第24話:悩み相談
「あ、依光くん。おはよう!」
「お。赤城さん、おはよ」
今日も詩織と一緒に学校へと向かう中、途中で赤城さんと出会った。
「詩織ちゃん、元気になったかな?」
そう言って、俺の横を歩く詩織に声をかける。
二、三日前までは塞ぎ込んでいたのだが、そこは頑丈な詩織。最近は復活して、元の詩織に戻っていた。
いや、元の……とはちょっと違うけど……
「うん! もう元気!
だって、真の敵を倒すまでは私の戦いは終わらないし!」
「うん? 敵?」
「あ、いや、気にしないで……」
詩織はミドリをラスボス認定した。
元気になったは良いけど、ここ最近、詩織は何故か鏡に向かって、呪いの言葉を吐きまくってる。
自分に暗示でもかけてるのだろうか……妹が怖すぎる……
「……赤城さんは……大丈夫?」
俺はそう尋ねると、赤城さんは驚いて、
「え!? な、何が!?」
「いや、赤城さんも、ここの所、元気無かったし」
「い、嫌だなぁ! そんなことないよ! 私はいつも元気だし!」
まぁ、葵との下品なバトルに加え、ドキドキさせられっぱなしで、良い所無かっただろうし。
あれじゃあ落ち込むだろう……それにミドリもファイアが何か悩んでるようなことを言ってたし。
「そっか、まぁ、何かあったらいつでも相談に乗るから」
「う、うん……ありがと……」
赤城さんは少し赤くなって、俺の言葉に頷いた。
ちなみに、いつもなら、この辺で詩織がちょっかい出してくるんだが、ここ最近は大人しい。
どうやら……ミドリ以外は眼中に無いってことみたいで……怖いな……
「あ、叶ちゃん!」
すると、詩織は前を歩いていたミドリ……じゃない、緑川さんに気付いて、声をかけた。
「ん? あ、詩織ちゃん、おはよう。
お兄さんも、おはようございます……あ、小鳥もおはよう」
そう言って、緑川さんは、歩を止めて俺たちを待っている。
「……」
「ん? どうしたの? 兄貴、変な顔して?」
「い、いや、何でもないよ!」
「……? 変なの」
いやいやいやいや!
ミドリ……と会うのは……意外にあの告白以来だったりするんだよね……
しかも、ラスボス認定している詩織と仲良くしてるから、何というか、良い緊張と嫌な緊張が二重で襲いかかって来てるというか……
それに加えて、オタ・クールのタブルデートとかいう提案も考えると、本当、胃が壊れるんじゃないだろうか……
「じゃあ、兄貴、先行ってるから!」
「お兄さん、それでは」
詩織と緑川さんは、そう言って、先に進んで行く。
「……」
横を見ると、赤城さんは先程の陰鬱な表情に輪をかけて、暗い表情となっていた。
あぁ、これはあの時の……ミドリのデート反対派の……表情だね、これは……
当事者が考えることじゃないけど、何とかしてあげたいな。
どうせなら、俺のヤマティンとしての誤解も解きたいし。
「あ、そ、その、赤城さん」
「え?」
「きょ、今日、お昼でも一緒にどう?」
「え!?」
「いろいろ……話したいなぁ……とか?」
「……あ」
そう言って、赤城さんは驚いた顔をした。
……
……
俺たちは、屋上のベンチに座り、互いに昼食を広げている。
赤城さんは手作りのお弁当……かな? ちなみに、俺は購買で買ってきた焼肉弁当だ。
焼きそばパンを買うために購買にダッシュとか、俺は聞いたことが無い。
うちの学校はパンから弁当まで幅広く扱っていて、穏やかに購入が可能だ。
「な、何か気を使わせちゃったね……?」
赤城さんはそう言って、空元気のような、そんな微妙な表情を向ける。
「そんなことは無いんだけどね……」
ちなみに詩織は、緑川さんとランチだそうだ。
本気でミドリだけを敵視しているようで、しかもその敵とランチということで、心底穏やかではないのだが……
しかし、何というか。
俺だけ赤城さんの正体を知ってるし、しかもバイトとして何度も顔を合わせてるから、今更な感じもする。
けど、きっと赤城さんにとっては違うんだよな。
ま、いいか。気にしたら負けだ。
「何でも良いから話してよ。悩み事とか……緑川さんと何かあったとか?」
「――えっ!? そ、そんな事……」
「あぁ、その、ごめん。さっき、緑川さんと会ったとき、ちょっと様子が変だったし」
「あ、そ、そっか……」
そう言って、赤城さんは膝に抱えた弁当を両手で包み込むようにする。
「それに、そんな畏まった態度じゃなくても良いよ。
何というか、赤城さんは、もっとざっくりとした雰囲気が似合うというか……」
あのアクアとのバトルや、言動の方がマッチしてるというか、適切というか。そんな気がしたので軽く言ってみたのだが、
「……そう……なのかな?」
と、一層辛辣な表情となって、弁当に顔を埋めそうになっている。
あれ?
もしかして、ビンゴ?
ミドリ言ってたファイアの悩みってのは、自分の身の振り方についての悩みのことか……
あ、そう言えばアクアとのバトルでも、そんなことを言ってたっけ。キャラ作りが失敗とか何とか。
「そっか、そっか……でも、それも赤城さんの一部だと思うんだけどな。
だからどっちの赤城さんも赤城さんだし、俺はどっちも好きだけど……」
と、いつもファイアを見ているからか、そんな軽口をついつい言ってしまった。
「――ふぇぇ!?」
あ、驚かせてしまった。
そりゃそうだよな。あの奔放な赤城さんは見てないことになってるし。
「あ、そんな気がしただけ……というか、ね。
だから……片方に疲れたら、もう片方は俺に……いつでも見せてよ。
って、突然言われてもか……まぁ、俺は知ってるから言えるんだけどボソボソ」
「え? 何?」
「あ、ごめん……何でもない……っと、
まぁ、そんな感じで、俺は……葵とも仲良かったし、そんな感じだから気を使わないで良いよ」
「――あ、そうだね」
すると、赤城さんはそれに気付いたで顔を上げ、俺を凝視する。
「そういうこと。まぁ、俺を適当に使ってくれよ! な!」
と、俺も砕けた口調に変えて、まるで葵に話すような態度で接する。
「う、うん! 分かった!」
そう言った赤城さんは少しだけ、ファイアの面影が出たのだった。




