第38話:詩織
遊園地でのロールプレイから数日後。
俺たちはアジトにいた。
これからのバイトに向けて、今日のパートナーの忠之が来るの待っていた。
あ、そういえば、見習い期間も終了するって言ってたな。
見習いも終わったら、いちいち白瀬さんか忠之と一緒に行動をする必要が無くなるはず。
図書委員の件もあるし、今度、ボスに聞いてみようかな。
「ふふふーん♪」
ソファーに座っている詩織は、ここの所機嫌が良い。
思い付くのは……先日、葵の告白を断った時。詩織を理由に断ったのが嬉しかったんだろうと思う。
しかし、あの後……葵にキスをされた。
あれには憤慨していたものの、そこまでキャラは崩壊していなかったし、その後、葵とも何か話してたようだし。
普通の詩織なら、ヤンデレを通り越して、サイコパスに変貌していてもおかしくはない。
「なぁ、詩織」
俺はその詩織に声をかける。
マフィアは、抗争を開始する時、相手にプレゼントを贈るという。
それに近い心理が、詩織の中にあっては危険だと思い、今日、尋ねることを決意した。
だが、これは……藪蛇になる可能性も高く、ずっと迷っていたのも事実。
「お前、最近機嫌が良いけど、どうしたんだ……?」
「兄貴が私の事を大事に思ってる、分かったからに決まってんじゃん」
即答かよ。
まぁ、俺もシスコンだからちょっと嬉しかったりする。
けど、気になってるのは、そこじゃない。
何故、キスを目撃したのに、機嫌が良いのか? だ。
「……でも、お前……その」
「……? 何、兄貴?」
「葵との……で、お前、不機嫌にならないのか……?」
俺は言ってしまった。
思い出したかのように憤慨して、葵に突撃しないか不安だったが……
「あれは……! そりゃ……そうだけど!!
……でも、葵ちゃんだし……ね。
まぁ、覚悟はしてたのもあるし……」
葵はそんな殊勝なことを言う。
「それに、私のキスの方が早かったし、ファーストだし。
だから、まぁ、大丈夫だよ」
「え?」
何か、不穏な事を聞いたんだけど……
「お前の方が早かったって、どういうこと……?
え? 俺と……なわけないよな、だってそんなの絶対に無いし」
「何言ってんの?
寝てる時とか、薬盛ってる時とか、しょっちゅうキスしてるけど?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ???????????」
「だから、同意のないキスでは私の方が先だしね。
でも……同意のあるキスでは……私、負けちゃったりして……」
詩織はそんな事を言って、目を伏せた。
いやいやっっっっ!!
目を伏せて悲しそうにしてる場合じゃないんだけど!? ってか、そんなことはどうでもいいんだけど!
え? 俺、いつの間にか、襲われてたってこと!?
貞操の危機もあったんじゃないのか……って、そっちは大丈夫なのか!?
「負けそうになったら、殺るしかないか……」
詩織はそんなことを呟いてるが、俺は混乱してそれ以降、耳に入らなかった。




