第28話:ダブルデート? ~ 忍び寄る気配
「あれが……手伝い?」
「え? 手伝いって何? デートじゃないの?」
駅前より少し離れたベンチ。そこに、二人の女性が佇んでいた。
「うーん、何かね、デートじゃなくて図書委員の手伝いって言ってたよ」
赤毛のかかった女性は、傍らにいる少し青い髪の色の女性の問いに答える。
「図書委員……ね。
確かに、そんなこと言ってたけど……」
青い髪の女性は、中央広場にいる四人を再度見る。
その姿が……どう見ても初々しいというか、デートというか、そんな雰囲気に見えてしまうのは、想い人がそこにいるからだろうか。
「……でも、どう見てもダブルデートに見えるんだけど!?
それに、あの変な男は、誰なの!? 見たことないし!」
「あ、本当だ……誰だろう。
初めて見る……あんな人、学校にいたかなぁ……?」
赤毛の女性は詳しくその男を見ようとするものの、地面に倒れていて、その顔があまり見えなかった。
「……後をつけるわよ、小鳥!
あの四人……怪しいわ……」
「え? うーん……前回のこともあるから、ちょっと気が引けるんだよね……
ちょっと反省してるのもあって――」
「ミドリはもう恋に落ちちゃってるから、放っておくしかないじゃない。
それとこれとは違うのよ!」
青い髪の女性は、自分の勢いに少し恥ずかしくなったのか、顔を染めて横を向いた。
「葵は……素直じゃないね……」
「う、うるさいわね!
でも、仕方無いじゃない……」
「あー、はいはい!
私も……依光くんのこと、ちょっと気になってるし……
後をつけるくらいなら良いかな」
「え……? 気になってるって……え? 小鳥!?」
「ふふーん、さぁ、何だろうね」
「小鳥……性格、本当開き直ったね」
「葵に言われたくないよ。ここまで腹黒に変貌するなんて、思わなかったしね。
それに、どんどん開き直るわよ……依光くんにも……助けられたし……」
小鳥と呼ばれた赤毛の女性は、そう言って、少しだけ頬を染める。
「はっ!? 何それ、ちょっと、あの女よりフラグ立ってるように見えるんだけどぉ!?
こっち来て、詳しく――」
「あ、移動するみたいだよ、葵」
「くっ……仕方ないわ……後で詳しく聞くからね」
青い髪の女性――葵は、そう言うと四人を追って歩き始めた。
……
……
駅前は賑わっていた。
土曜日ということもあり、制服姿の人はいない。
詩織はお淑やかな花柄のワンピースに、軽い緑色のカーディガンを羽織っている。
そして、小さなポシェットをたすき掛けにし、手にはかごバックを持っている。
詩織にしては、結構、気合いが入った格好だ。
白瀬さんは、いつものアンダーリムのメガネはもちろん、チェック柄のトップスにスキニージーンズと、ちょっと原宿から青山の中間的な(?)おしゃれをしていて、びっくりした。
手提げの鞄を肩から掛け、小さな紙袋を持ち、ドクロの髪留めでツインテールはいつもの通りだ。
忠之は体格が良いので、ボーダーのシャツとジーパンを着ていても、何故かモデルのように見えていた。
髪も短いので、ある意味格闘家に見えなくもない。
俺も同じように、ジーパンに、青いシャツを着て清楚感を出しているが、忠之の隣だと貧相に見えるだろうな……
「それじゃ、電車に乗って咲浜市に行くとしよう」
白瀬さんはそう言って、改札へ向かって歩き始めた。
「え? 咲浜市に行くの?」
「そう。やっぱり遊園地が定番だから、コッスモワールドだ」
白瀬さんは得意げにそう言って、人数分の切符を買いに行ってしまった。
コッスモワールドとは、複数の複合施設ビルに隣接してある小規模の遊園地だ。
「あ、なぁ、大和よ。俺たちは一体、何をしようとしているんだ……?」
忠之は、かなり怯えた表情で、俺に尋ねてきた。
「あぁ……何というか、まぁ、白瀬さんが……実験したいから、手伝ってほしいんだって」
デートとか、図書委員とか、二次創作や取材なんて話すと厄介そうだったので、まぁ一言に集約される”実験”という単語で誤魔化すことにした。
って、他のどんな言葉より、それがぴったりだと言ってから気付いた。
「お、おう……そうか……分かったぞ」
忠之はそう言って、落ち込んでいる。
白瀬さんや詩織には叶わないんだよな……
「兄貴……えへへ」
すると、詩織は俺の隣に来て、手を繋いできた。
「いろいろあるけど、こうやってデートするのって初めてだから、ちょっと嬉しい」
「お、おう……そうか」
うむ。やはり我が妹は可愛いな。
残念な部分がいっぱいあるが、それでも可愛いと思える妹なのだ。
「あのね、兄貴。デートプランとか、コースとかいろいろ考えるの面倒だから、
もうここで私を押し倒して、私の初めてを――ぐぼぉぉぉぉぉ!?」
最後まで言えなかったのは俺の突っ込みではなく、詩織の斜めから勢いよく飛んできたペットボトルが腹パンしたからだった。
「お、おい、詩織、大丈夫か……!?」
すると、詩織は腹を抱えながら、嫌らしい笑みを浮かべていた。
「ふふ……ふふ……
そうなのね……この痛み……あのライバルが……来ているのね……」
「ライバル……?」
俺はそう言って、ペットボトルが飛んできた方向を確かめるが、特に変な人はいない。
ペットボトルは、きっと誰か投げつけたんだろうが、怪しい人はいなかった。
「おい、詩織、お前誰かに狙われてるとか、そういう――」
「兄貴、心配しないで。これは聖戦なの。
そして、それを超えてこそ、私たちの愛は本物になるのよ……」
「お、おう……そうか……」
と良く分からないが納得した所に、白瀬さんが切符を持って現れた。




