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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
3/63

第3話:正義のヒロインたち

「依光くん、おはよう」



学園に登校すると、門の所で赤城さんが声をかけてくれた。




「あ、おはよー」



「むむむ!」



何故か詩織は、俺の影に隠れて、赤城さんを睨みつける。




「お前は、何やってんだよ」



詩織を軽く小突くと、観念したように、赤城さんの前に出てきた。


挨拶するのかと思ったのだが、




「ライバルですか?

あなたは我が青春の全てを捧げる兄君の心の――」



「やめい!」



再度、詩織を小突く。



「あはは! 面白い妹さんだね!」



「何か、悪い……妹の詩織だよ。一年なんだ」



俺は赤城さんに謝り、詩織を紹介する。




「へえ! そうなんだ! よろしくねっ」



「う……うん!」



詩織は俺に睨まれた後、元気良く答えた。




その時、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。




「あ、詩織……ちゃん?」



その声に後ろを振り向くと、少し緑のかかった髪を一つに束ねた女の子が立っていた。


少しそばかすもあるが、おっとりとした雰囲気のある可愛らしい子だった。




だが、その面影は――




「あ、この前の……」



そう、マジカル・キュアの一人、ミドリと呼ばれていた子に違いなかった。




「え? 兄貴、知り合い?」



俺の呟きに、詩織が反応した。




「え、知り合いというか、この前――」



「むむむ! てぇぃ!」



俺が言いかけたところに、詩織は俺の足を踏みつける。




「ぐうぉぉぉい! 何しやがる!

お前、得意技になってないか!?」



「このナンパ、エロ兄貴!」



詩織は変に勘違いし、俺に非難を浴びせた。




「あはは! 詩織ちゃんは、お兄ちゃんっ子なんだね!」



赤城さんが楽しそうに、俺たちのやり取りを見ていた。




「あ……小鳥?」



すると、ミドリが、赤城さんに声をかけた。




やはり、二人は知り合い――というか、仲間なのだろう。



「や、かなえ! おはよ!」



そう言って、赤城さんは、ミドリに声をかけた。


俺は気になって、詩織にミドリの事を聞いてみる。




「なぁ、詩織、彼女と知り合いなのか?

――って、俺は初対面だからな!

たまたま見かけただけだから、勘違いするな!

だから、その巨大ハンマーを置け!」



巨大ハンマーを持った詩織は、渋々と巨大ハンマー(一トンと書かれている)を地面に置いた。



……一体、どこから出したんだよ。


それに渋々置くなよ……




緑川みどりかわ かなえちゃんだよ。

昨日、お友達になったんだ!

あ、叶ちゃん、このイケメンで爽やかな男子は、私の兄貴!

んで、こっちがライバルの――って知り合い?」




赤城さんを勝手にライバル視しているのは、非常に迷惑な話だと思ったが、当の赤城さんはクスクス笑っていた。




「うん。叶とは知り合いだよ!」



詩織の言葉に、赤城さんが答えた。




緑川さんはその言葉に合わせて頷いた後、俺の方を向く。



「はい。よろしくお願いします。お兄さん」



そう言って、緑川さんは会釈をした。




「あ、いや、こちらこそ妹をよろしく」



見た目通り、ホンワカしていて、丁寧な子だった。




――彼女たちを恐怖で怯えさせるんだよな。


そんなこと、俺に出来るのか……




俺は昨日のことを思い出して、そう思ってしまった。




ちなみに、正体は決して言ってはいけないと、白瀬さんが言っていた。




まぁ、すぐばれるとは思うが、こちらから話題をする必要は無い。




「昨日、詩織ちゃんはお兄さんの話題ばっかりで、凄かったんですよ」



そんな俺の胸中を知らず、緑川さんが言う。




「そ、そうなんだ……何の話題かは聞かないでおくよ……」



どんなことを話してるのかは、容易に想像できたので、あえて深入りしないようにする。




「あ! もうすぐ予鈴なっちゃうよ!」



赤城さんは時計を見て、俺たちを促した。


確かに、もういい時間になっていた。



「お、んじゃ、また後でな。詩織。それじゃ緑川さんも」



「はい! それでは――」



と、緑川さんが言いかけると、




「兄貴、さっきのこと詳しく聞くからね! ガルル!」



詩織は緑川さんの前に立ち塞がり、俺に向って狂犬のように吠えた。




「はいはい。んじゃな」



いつものことだが、仕方ない。


昼休みにでも話するか……どうせ昼飯は一緒に食べる約束してるし。




そうして、俺は赤城さんと一緒に、自分のクラスへと向かった。



「あ」



俺はさっきの緑川さんの言葉で、赤城さんの名前を思い出す。




「赤城さんの名前って、小鳥っていうんだったね」



「うん? そうだよ!」



「珍しいというか、可愛い名前だな」



俺がそう言うと、赤城さんは真っ赤になって、




「そ、そんなことないよぉ! 可愛いなんて――」



「こぉぉぉら! そこ! フラグ立ててんじゃねーぞー!!」



後ろから詩織が大声で怒鳴り散らす。




「お前、唐突すぎんぞ!

ってか、さっさとクラスに行けよ!」



そんな俺たちのやり取りを、赤城さんは笑って、またもや楽しんでくれていた。




……



……




――そして、昼休み




学食の入り口で、詩織と待ち合わせをしていた。


のだが――




「……おせぇ」



既に待ち合わせ時間から十五分経過。


いい加減腹減ってるので、イライラしてくる。




「……ったく、何やってんだよ。定食無くなるだろうが」



「定食は無くなりませぬ」



その時、詩織が横から現れ、言葉を続ける。




「被告、証人を連れてきた。これで弁明からは逃げられまい」



「お前、おせぇ――って、緑川さん?」



「はい。今日はご一緒にって、詩織ちゃんが」



そう言って、緑川さんは、また会釈をしてくれた。




「あぁ、別にそれは大丈夫だけど――」



詩織の方を見ると、ドヤ顔をしていたので、どうでも良くなってきた。




「……腹減ったから、行こう」



俺はそう言って、二人を促した。



混んでいたが、運よく三人分の席が確保できたので、それぞれ注文を受け取り、席へ戻る。




「さて、兄貴?」



「んあ?」



 唐揚げ定食を食べ始めた俺に、詩織が口を挟んできた。




「叶ちゃんとは面識あるの?」



詩織は向いの席から、俺の唐揚げを一つ取って、そんなことを言い始めた。




「お、お前、俺の唐揚げ!」



「これは人質よ。ちゃんと答えないと、舐めるわよ。

そして、兄貴の口に突っ込んでやるから!

だから、ちゃんと答えないで!」



「どうしろというんだよ!」



俺と詩織のやり取りを、緑川さんはあたふたと眺めていた。




「あのなぁ、お前と一緒に見ただろ?」



「へ? 何を?」



「転校前の日、商店街で見たじゃないか」



「あ、兄貴……?

私と一緒にいながら、他の子を視姦するなんて、どんだけ変態なのよ!」



「あー! もう、ちがうっつーの!」



いい加減、詩織の相手をするのが面倒になってきた……




緑川さんは、頼んだ「きつねうどん」に箸を付けず、おろおろと、こちらを伺っていた。




「一緒に見ただろう?

あのマジカル・キュアと、ブラック・マグマのやつ。

その中の一人だったじゃん」



「え? そうなの? 変身してたのに、何で分かるの?」



と詩織が答えると、




「そ、そうですよ! 私はそんなことしませんよ!」



何故か緑川さんは焦りながら否定した。




「ほら、兄貴。違うじゃん。

大体、マジカル・キュアの正体は公然の秘密だし、変身してるから分かるわけないんだよ!」



は?


そんなこと言われても、あの時の女の子、そのままじゃないか。


髪の色が少し緑になっているのもそうだし、顔だってそのままだ。


違うのは甲冑を着ているか、制服を着ているかの違いだけ。




「お前、分からないのか?」



俺は、詩織の態度に少し疑念を感じとり、改めてそう尋ねた。




「だから、誰も分からないの。

そんな嘘の説明するなんて、やっぱり怪しい!

エロしてたね? 兄貴!」



だが、俺の疑念も、詩織の態度で吹き飛んでしまった。


この口調は本当に分からないし、正体も不明ってことなのだろう。




「そうです! 違います!

もう、お兄さんのエッチ!」



緑川さんまでそんなことを言い始めたものだから、




「ほほう……やっぱり、そうなんだね? 兄貴?」



鋭い目つきになった詩織は、持っていた俺の唐揚げをベロベロ舐めはじめる。




「ちょ――!? お前、何やってんだ!」



「うりゃーー!!」



「――!?」



詩織はテーブルを超えて、一気に俺の口へそれを運びやがった。




「えへへ♪ これで、兄貴と間接キスだね♪」



なんて、詩織は喜び始めたのだが、ベロベロ舐めておいて、何が間接キスだよ……




「――はぁ。

分かった勘違いだっただけだ。

そう思っただけ。それでいいだろ?」



口に入った唐揚げを容赦なく噛みながら、俺は観念してそう言った。




「うん!」



納得した詩織は、ご機嫌に返事をする。


いや、納得というより、間接キス(?)がご機嫌にさせたのだろう。



ふと、緑川さんを見ると、彼女はちょっと俯き気味に、何かを懸念している様子だった。




「緑川さん、俺の勘違いだったよ。

変なのに付きあわせて悪かったね」



俺がそう声をかけると、緑川さんは顔を上げ、




「――いえいえ!

全然、勘違いは誰にでもあるものですから!」



と、少し変なテンションで答えてくれた。


いつもの緑川さんの態度とは違うので気になるが、これ以上、変なことを言うのは止めておこうと思った。




しかし、本当に勘違いなのだろうか。


まさに、そのままなんだけどな……




「ね、叶ちゃん!

私と兄貴のラブ間接キッス、見ててくれた? 証人になった!?」



と、詩織は止めて欲しい確認を、緑川さんに尋ねる。



「あ、ごめん! ちょっと考え事してて……」



謝るように、頭を下げる緑川さん。


本当に良い子だなぁ、と思ってしまう。




「じゃあ、もう一回やるから! あ、写真を撮って――」



俺は急いで、その場を後にした。




……



……




放課後になり、俺たちは例の雑居ビルへと向かう。




今日から、ブラック・マグマの一員となって、バイトをすることになっている。




「なぁ、本当にバイトしても良いのか?

放課後は部活とかいろいろやりたいことないのか?

転校したてで、友達とか――」



俺は隣で歩く詩織に声を掛けた。


俺たちは転校したてということもあり、学園生活に慣れるまでは、暫くバイトとかはセーブしておきたい。


俺はそう思っていたのだが、詩織は本当に大丈夫なのだろうか。




「平気だってば!

友達はもう出来たし、遊ぶ時くらいはバイトが休みの日にするよ。

元々、バイトやる気だったし」



「そうか。なら良いんだけどな」



「……兄貴も、無理やり私に付きあわせた形になって、ゴメンね」



詩織は殊勝にもそんなことを言う。


だが、俺の生活には詩織の面倒を見る、というのも含まれているから、そんなことは大して気にならなかった。




「俺も元々バイトはする予定だったから、問題ないよ。

仕送りは最低限だしな」



それにしても、土日だけ休みというのも少々辛い。




後々、交渉してみるのもありだろう。




「あれ……?」



商店街の入り口から、暫く道なりに進んだ所に開けた場所がある。


そこのベンチに座っている女の子に見覚えがあった。




「赤城さん……?」



「あ、本当だ……ね。叶ちゃんもいるね」



俺の声に、詩織も気付いてそのベンチを見入る。


だが、詩織の声は少し怪訝な声になっていた。




「……何か、深刻そうだな」



ベンチには三人座って、何やら話し込んでいる。


緑川さんが深刻な表情で何かを訴え、赤城さんともう一人がそれに対して頷いていた。




もう一人とは、髪が少し青く染まっており、長髪で綺麗な女の子。


――間違いない、アクアと呼ばれていた女の子だ。




「声、掛けるの止めようぜ」



俺はそう言って、迂回するように右手の路地へと入った。




もしかして、俺が緑川さんにマジカル・キュアの一員であるようなことを言ったからなのかも知れない。




それに、あの子、やはりどこかで……




「あ、待ってよ。兄貴!」



詩織が俺の後に追いかけてきた。




「なぁ、詩織」



「ん、何?」



「あそこにいた、アクア……

もう一人の長髪の女の子、何か記憶にないか?」



「え? アクア? マジカル・キュアの? そんな子いた?」



やはり正体について、詩織は気付いてないのだと、改めて認識した。




「いや、緑川さんと赤城さんと、もう一人いたじゃん。

あの子、どこかで見た覚えないか?」



俺は言い直して、詩織にそう尋ねた。




あの時も感じたが、やはりアクアが過去の記憶と重なる部分がある。


だが、それが何か思い出せないので、俺は詩織に聞いてみることにした。




「うーん。見た覚えかぁ。そう言われると、どこかで……」



嫉妬の暴言が飛ぶかと思ったのだが、意外にも詩織は冷静に考え始めた。


詩織もどこかで見覚えがあるのだろうか。




「……あ!」



詩織は突然立ち止まって、何かを思い出したか、後ろを振り返る。



「ちょっと、確かめてくる!」



そう言って、先ほどのベンチの方へと走って戻り始めた。




「おい! ちょっと待てって!」



俺も詩織の後を追って、走り始めた。




先ほどのベンチの所まで来るが、既に誰の姿もそこには無かった。




「はぁはぁ……なぁ、知ってるのか?」



呼吸を整え、俺は詩織にそう尋ねた。




「もしかしたら、だけど、あおいちゃん……にも見えたかも」



――葵?




「葵って、み、水島みずしま あおいか!?

……なるほどな。確かに、そうか」



俺はその名前を口にすることで、確かにその姿を思い出そうとしていたのが分かった。



「懐かしいな」



水島葵とは、幼いころ近所に住んでいた、いわゆる幼馴染だった。


詩織とも仲が良く、いつも三人で一緒に遊んでいたものだ。




だが、葵は小学校の頃、途中で転校してしまい、それからは音信不通となっていた。




お互いにまだ小さいこともあり、会えなくなる、という事実に深い意味を見出せない年齢だった。




また会えるだろう、という思いは裏切られ、存在は忘れることなく、思い出だけが美しく残っている状況になっていた。




「……真のライバルの目覚め……か」



詩織はそう呟くと、俺の腕を自分の腕に絡める。




「お、おい! 何やってんだよ!」



「もし、葵ちゃんなら、きっと兄貴の所に来るよ。

間違いないんだから!」



「……そう……なのか?」



「当たり前じゃない!」



憤慨するもの、詩織はどこか嬉しそうだった。


もちろん、俺も懐かしい思い出が蘇り、口元を緩まずにはいられなかった。




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