第36話:告白
その後、当たり障りない会話をした。
遊園地でばったり出会って、合流して……
その顛末とやらを、葵から聞いた。
「ボ、ボランティアサークルの活動で来たら、大和がいるから、びっくりしちゃった!」
そんな事を言ってるが、まぁ、話を聞いて予想する限り、ずっと俺たちを尾行してたんだろうな。そんな偶然はありえないし。
ダブルデートの日付を教えろとかも言ってたし……ってことは、駅前のペットボトル攻撃はコイツだ、間違いない。詩織を狙ってたし。
そうなると、遊園地での傘攻撃は……やはり葵なのかな。いや、でも白瀬さんとは絡み無いし……
そこで、さっきの”再開”で思い出した俺は、少しの期待を思い浮かべてしまう。
尾行という手段の理由も、そこへ辿り着く……ような気がするのは自惚れ過ぎだろうか。
「それで、大和。今日こうやって連れ出したのは……
実は、大和に……大切な話があってね……」
葵は、俺を真っ直ぐ見つめて、切り出した。
最初の緊張していた、言い辛そうな、何らかの不安はもう見せなくなっていた。
”再開”からの流れで、俺たちの壁は薄まったのだろう。
「大切な話……?
思い詰めてる感じもするけど……その、大丈夫か?」
「……」
俺がそう言うと、葵は少し逡巡する仕草を見せる。
先程の話の続きから言おうか、改めて言おうか、その辺りで悩んでそうな表情だった。
「……」
言い辛そうな話なのだろうか。
そういえば、ずっと会いたかった言ってたけど、あの頃、何かあったかな……
葵が転校してしまった時を思い出す。
ずっと小さい頃から遊んでいた、幼馴染。
それが突然、目の前から消えた。
とは言え、そこまで重大では無く、どうせ直ぐに会えると思っていた。
なので、深刻にはならず、いつもの挨拶の様に「じゃあ、またな」だけで最終日を終わらせた。
そしてその事は、俺たち兄妹のある種の後悔になっていた。
たまたまファミレスで会った時、どうやら葵も同じ様な気持ち、という事が分かり、ある意味ホッとしていたが、正直、どのように接すれば良いのかが分からない状態だった。
あの時の後悔、それからの空白期間。
昔のように遊びたい、また気軽に話したい、という思いはあったものの、「連絡しようぜ」と交換した連絡先に応えられずにいた理由は、実際はそんな所。
そして、葵に対する初恋。
それらも含め、再会に対する喜びよりも、戸惑いの方が大きくなってしまっていた。
まぁ、戦いで頻繁に会ってるからというのも、確かに理由の一つだけど。
俺はそんな事を思いながら、葵の言葉を待っていた。
「いろいろ……言おうと思ってたことがあったんだけど」
葵はそう言って俺を見つめる。
「結局は、全部、一つに集約されるから」
葵はそう言って、俺の一歩先まで近づき――
「大和。私ね、ずっとあなたのことが好きなの」
葵はその言葉で、真っ赤になる。が、決して、俺から視線を逸らさない。
「今も、ずっと昔から、あなたのことが好きなの。
……再開した時、昔からの想いも変わらずにいたことが……確認できた……ううん、むしろ、
会ってもっと……好きになっちゃった……だから……
この気持ちは、絶対に伝えたい……って……」
「……」
真っ赤になった葵は、それでも俺から視線を逸らさない……
――が、俺は、ど、どうしよう……ぉぉぉぉ!?
ま……さか、告白だった……なんて……!
確かに、葵の事は……昔、好きで……まぁ、初恋ってやつだろうけど、そして、それを期待したこともあるし、さっきもそう考えた!
でも、まさか、それが本当で、そして葵から好きって……え、今……え? こういう時、ど、どうすれば……!?
――って!? でも、ミドリの事も考えないと……! 放置する訳にはいかないし……!
あぁぁぁぁ!! ……ん、あれって……!?
その時、葵の背後……石畳から離れた木々の陰に、良く知っている人物の影が見えた。
あいつ……
……あ、そっか。
そう言えば……そうだった……
なんだ、昔から……答えは出てたんじゃん。
「……葵」
俺は葵の背後から視線を動かし、目を離さない葵に話しかける。
すると、葵の表情が揺れる。
「……その、凄く……嬉しい、その……
俺も、お前のこと……初恋……だったから……」
「え、ほ、ほんと……っ!?」
俺の言葉に、葵は今まで見たことのないような、驚きと笑顔の表情になる。
「でも……俺は昔から、一人の女の子を気にしなきゃいけなくてさ」
「……あ」
俺の言葉に、葵は何を言いたいのか、直ぐに分かったようだ。
さすが……やっぱり俺の幼馴染。
「あいつを一人前にするまでは……そういうのは考え難いよ。
……って、葵なら、分かってた……よな?」
「……そっか! やっぱりそっか……!」
「そういうこと。
……だから、ごめん。
俺は……今は詩織の事を、大事に思ってる」
と、そこまで言った途端――
「おににににににいぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんん!!」
「――ぐべらああぁぁぁっっっっっっっ!?」
俺の腹に、詩織の頭がめり込み、そのまま抱き付かれた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
詩織は叫びながら、タックルを止めようとせず、頭で腹パンを何度も噛ましてくる。
お兄ちゃんと呼んでるけど、「しおらしさ」は無く、感涙してるだけ。
あぁ、よっぽど嬉しいのか……
そうなると、葵の期待には……まだまだ応えられそうにないな……
「あーあ……やっぱりそっか、そうだよねぇ」
葵は俺と詩織が組み合ってるのを呆れるように眺め、そして溜息を漏らす。
「でも……」
――くぃ
葵は横から、俺の服の裾を掴む。
「ずっと待ってたから、これからも待つつもりだよ」
そう言って照れた葵の顔が、俺の目の前まで迫ると、柔らかいものが俺の唇を濡らした。
「――っ!?」
「じゃあね! 詩織ちゃん!
まだまだ負けないから!」
葵はそう言って、遊園地へ繋がる道をダッシュして行った。
そして、肝心の詩織は、キスされた俺の唇を眺め、それに上書きしようと、自分の唇を――
「って、やらせねーし!」
俺は咄嗟に躱して、詩織のタックルから逃れる。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!! ラスボスが増えたぁ!!」
詩織はそう言って葵のキスに憤るものの、その表情はどこか嬉しそうだった。




