第41話:ごめんなさい
……本気を出したミドリは強かった。
しかし、どうして、そんな発想になるのか。
普通に、人気のない所へ行けば――って、あぁ、そうか。ファイアやアクアを筆頭に、ギャラリーで埋まるか……そうだよね……
ここは商店街の中央広場。
そう、別にさっきと場所は変わっていない……のだが、ここはクレーターと化していた。
隕石が降ってきたわけじゃないんだが、ミドリの奥義とか何とかで、手からビームが出たかと思ったら、大爆発を起こした。
うん……
そして、こうなって、みんな……吹き飛ばされて、どっか行っちゃった……
あ、エテ公はさすがに神様だけあって、彼方へと吹き飛ばされなかったようだ。
頭から地面に突き刺さって、地面版の犬神家になってるけど……
「これで……邪魔者は消えました」
「あ、う、うん……」
「あ、大丈夫ですよ! みんな生きてますから……死んでというのは、その、言葉のあやで……
それに一般の人にはヤマティンさんに使った防御シールドを、吹き飛ばされる程度に張りましたから」
あたふたして、可愛い感じのミドリ。
でも言ってる内容は物騒すぎる……それに、俺が戸惑ってるのは、本当に殺してしまったかどうかの不安だと思ってるのか?
いや、ミドリも大概に天然だわ……いや、知ってたけど!
「そ、それで……お話しって……?」
「あ、う、うん……」
ミドリは真っ赤になって、俯いて。でも、恥ずかしそうに、こちらをチラチラ見ている。
あぁ……可愛いな。
守ってあげたくなるというか、さっきの必殺奥義を見せられてもそう思う。
「実は、この前の告白の返事……しなきゃと思って」
「――っっっ!?」
「で、そ、その――」
「あ、あの! べ、別に私が言いたかったことですし、返事なんて、そんなの……気にしないでください!」
「でも、そういうわけには……いかないから。
ちゃんと……言わなきゃって思って」
「……」
俺の真面目な言葉を聞き、ミドリは顔は俯き気味だが、直立不動となり聞く姿勢? となる。
「実は、俺……放っておけない子が――」
「――え? ヤ、ヤマティンさん……好きな人が……いるんですか……」
俺の言葉を途中で遮り、悲鳴に近い声がミドリから零れた。
いや、まだ話の途中!
好きな人じゃなくて、それは、何というか家族で、でも放っておけないから、コイツが兄離れするまでは面倒を見ないと――って続けようとしたけど、
「そ、そうですよね……」
勝手に納得したミドリは、両目から涙を流し始める。
「――え? い、いや、ちょっと……」
その涙の顔に、俺は狼狽えて、どうすればいいのか混乱してしまう。
いや、だって。こんな場面、さすがにキツイ……
――あ、そうか……
断るってのは、こう言う事か。
……何を俺は安直に考えていたんだ……
葵との一件が、俺をポジティブにしていたけど、あれは例外だ……
「うっ……うう……う……っっっっ」
ミドリは両腕で顔を隠し、声が漏れるほどの嗚咽を出し始めた。
「……好き……なんです……ヤマティンさん……っっ……
うぅ……でも……私じゃ……うぅぅ……っっっ」
ミドリは泣きながら、一生懸命、俺への想いを言い続ける。
次第に言葉は枯れ、嗚咽だけとなる。
そして俺は話の続きが出来なくなってしまった。
ミドリを振るのが怖くなった、悲しませたくない、そんな気持ちで続きを言えなくなったのではない。
いや、それもある。もちろんある。
だけど、いちばんなのは……その泣いて訴える姿に、俺は……何と言うか、こんな事を言うとアレだが……感動してしまった。
こんなにも、俺の事を……? 泣いて訴えるほど、俺の事を……? そう思うだけで、俺は感動し、嬉しく思い、そして全力でその想いを受け止めたくなってしまう。
「――ミドリ」
俺はもう、良く分からない。
考えてしゃべっていない。
「違うんだ、その、違う! そうじゃないんだって!」
「え……?」
ミドリは顔を上げた。
その顔は涙でグチャグチャに濡れており、目は真っ赤。
その表情を見るだけで、俺はいたたまれなくなる。
「妹が兄離れする間、待って欲しいんだ」
「……え?」
「俺は、ミドリのこと……気になってる……」
「――っ!?」
言ってしまった。
でも、不思議と後悔とか不安とか、そんなのは無い。
葵のことも、そして詩織のことも含め、俺はミドリ――緑川さんのことが……とても気になる存在へと変わった。
あぁ……こういうのってあるんだな。自分で言うのもなんだけど、急展開だ……
「ヤ、ヤマティン……さん……」
ミドリは微笑む。
涙で濡らした顔、そのままで。
「はい。待ってます。
私、ずっと、待ってます。
だって、私はヤマティンさんしか……考えられない……から」
……
……あぁ……だめだ、これ。
こんなこと言われたら、男としてキュンキュンくるわ……
うん、俺、ミドリのこと……かなり意識し始め――
「ふ……ふふ……」
そこに、自虐的な笑みを浮かべ、そして両目から血の涙を流してシオティンは現れた。
――エテ公の影から。




