第49話:小鳥とファイアの憂鬱 ~ 正体
「はぁ……」
私はため息を吐いた。
まさか、背後の席に知り合いが座り、そして重い話をして行くなど、想像もできなかった。
ここは桃源町商店街の一角にあるファミレス。
その角にある四人掛けの席。
バイトが終わり、そのまま家に帰ろうと思ったものの、ちょっと休憩したくなった。
家に帰れば、家の手伝いや宿題などで、また忙しくなる。
なので、ちょっとデザートをつつきながら休み、そして友人――葵のことで考え事をしたいと思ったのだ。
四人掛けの席で、廊下側を背にして一人で座っていると、その後ろの席に、友人である葵と、同級生の妹である詩織ちゃんの二人が席に着いた。
始めは全然気付かなかったものの、気付いた時には既に重い話をしており、「やぁ!」なんて話しかけられる雰囲気では無くなっていた。
そして、ある程度、話がまとまった時に、二人はファミレスを出て行った。
しかし……好きな人か……
私は詩織ちゃんの言葉を思い出す。
そして、それと同時に葵の言葉も振り返る。
だが、その葵の言葉は先程のではなく、数日前の言葉だ。
「初恋っぽいのを引きずってたのかな」
葵から告白したとは聞いていた。
そして、徐々に依光くんへのアプローチも増やしていると。
ノロケも入っていたが、これから恋を成就させたいと願う友人の言葉を、私は暖かく聞いていた。
だけど、ふとした瞬間、その言葉が漏れていたのだった。
その言葉を聞いた私は、ある違和感を思い出した。
葵の依光くんに対する気持ちが、前よりも落ち着いている事。そして、ある種の満足感に囚われているような事。
ここからが勝負だというのに、まるで憑き物が取れたかのような言動が多かった。
その違和感の正体が、これだったのかと気付いた。
告白したことで、過去の想いを吹っ切ってしまったんだろう。
昔から聞いていた幼馴染への想い。
その執着が、今、見当たらない。
「そっか……」
その時、私は葵の独り言のようなそれに、頷くしかなかった。
葵は、私が何を考えたか、そしてどういう結論に至ったか、その言葉で分かったようだった。
だから私は、葵の中途半端な気持ちと、過去の囚われた幻想、ある種の意地を、依光くんが断裁してくれることを願うしかない。
「……こう言っちゃなんだけど、突き放すときは突き放した方が良いからね……?
中途半端になっちゃうと、逆に……」
その後、依光くんに言った言葉も思い出す。
突き放した方が……葵の……過去に囚われた想いを解放できるはずだから。
「好きな人……」
そして、先ほどの話。
私は安堵と不安、そして、よく分からない焦燥感を感じながら、冷めたコーヒーを飲んでいた。
外を見ると、そろそろ冬の季節が始まる、肌寒い天気。
だが、この窓際の席は、暖かい木漏れ日を受け入れてくれていた。
……
……
「はぁぁぁぁ!? ”リア・デス”の再結成!?」
私は叫ばずにはいられなかった。
「そうよ。だから協力して。
ミドリとヤマティンを邪魔するの……!
リア充には死を……!!」
後ろから私を羽交い絞めにしたシオティンは、私の耳元でリア・デスの再結成を促したのだ。
「ファイアもあの二人がイチャイチャするのは嫌でしょ!?」
「そ、それはそうだけど、私はもう――」
「私は勝負はどうでもいいの。協力してくれれば負けてあげるわよ……?
このままだと、あなたたち敗北決定だしね」
「――んな!?」
「考えといて」
と言った所で、シオティンは私の羽交い絞めを解き、後ろへ距離を取った。
「く……やるな、ファイア」
シオティンが憤る。
またこれだ。私は何もやっていない。勝手にシオティンが離れただけだ。
何故かシオティンとヤマティンの二人は、わざと負けようとしている節がある。
何かの作戦なのだろうか?
「きゃぁぁぁぁぁ!」
と、前方でアクアが吹き飛ぶ姿が確認できた。
今日はブラック・マグマが総動員しており、危険なオタ・クールと、危険ではないが壁役をやられるとそのウザさが際立つウザダーもいて、今日は乱戦になっている。
「ウザダー! ほら! 今が隙だらけじゃん! シオティンから習った電撃をお見舞いしなさいよ!」
「お、おう……ちょっと待ってくれ、えっと……」
「――ちっ! 遅いわぁぁ!」
「――え? うぇぇぇ! ぐべぇぇぇぇぇぇ!!」
乱戦になっている原因は、オタ・クールとウザダーのコンビネーションが最悪なことと、ヤマティンとシオティンのわざと負けようとする雰囲気。
これに飲み込まれ、この戦いは泥沼というか、何というか、訳が分からない状態になっている。
「アクア! 大丈夫!?」
私は吹き飛ばされたアクアに駆け寄り、起き上がれるように手を貸す。
「な、なんとか……
オタ・クールとウザダーが、予想以上に混乱をもたらすから……」
「えぇ……私も危ない場面が結構あったから、気を付けないと」
と、戦場の行方を見ると、何故かオタ・クールとウザダーが殺り合ってるし(オタ・クールの一方的な展開だけど)、更に逆側では、
「あ、ヤマティンさん、あの……」
「う、うん、じゃあ、俺はあっちを攻撃するね」
「は、はい! じゃあ私はあっちを攻撃しますね」
「あはは」
「うふふ」
……どっちを攻撃するんだよ、お前ら……!
ってか、それ会話なのか!? 会話にすらなってないぞ!?
ったく、あの戦場の一角だけ、何故かピンク色になってるし!
それを見て、先程のシオティンの言葉を思い出す。
ミドリの邪魔をするってか……
……
……ん?
好きな……人?
私は、何故か先日のファミレスの事を思い出した。
というのは、あまりにも……状況が……一致してる……からなんだけど……
いや、でも……まさか……
「うわぁ……やられたぁ」
瞬間的に、私はシオティンの方を見る。
そこでは、アクアのパンチを受けて(受け流したかのように見えたけど)、シオティンは吹き飛んでいた。(後ろにジャンプしたように見えるけど)
……
……?
まさか……
詩織……ちゃん?




