第44話:日常の一コマ ~ 学食
「兄貴……? どうしたの?」
俺と詩織、そして緑川さんの三人は、またまた学食にいた。
詩織は俺との親睦をより深めようと、更にアグレッシブになっている。
今日もそんな勢いで学食に誘われた。というか、拉致された。
緑川さんも一緒に誘われたようだ。
緑川……さん。
うむ。
めっちゃ居辛い。
「……うぅ! どうせ……の事考えてるんでしょ……
ふん! 最後に笑うのは私だし!
悔しいけど……我慢して……私が……! だからもっと兄貴と……!」
と、思い出したのか、唸り出す詩織。
まぁ、確かにミドリの事を考えてたけど、どちらかと言うと、その本人である目の前の緑川さんの事だけど。
「お兄さん? 詩織ちゃん? どうかしたの?」
いつものように、ほんわかな緑川さんは、首を傾げながら尋ねる。
そんな態度と表情に、俺は可愛く感じてしまってるという。
「ん? ううん! 大丈夫。
ちょっと兄貴を惑わす輩がいてね。ちょっと気を付けないとなって思って」
「ふふふ! 詩織ちゃんはお兄さんの事好きですからね」
「あったり前よ! あのファック女狐め……」
いや、その女狐は目の前にいるんだけどね。
「兄貴! その唐揚げ欲しい」
と、それまで唸ってた詩織が、急にそんなことを言い出した。
でも、まぁ、これはいつもの事なんだけど。
「ったく、仕方ないな。一個だけだぞ」
「やだ。三つ頂戴」
「はぁ!? それ全部ってことだろ!? お前ふざけんな――」
と言った所で、緑川さんは、
「ふふふ! 仲が良いですね。
この前も間接キスしてましたし」
あれは間接キスじゃなくて、よだれをかけられた唐揚げを食わせられた罰ゲームだろ……
それに、寝こみを襲われてるらしいから、間接どころじゃないんだろうし……
って、思い出したところでゲンナリしてきた……
「あれ……? 依光くんと詩織ちゃん……と叶……珍しいわね」
と、そこに、うどんセットを持った、赤城さんが現れた。
「あれ? 赤城さんも、いつもお弁当なのに珍しいじゃん」
「今日は寝坊しちゃってさ、参ったよ」
「なんだ、そうだったんだ。まぁ、こっちは詩織に拉致されたんだけどね……
あ、ここ空いてるぞ」
と、俺たちの隣の席が空いてたので、赤城さんを座らせる。
うちの学食や購買はそこまで混まない。というか、十分なスペースや容量が確保されてるので、乱雑にならない、と言った方が正しいか。
ただ、定食だけ数が限られてる。
ん?
ふと、詩織と緑川さんの怪訝な視線が俺を打つ。
「どうしたんだ?」
「いや、兄貴、その……もぐもぐ……赤城さんと随分距離感が……もぐもぐ……近いなと思って」
詩織の言葉に、緑川さんも頷く。
あ、そっか。
赤城さんとはいろいろあって、かなり、ざっくばらんな物言いが出来る仲になっていた。
まぁ、ギャップやイメージで悩んでいたので、俺も出来るだけ協力して、徐々にクラスの皆にも受け入れられると良いなとも思ってる。
ただ、まぁ、そんな早くは上手く行かないけどね。
「いや、まぁ、クラスメイトだし?」
「ふーん……もぐもぐ……まぁ、もぐもぐ……良いけど……」
詩織はジト目で俺を睨む。と、その口には何か大きいものを頬張ってて――
ん? あれ? 俺の唐揚げがいつの間にか無くなってる!?
「おい! 詩織!? 俺の唐揚げ取りやがったな!?」
「もぐもぐ……うん。だって、くれるって」
「言ってねぇし! 一言も言ってねぇし!」
「しょうがないにゃあ、兄貴。じゃ、はい。あーん」
と言って、詩織は自分の口から咀嚼していた唐揚げを出し、俺に向かって食わせようとする。
「お、お、お前……それは……ちょっと……前よりもかなりレベルアップしてんじゃねぇか……」
さすがに、これは緑川さんも赤城さんもドン引だ。
「依光くん……え? そんなことしてるの?」
赤城さんは、何故か俺を非難する。
まるで、俺がこんなプレイを熱望してるかのようなセリフは止めて欲しい。
「違うって、こいつが勝手にやってるだけ!
――うぉぉ! あぶねっ!! もう良いから、そのまま食えよ!」
赤城さんに説明しつつ、詩織の攻撃? を避ける。
と、その時、
「あ! 詩織ちゃん、次の授業、私たちが準備しなきゃだよ!」
「え? あ! そうだ! プロジェクター準備しないと」
と言いながら、必死に俺の口に唐揚げを入れようとする詩織。
「ほら! もう良いから、行けよ!」
「くっ……ここは引き下がるしかないか」
そう言って、詩織は自分の口へ唐揚げを入れ、美味そうに食べながら、緑川さんと一緒に食堂を後にした。
「はぁ……疲れた……
って、唐揚げ全部食われたし!!」
俺は自分の皿が空になってるのを見て、先ほどの悲劇の始まりを思い出した。
「ふふ! 良かったら、私の少し食べて。 私には多いから」
と、赤城さんは俺の反応を待つ前に、立ち上がってカウンターへと言ってしまった。
あぁ、取り分ける小皿を取りに行ってくれたのか。
何か、悪いことしたな……




