第47話:日常の一コマ ~ そして負ける戦い
「しかし、相変わらず酷いポスターだ……」
俺たちはアジトの雑居ビルの階段を上る。
壁には、アダルトショップやら同人ショップやらの、かなり際どいポスター。
「私はもう慣れたよ」
「まぁ、私は出入りしてるしな」
前者は詩織。後者は白瀬さんの声だ。
出入りって……
まぁ、同人ショップの方だよな? まさかアダルトショップ?
俺は、何とも言えない視線を白瀬さんに送る。
と、白瀬さんはその目線で何を言いたいのか悟ったようで、勝ち誇ったように、
「どっちもだ。創作には見聞は必要だ」
白瀬さんは胸を張って答えた。
白瀬さんは背が低くくて小さい。なので胸を張っても、やはり”そこ”は、”そこそこ”の自己主張程度だった。
そんな失礼なことを考えながら、そのまま階段を上り、屋上へ。
「兄貴もああいうの気になるんだよね? 男の子だし」
昭和テイストの、ボロ長屋なアジトへ向かう途中で詩織がそんなことを言い出した。
「ああいうのって、ポスターのことか?
まぁ、そりゃ気になるよ。新作が出るたびにポスター変わってるし、中には可愛い子も――」
「じゃあ、兄貴の部屋に私のすっごいのポスターにして貼ってあげるよ!
ただの裸じゃなくて、見えそうで見えない、絶妙な――」
「いや、要らない」
俺は即答する。
妹離れをしなきゃいけないから、こんな即答の仕方……ってわけではない。
いつもの問答なのだが、このボケツッコミの流れじゃ、どうやって妹離れするのか、かなり難しいな、と答えながら思った。
そして、俺たちはアジトの内部へ。
タイムカードを押して、奥の部屋のソファーへ向かう。白瀬さんは入口側の自分の席へ。
「なぁ、見習い期間が終わりってことは、俺たちにも席とか配給されたりしないの?」
何気なく俺はそう思って、白瀬さんに尋ねた。
白瀬さんは席に荷物を置くと、そのまま俺たちがいる奥のソファーへとやってきた。
「無理じゃない? だってスペース無いし」
白瀬さんは簡潔に言い放つ。
「えぇぇぇ!? どうして!?
隣同士で教室的なイベントをプレイ出来ると思ったのに!」
残念な声を上げるのは詩織。
そう言えば、そんなことを期待していたっけ……
そんなのやりたくもないので、机は不要で。
「ぶぅぅぅ! ま、仕方ないか……
あ、そうそう! ローテーション組むことだし、私も正式に図書委員に入るからね!」
「良いわよ……っていうか、兄妹で参加だと思ってたし。
ローテーションって言っても、基本的にはこのバイトは自由参加なんだよね。
となると、土日以外で誰も出動しないのはまずいから、そこを調整する感じになるかな」
白瀬さんはそう言って、ソファ近くの壁に背中を預ける。
「まぁ、私たちが来れなくても、黒滝先輩に頼めば来てくれるから、案外適当で良いわよ」
「え? そうなの?」
「来いと言えば来るから、大丈夫」
忠之……相変わらず不憫なヤツだな……
「ふふふ……じゃあ今日も稼がせて貰いましょうか」
白瀬さんは不敵にそう笑うが、今日からちょっと負け続けないとなんだよな。
……
……
「く……」
「ふふふ! 私今日、絶好調だわ!」
シオティンは膝を突いて、それを眺めるアクアは高笑いする。
「ど、どうしたの!? シオティン!
いつもの貴方なら、そんな攻撃はカウンターを合わせるのに!」
それを見るオタ・クールは、憤る。
「こうなったら、私がドキドキさせなきゃ!
恐怖……恐怖……何か……」
オタ・クールは戸惑いながらも次への対処を考えている。
そして、俺は前ほど気まずくなくなったミドリと対峙していた。
「悪のブラック・マグマ! 今日こそ成敗します!
(にこ)
絶対に許しませんからね!
(にこにこ)
絶対に……兄離れさせちゃいますよ!
(にこにこ!)」
と、ミドリはシオティンに言い放った後、俺に笑顔を向け、そしてまたシオティンへ……と、そのループを行う。
ミドリ、意外に器用だな……そして、その笑顔が可愛いんだけど、殺伐なセリフと交互にやられると、どう対応したら良いか分からなくなる。
俺はその笑顔に反応出来なかったけど、ミドリは満足したようで、倒れているシオティンへ止めを刺しに駆け出した。
「お兄さん、困ってるじゃないですか!
私のことが好きなんですからね!」
「――んなっっっ! っこのクソビッチ!!」
シオティンは急いで起き上がり、目の前にいたアクアをワンパンで沈める。
「――!? くぁwせdrftgyふじこlp!!!!」
あぁ……アクア大丈夫かな……ちょっと調子乗っちゃったからな……って、え! あれ? 殺っちゃダメだろうが!!
と、それに気付いたのか、オタ・クールは、
「おぉ! やれば出来るじゃないか! そうだ! その勢いで抹殺するぞ!」
声を上げ、シオティンの背後へ移動しサポートする体制へ。
だが、その声と行動で我に戻ったシオティンは、
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ! ここは……ここはぁぁぁ! 我慢なのかぁぁぁ!
これが我慢プレイなのかぁぁぁ!
もうダメぇぇぇぇ! もれちゃうよぉぉぉぉ!」
後半壊れて下ネタに突入していたが、どうやらシオティンは思い留まることが出来たようで――
「行きますよ! 必殺! 兄離れキーーーーックです!」
草の攻撃じゃなく、ぶっ飛びドロップキックをかますミドリ。
そして、それを全力でシオティンは受け止め――
「はべらぁぁぁぁぁぁっぁあぁああああ!」
「ぐべぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇええ!」
背後にいたオタ・クールもろとも吹き飛んでしまった。
それを眺めていた俺は、背後で立ち上がったアクア、そしてファイアに同じように吹き飛ばされてしまった。




