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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
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第5話:ヒロインたちの素顔

「す、凄い!

こんなに給与を貰えるなんて、ここに来て初めて!」



白瀬さんが喜んで小躍りしていた。




俺たちは、ブラック・マグマの事務所にて、ボスから給与を貰っていた。




どうやら、日給で貰えるらしく、普通よりも明らかに多い額だった。




「ふぉふぉふぉ。

あれだけマジカル・キュアを怖がらせてくれれば、そのくらいの報酬になるぞえ」



ボスも喜んで、そんなことを言う。




ボスには初めて会ったのだが、うーん、何と言うか。




「犬……だね」



詩織は幾度となく同じ感想を述べる。




そう、全く持って、ただの犬なのだ。




しかも、柴の子犬。


そんな小さな子犬が、「ふぉふぉふぉ」とかミスマッチにも喋るので、俺たちは反応できずにいた。



これが「悪い神様」とのことだから、俺たちの思考力は停止してしまっている。




「今日は良い戦いじゃったぞ? 惜しかったぞなぁ」



ボスは続けて褒めてくれたが、負けは負け。




あの後、白瀬さん――オタ・クールに助け出され、俺たちは敗走した。




「さて……」



ボスは、俺に視線を投げる。




子犬の視線なので、何とも愛嬌があるのだが、俺に何か言いたいことがあるようだ。




「お主……ヤマティン。

ちょっと話があるのじゃ。他は解散でよろしいぞ」



「はい! お疲れ様でした! よしよし♪」



そう言って白瀬さんは、ボスの頭を撫でてからその場を離れた。



撫でていた白瀬さんは、今までの印象に似合わないデレっぷりだ。


どうやら、動物好きなのかも。




……もしかして、ボスを敬愛している理由はそれなのか……




「じゃあ、こちらへ来るのじゃ」



そう言ったボスは、ボスの部屋まで来るように命じた。




「あ、兄貴?

私はここで待ってるから!

一緒にディナーだよー?」



詩織はそんなことを言って、ご機嫌に手を振った。




ボスの後に続いて、おれは例のダサい扉の部屋に入る。




だが、ダサいのは扉だけで、中に入るとただの小さい部屋だった。




しかも、何もない。




空虚な部屋……とでも言うのだろうか。




ちょっと不自然な感じもするものの、俺は気にしないでボスに質問することにした。




「それで、一体何の話でしょう?」



俺は愛嬌のある親分に向かって、尋ねた。




「ふぉふぉふぉ。いや、何。お主、皆の正体に気付いてるようじゃて」



「正体……?」



ボスの言葉に一瞬考え込むが、それはすぐにマジカル・キュアの事だと気付いた。



「あ、なるほど!

いや、だって、そのままじゃないですか?

いくら髪の色とか見た目が変わったとしても、顔形までは変わらないですし」



「ふぉふぉふぉー!

いや、分からないんじゃよ。

ここはわらわたちの結界の世界。

わらわの神通力を宿す者は、異種だからの」



そう言って、可愛い子犬は頷いたような仕草を取る。




「そこでじゃ、不思議なのは。

お主を観察しとったが……分かっているようじゃの?」



その言葉に俺は何の意味があるのか分からなかったが、ふと思い当たる。




「……ええ、まぁ」



俺は曖昧に答える。




どうやら、変身している者の正体を知っているのは俺だけだということだろう。




「ふぬ。どうやら、本人も知らぬということか。

まぁ、そりゃそうじゃわな……」



「――あの」



そこまで言って、俺はある種の疑問を訪ねることにした。



「いや、最初は神様とかって話を詩織から聞いて、信じていなかったんですが、本当にいるんですね……

あ、それで良い神様と悪い神様がいて、互いに代理人を通じて――」



「ふむ。そうじゃよ」



俺が全てを言う前に、ボスは頷いて肯定する。




「わらわが、悪い神様の方じゃ。

名前は――いや、ボスでいいじゃろう」



そして、ボスは少し考えるような仕草を取る。




「おぬしが、何故、皆の正体を知っているか聞こうと思ったのじゃが、知らぬようじゃな」



「は、はぁ」



「ま、ええ。そのまま知らぬことにしておいて欲しいじゃて。

決して自分からも明かさぬよう」



「……良く分りませんが、分かりました」



「ふぉふぉふぉ。頼んじゃて」



そう言ってボスは満足そうに部屋を出て行いこうとする。



「おぉ、そうじゃ」



ボスは何かを思い出したかのように、立ち止まり、顔だけこちらを向けた。相変わらず可愛い子犬の姿だった。




「オタ・クールは、相手を恐怖させろとかと言わなかったじゃろか?

別に恐怖じゃなくて結構じゃて」



「……え?」



「ふぉふぉふぉ。相手をドキドキさせれば、それで良い。

まぁ、オタ・クールはそれを恐怖と読み取ったみたいじゃがの」



「ドキドキさせれば……良い?」



「そうじゃ。

だから、恐怖じゃなくとも、逆の感情なり、別の感情でも問題はないぞえ。

もちろん、マジカル・キュア以外の一般人にもじゃ」



「ドキドキが目的……?」



「我らの目的は、この街の人間、そして特にマジカル・キュアをドキドキさせることなんじゃよ。

まぁ、恐怖も含めてドキドキには悪事も関わるしの。

それで戦いになるわけじゃ」



その言葉を最後に、ボスは、ゆっくりと部屋から出て行った。




「……ドキドキ?

……逆……の感情って……何だ?」



俺は良く分らないまま、ボスの部屋を後にした。



すっかり日は暮れてしまった。




とは言っても、それほど遅い時間でもないので、妹との約束通り、俺たちは近所のファミレスで夕食を食べることにした。




一応、寮には家族と食事する旨を伝えておいた。




「わーい! 兄貴と一緒のディナーだぁ!」



注文後、ナイフとフォークを振り回して歓喜する妹を尻目に、俺は例の話を思い浮かべていた。




「ん? 兄貴、さっきの話、まだ考えてるの?」



詩織は向かいの席から、顔を近づける。




「あ、ああ。そうだな。ドキドキって言ってもな……」



本当は正体の件について考えていたのだが、先ほど詩織に話したドキドキの件で話を繋いだ。




正体の件については、他言無用とのことなので、誰にも言っていない。



「私ね、それ嫌な予感がするんだよ」



詩織は少し頬を膨れませて言った。




「ん? 嫌な予感って何だ?」



「ドキドキって言ったら、恋じゃん!

告るの? 懐柔? エロいことするのかよ、兄貴!」



「んなことしねーし!」



詩織は正体を知らないけど、赤城さんに、緑川さん。それに葵。




彼女たちをドキドキさせるって言ってもな。



恐怖でも良いが、今日のように詰めが甘い結果になるし、今後は考え物だ。




だからと言って、詩織が言うように、恋だの愛だのって話にはなるわけがないし。




「ま、考えるの止めようぜ。

――ほら、頼んだハンバークが来たっぽいぞ」



運んでくる店員の姿が見えたので、俺は詩織にそう告げた。



「あ、ほんとだ! ――あれ?」



詩織は店員の方を向いて喜んだのだが、その方向に見知った影を見つけたようだ。




「お……赤城さんか」



見ると、赤城さんが食事をしているのが見えた。




赤城さんの向かい――俺とは逆の席。


二人いるが、恐らくは緑川さんと葵だろう。




「――お待たせ致しました。

”エッグだけ自慢のハンバーグ”をお頼みの――」



「赤城さーん!」



店員の声を遮って、少しばかり煩い声で詩織が叫ぶ。




「あ、すいません。こいつです……」



俺は店員に謝り、注文したのは詩織だということを手で示した。




詩織の声でこちらに気付いた赤城さんは驚いた表情を浮かべるものの、すぐに笑顔になった。



そして、向かいの席に座っていた二人もこちらを向く。




やはり、緑川さんと……葵だった。




「あれ!? 叶ちゃん!

……と、もしかして――葵ちゃん!?」



「あ、詩織ちゃん――」



「詩織ちゃん!!」



二人の声が驚きと喜びを持って、輪唱した。




葵に限っては、驚いて、立ち上がってる。




それを見て、俺は微笑ましくなる。




「やあ。久しぶりだな、葵」



俺も葵に向かって声をかけた。




「あ……あ、あ、あ、あ」



葵はホラーゲームの敵役のように、同じ言葉しか言えなくなっていた。




そして、目を見開き、顔を真っ赤にして、




「や、大和ぉ!?」



そのキャラ崩壊した姿に、赤城さんと緑川さんは、驚いた表情を浮かべていた。



「まぁまぁ、ここじゃなんだから、一緒に食事しようよ!」



詩織はそんなことを言って、ハンバーグを片手に、彼女たちの隣の席へと移動した。




「お、おい、そんな勝手――」



「いいよ。一緒に食べよっ」



俺の驚きの言葉に、赤城さんは了承の返事をしてくれる。




見ると、緑川さんも笑顔で頷いていた。


……葵は相変わらず口をパクパクさせているが。




詩織に続いて、俺も隣の席へと移動する。




移動する前に、店員に事情を説明して、席を移動することを伝えた。




「しかし、凄い偶然だな。

しかも、みんな知ってるし……知り合い同士だったんだ?」



「あ、あ、うん! そうなんだよ。ちょっとした知り合いでね」



俺の問いに赤城さんが答えてくれた。



というか、マジカル・キュアなんだから当たり前か。




変な質問は、止めとこう。




「……と、いうか、葵。久しぶりだな」



俺は葵の方に話しかける。



「あ、あ、あ、あ、大和! ひ、ひさしぶりぶりぶり」



葵は清楚系が売りだったような気がするのだが、何故か壊れてしまっている。




赤城さんも緑川さんも、俺と同じ気持ちのようで、互いに顔を見合わせていた。




「葵ちゃんってば、壊れちゃったかぁ。

ま、ライバルだから気持ちは分かるけど!」



詩織が横からそんなことを言った。




「ライバル?」



「いいの。兄貴は知らなくても!」



「――ご注文の、”スィートパンケーキ”をご注文のお客様?」



そんな時、店員が俺の注文を持ってきた。



「うひょぉぉ!

兄貴、美味そうじゃん、それ!

そんな女子受け良いの頼んじゃって、どんなリア充だよ、てめぇ!」



「……少し食べるか?」



「いいの? やったぁぁ!

ねね、叶ちゃんも食べる?

あ、赤城さんも良かったらどう?

葵ちゃんは、どうしよっかなぁ……?」



と、俺の飯がいつの間にか妹の所有物になっていた。




「ありがとうございます、お兄さん。

でも、この時間の食事は控えてますので、どうぞ気にしないで食べてください」



殊勝なことを言ってくれるのは、もちろん緑川さんだ。




「あ、私は一口貰っちゃうね!」



元気よく答えるのは、赤城さん。そして――




「何で、どうしようかな、なの!?

詩織ちゃん、私にはそんな扱いして!」



葵は詩織に詰めかかる。




「ふっふっふ」



だが、詩織は不敵な笑みを浮かべる。




「だって、私たちは敵同士。

かつて、ライバルと認め合った時から、お互いは憎しみに囚われ――」



「あぁ、もう。中二はいいから。

――んで、葵、食うなら取っていいぞ」



詩織の言葉を遮り、俺は葵に尋ねる。




「あ、そ、そう?

んじゃ、ちょっとだけ貰うね」



葵はようやく笑みを浮かべてくれた。




葵は清楚系が売りとは言うものの、それは対外的なもの。


それなりのお転婆で、詩織に対抗心を燃やしてよく争っていた。


ライバルというのは、その頃の名残なのだろう。




「――元気にしてたか?」



俺はふと、そんなことを漏らす。


笑った葵は昔の名残もあるものの、綺麗な女性になっていた。




「あ、う。うん……」



葵は少し俯いて、そう答えると、淡々と話しだした。




「その……昔のことだけど、ごめん。

――私、すぐ帰ってくるんだと思ってたの。

遊びに行くような感覚だったから、転校のこと言えなくて」



「謝るようなことじゃないよ。

親の都合だし、仕方ないし、俺もそんな感覚だったからな」



あの時、転校というのは知らないまま、当日を迎えていた。




学校で先生からも転校の話は出たが、当時の俺たちは、あまりにも仲良すぎたのだろう。


どうせ、すぐに帰ってくる。


近い場所だろうし、いつでも遊べる――そう思っていた。




「あ、ありがと……」



顔を傾け、はにかんだ表情をする。




……可愛い顔するな。こいつ




「――兄貴!!」



と、急に詩織が横から出てきた。




「兄貴、今、葵ちゃんのこと、可愛いって思ったね!?」



「――は、はぁぁ? 何、それ?」



急に言われて、俺はテンパって訳の分からない答えを出す。




「え!? か、かわわいいい!?」



また葵が壊れかけてくる。



なんで、こんな感じなんだ?


昔の葵は挙動不審なことは無かったのだけど……




「葵は、戻って来たんですよね?」



そんな時、緑川さんがほほ笑んで、口を出してくれた。




年下のはずだが、あの緑川さんが呼び捨てなことを考えると、その信頼関係が素晴らしいものだと一瞬で分かる。




「――あ、そ、そうだね。うん。戻ってきたんだ」



「良かったねー、葵!

そっか! 前に言ってた、探してる幼馴染ってのは――」



「小鳥! いいから!」



赤城さんの言葉に、葵は突っ込む。




「か、勘違いしないでよね!

べ、別にあんたのことなんか探してないから!」



葵は、テンプレ通りのセリフを言う。




「あ、そういえば葵ってツンデレだった――」



「う、うるさい! 誰がツンデレよ!」



「葵の清楚なイメージが崩れてきました……」



緑川さんが呟く。




すると、




「――さて、私はそろそろ帰るね」



その時、赤城さんが言って、席を立つ。




「あれ? そうなの?」



「うん。実家だから、そろそろ帰らないと怒られるし」



飯は食べ終わっていたので、その言葉をきっかけに、お開きとすることにした。




「私も電車だからね。早めに帰らないとなんだ」



葵が席を立ちながら、そんなことを言った。




どうやら、葵は共修学園きょうしゅうがくえんに通ってるらしい。


通りで、制服が違ったわけだ。




共修学園は、この辺ではエリートが通う学園で、よほど頭が良くないと入れない。




葵は昔から頭が良かったが、そこまでのレベルに俺は驚いてしまう。




「んじゃ、葵。折角だから、連絡先を交換しておこうぜ」



そう言って、俺たちは詩織も交えて、携帯の連絡先を交換しておく。




「――あ、そうそう。今日の結果は、あまり気にしないようにね」



赤城さんは、緑川さんと葵にそう言って、帰って行った。



二人は苦笑いするものの、伏し目がちで、どうやら落ち込んでいるようだ。




その言葉を勘ぐるに、もしかすると、今日のシオティン猛攻の反省会をしていたのかもしれない。




俺はその言葉を聞かないふりをして、詩織と共に帰路へと急ぐ。




緑川さんは途中まで一緒だったので、三人で一緒に帰ることになった。




「新生活って楽しいね!」



詩織はそんなことを言って、終始ご機嫌だった。




だが、俺は緑川さんが落ち込んでいたことが分かり、帰路途中、その表情がずっと気になっていた。




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