第40話:大切な話
「……」
ミドリは俯いている。
恥ずかしそうに困っている。でも、言わなきゃな。
でも、ここで言うのもな……みんな見てるし。どうしよう……
と、その時、前方から小柄ながらも威圧感のある影が近付いて来ているのが見えた。
ここは商店街の中央広場。
まぁ、いつもの場所。
そして、いつもの戦いで、いつもの人数程度のギャラリーだが、あんな小柄なギャラリーっていたかな?
俺がその影を追っていると、どうやら皆もそれに気付いたようで、全員が視線をそちらに向ける。
「――って、あれは!?」
すると、ファイアが真っ先に気付いた。
俺も輪郭がハッキリしてきた、その影の正体に気付き――
「させねぇよぉぉぉぉぉ!? もうドキドキはさせねぇよっ!?
あたいが介入してでも、もうさせねぇよっっっっ!?」
エテ公はそう叫ぶと、四本の足と全身を激しく動かし、一気にこちらへ駆けて来た。
小さいながらもまるで重量のあるトラックの様に、砂埃を上げて迫ってくる。
「マ、マスター!?」
「え? え?」
「あ、あの……え?」
ファイア、アクア、ミドリがそれぞれ慌てふためく。
「てめえら! ここの所、不甲斐ない姿見せやがってゴルァァァ!!
そこの若造に、何をドキドキさせられてんだぁぁ!
もう、あたいが介入してでも、この流れを止めてやるっつってんだよ!?」
あぁ……まぁ、そうだろうな。
あのミドリとのデートが、かなりクリティカルとなっていると思う。
そこからちょこちょこ戦いがあったけど、その度にミドリは恥ずかしそうに俯いてたし……
「特に、ミドリぃぃぃぃ!!
お前の醜態が、苦境に陥ってる原因なんだからなぁぁぁ!!」
エテ公は、ミドリの前で急停車し、そのまま睨みつけると、唾をまき散らしそう叫ぶ。
「私が来たからには、マジカル・キュアの――」
「うるさいですね。ちょっと黙っててくれませんか? マスター?」
「……は?」
「……え?」
「……ふえ!?」
「……えっ」
「……ん?」
ミドリの低い声に、ウザダーを除く全員の間抜けな声が呻いた。
ってか、ウザダーは……あ、エテ公に追突されて跳ね飛ばされたのか……頭から土砂に突っ込んで、ピクピクしてる……
「今……大切な所だったのに、どうして邪魔するんですかっ!?」
「え? え? あ、あの? え? あれ? ミ、ミドリ……さん?」
低い声で威圧し続けてるミドリに、エテ公は困惑、そして恐怖してるようで、汗を流し始めた。
ざわ……ざわ……
周囲のギャラリーも同様に困惑し始めたようだ。
「あの……あれって、確か、マジカル・キュアの神様だっけ……?」
「ああ、そのはずだ。前に公園で大暴れして、マジカル・キュアを救ったの見たし」
「あぁ、あのヤンデレ騒ぎのか……」
「ってか 仲間割れしてるぞ……?」
「――くっ! この新人……ヤマティンつったか!
よくもミドリをここまでぇぇぇぇっっ!」
エテ公は俺を睨みつけた後、勢いよく飛びかかってきた。
「うるぁぁぁ! 死にされせぇぇ!!」
エテ公はそう叫ぶと、右手に光を纏う!
そして、一気に俺に向かって跳躍すると、見るからに威力倍増になった白く輝く拳を、逃げられない俺に向かって叩きつけ――! って……あ、詩織に石をぶつけられて、転倒した……
……うわっ……顔面からモロに……! って……あれは、かなり強打したな……痛そうにもがいてる……って、あ、そのままミドリに踏みつけられた……
「ドキドキさせられっぱなしで、力が弱まってるわね」
詩織はそう言って、転がっているエテ公に向かって、立て続けに石をぶつけている。
そして、ミドリも踏みつけている……
って、何なんだ、この図は……!
「おいおい! 神様がやられてるぞ……」
「どうやら、あのヤマティンってやつが、あの二人を懐柔してるっぽいな……」
「え? それヤバくね?」
「あいつ、やべぇよ」
俺の噂が酷いことになってきたし!
「ヤマティンさん……! 話を……お願いできますか……?」
エテ公を踏みつけながら、ミドリは赤くなり恥ずかしそうな、そして戸惑った表情を向ける。
うん、俺もその図を見て戸惑ってる。
えと……シオティン……は、少し嫌な表情も見せてるけど、あ、あの顔は勝ち誇ってるか……
きっと、葵と同じ様に、断るんだとほくそ笑んでるんだろう。
あの嫌な表情は、それでも少し不安が拭えないからだろうな。
……まぁ、大丈夫。ちゃんと話すから。
「そ、そうだな、うん。あ、でも、ここだと皆が見てるから――」
別の場所に、と、俺が続けようとした瞬間、
「そうですね。では皆さん、邪魔なので死んでください」
――え?




