第33話:抜け駆け
絶叫コースターを無事に終わらせ、その後、空いているアトラクションに数回乗った後、俺たちは広場で昼食を取ることにした。
白瀬さんのサンドイッチは絶品で、見た目は普通のタマゴサンドだが、照り焼きのチキンも小さく入っており、それが絶妙なバランスで味付けされていた。
食べさせてあげるとか言ってたけど、そんな恥ずかしいことは出来ないので、普通に食べている。
詩織の弁当は相変わらず美味しい。こいつはなんだかんだで、料理が上手かったりする。
薬が混入されているだろうと思われるおかずは長年の経験から分かってるので、それは避ける。
忠之や葵、赤城さんは、それらを少し貰いながら、売店で軽食を注文していた。
「ネトラレはどっちでも良いけど、多角関係っぽいことは示唆してね……詩織さんのことも含めて」
次はどこへ行こうか、と悩んでる時だ。
白瀬さんは、俺にそう告げる。
「……もう、これで最後で良いよな?」
「うん。そのつもり。ヤンデレは……この状況じゃ難しいから、今度で良い」
「……了解」
とりあえず、これで最後ということを知り、少し安心した。
ヤンデレのロールプレイなんて、死ねと言われてるに等しいから、助かった。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
俺はその場を離れ、屋内のトイレへと向かった。
用を足し、トイレから出ると、何故かそこには葵がいた。
「あれ? 葵?」
「あ、ちょっと良いかな?」
そう言って、葵は俺に近寄って来る。
「あ、あの……さ! ちょっと、付き合って欲しい所があるんだ……」
微妙にテンパった葵。
「い、行こう!」
「――え? お、おい」
葵は俺の手を掴むと、いきなり皆とは逆の方向へと歩き出した。
「あ、あっちに美味しいクレープ屋さんがあるんだ!
そこにちょっと行ってみたくて」
「え? み、みんなは?」
「い、言ってきたから平気!」
そう言うと、葵は俺の手を掴んだまま、遊園地の出入り口の方まで歩いていってしまう。
「ここを出て、あっちの商業館にあるんだよ」
「――え! ちょ、ちょっと」
「だ、大丈夫! い、行こう――」
葵は強引に俺の手を引っ張り、遊園地から出て、信号の先にある商業施設へと向かった。
強引だな……葵。
そう言えば、昔遊んでた時も、こんな感じに連れ回されたの多かったけ。
「懐かしいな、こんな感じ……」
「ふふ……私もそう思っちゃった」
信号待ちになってしまい、俺たちはそのまま黙り込んでしまう。
赤信号になったばかりなので、青に変わるのはまだ先だ。
「……あのさ、私ね、ずっと大和のこと探してたんだ」
すると葵は、俺の目を見ながら、呟くように言った。
「そして、別れを言う事なく、突然消えた幼なじみのことを……謝らなきゃって思ってて」
「そう……なんだ」
”その……昔のことだけど、ごめん。
――私、すぐ帰ってくるんだと思ってたの。
遊びに行くような感覚だったから、転校のこと言えなくて”
以前、葵に会ったときに言われた言葉。それが心中に広がる。
「偶然だったけど、会えてよかった」
葵はそう言って、微笑んだ。
あぁ……そういえば、こういうヤツだった。
最近は忙し過ぎて忘れてたけど、こいつは昔から……俺の親友でもあったんだ。
「うん。俺も……会えて良かった。
そうだな……うん。そうだったよ」
「……ん?」
「いや、昔を思い出しただけ」
「……そっか……あ、信号変わったから、行こう!
あのビルの1階にあるんだ」
そう言って、葵は俺の手を握って、歩き出す。
葵が掴んでいたはずの手は、何故かいつのまにか、掌へ。
その形は、お互いに手を繋いでいる状態となっていた。
さすがに、照れるというか、何というか、居心地が悪くなってきた。
「あ、葵――」
声をかけようとして、俺は言葉を飲み込む。
というのは、明らかにそれを意識して、真っ赤になった横顔が見えたから。




