぁぁ!!
あの時、流れで、赤城さんと言ってしまった……
「……そっか、全員のこと知ってるんだね」
「うぅぅ……」
俺は観念したように俯く。
しかし、どこで……バレたんだろう……俺が何かやらかしたのだろうか……
「で、でも、ど、どうして……?」
「……ん? あ、違うよ。私が何となく感付いただけだから、別に依光くんのせいじゃないよ?」
俺の中途半端な質問よりも、表情から読み取ったのか、ファイアはそんなことを言った。
「……いろいろ聞きたいことはあるけど……後でゆっくり聞こうかな」
「そ、そうですね」
赤城さんの言葉に、俺は頷くしかなかった。
「じゃあ……ひとまず、終わらせましょうか」
……
……
そこは混乱を極めていた。
まず、ウザダーはこの前のエテ公のように、頭から突き刺さり、地面版犬神家になっている。
オタ・クールは既に虫の息で、倒れている所に、シオティンが足蹴りをかまし、アクアはそれを止めようとするものの、シオティンの迫力に手が出せない状態になっていた。
ミドリはうん、あたふたしている……可愛いな。
「これは、”リア・デス”の圧勝だね」
「……いや、まずいだろ、これ」
ファイアの呟きに、俺は答える。
すると、ファイアは俺の方に顔を向け、
「……それって、負けてあげるってこと? それとも負けなきゃいけない何か?」
う。
俺は返答に詰まる。
負けなきゃいけないってことを説明する気はないけど、何て答えたら良いか分からない。
「ま、それも含めて、今度詳しく、ね……
とりあえず、終わらせるわ」
と言った所で、ファイアは俺に、サポートよろしくと一言付け加えて、シオティンに向かって駆け出す。
そして、息を吸い込むと、
「シオティン!
”リア・デス”は、解散よ!!
ミドリとヤマティンをラブラブイチャイチャさせて、結婚させてやるわ!!」
大声で宣言する。
と、
「はぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっっっっっつつあああ!?
っざっけんじゃないよぉぉぉぉぉ!?!」
「ふえあぁぁぁぁぇぇぇぇぇ!? け、結婚んんんん!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「……」
その場は更に混乱した。
「……違うの? ヤマティン?」
だが、ファイアは構うことなく、俺を振り返ると、冷徹な目で同意を求める。
え? サポートって、このことか……?
うぅ……難易度たけぇよ……
――って、ミドリ……めっちゃ期待してる表情だな、あれは……
……ぐぬぬ……
全員の視線が……痛い……
……
「そ、そう……だね、いずれ……したいかな……とか思ったり……?」
「えぇぇぇ!? あ、兄貴っぃぃぃぃぃぃい――ううbへbらえかくぁwせdrftgyふじこlp!!」
絶叫したシオティンの隙だらけのボディに、ファイアは右フックを叩き込み、華奢な体を吹き飛ばした。
ファイア、鬼畜すぎる……




