第22話:白瀬さんとファミレスで
「ふぉふぉふぉ、それじゃ、またよろしく頼むぞえー」
ボスにそう言われて、俺はバイト先を後にした。
ちなみに今日は月曜日。
今日のバイト代に加え、土曜日の事件の臨時収入を得た所だ。
「かなり……がっぽりの収入だな……」
土曜日は、かなりドキドキさせっぱなしだったようで、その収入は凄いことになっていた。
しかし……あのエテ公の方は大丈夫かね……この調子じゃ、マジカル・キュアは負けっぱなしになるんじゃないか?
って言うか、そもそもドキドキしないようにするっていう、あっちの方が分が悪いんだよな。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
俺は呼び止められる声に振り向くと、白瀬さんがアジトのドアから出てくる所だった。
「今日は妹がいなくても、なかなかな活躍だったじゃないか。
しかし、妹の方は大丈夫なのかい?」
「あ、あぁ……
今日は疲れたから……家で休んでるそうだ」
詩織は土曜日のショックからか、今日は休みだった。
あれから大分落ち着いてはいるものの、壁を見つめ、ひたすら笑ってたり、とか……まだ本調子じゃない。
大丈夫かな……
っと、それより――
「それで、どうかした?」
「あ、あぁ。ちょっと帰りにでも……お茶しないか?」
「お、お茶!? か、壁ドンじゃなく――」
「言うな!! ……それについて、ちょっと依光先輩に話したいことがある……」
「お、おう……分かったぞ……」
「そうか……じゃあ、ファミレスにでも行こう。
私が奢ってあげる。依光先輩の活躍で、バイト代が弾んでるから」
「そ、それは嬉しいな……?」
この前の土曜日のことと言い、ちょっと不安なんだけど……
……
……
軽食とドリンクバーを頼み、俺は周りを確かめる。
このファミレス……赤城さんや葵、緑川さんと会った所だよな……
こんな状況で会うのは面倒だから……いるわけないよな……?
「ん? どうかした?」
「い、いや、何でもない!」
「そうか……」
「ド、ドリンク俺取って来るよ。何が良い?」
「あ、いや、でも、悪い……けど、じゃあ、オレンジジュースで……」
「了解」
俺はそう言って、座っている席の壁の反対側にあるドリンクバーへと進む。
ふう……しかし、妙な空気だな。
何の話なのか……って、先日のミドリとのデートの事か。
さて、俺は……何を飲もう――
――って!?
あ、あそこに座ってるのは、葵じゃん!?
俺たちが座ってる席とは逆方向で、しかも壁が邪魔をしているので、見つかる確率は少ないが、そこには葵がいた。
俺たちと同じ、バイト帰りってことか……
どうやら一人のようだ。
席に座ってメニューを見ているせいか、こちらには気付いてない。
さっさとドリンク――俺もオレンジジュースでいいや――を入れて、席へ戻ろう。
ここは危険すぎる!
「お、お待たせ!」
「あ、あぁ。その、ありがとう」
「い、いや。それで……何か話があるんだろう?」
葵がいたこともあり、外堀から話を進めるのが面倒になったので、俺は直球で聞くことにした。
「……この前の土曜日の件だ」
「お、おう……ミドリの……件だよな?」
「うん? いや、そうじゃない。壁……ドンの話だ」
「え? あ、そっち?」
「ああ……お前が誰とデートしようが、特に私は……気に……ならない」
「そうですか……」
「だがな……私は、デートというものを……したことなくて、いや、それだけじゃない、
まともに男と話すことすら……出来ていないんだ」
白瀬さんは、アンダーリムの眼鏡を持ち上げながら、俺の目を真っ直ぐに見て、そう言った。
「こうやって、話せるのは……依光先輩だけ……」
「……」
「そこでだ、頼みがある」
白瀬さんは、そう言い切って、俺の方へ顔を近付けた。
「まず、私が、その……こういうのが好きだというのは……出来るだけ黙っていて欲しい」
「こういうのって、アニメとか漫画とか、壁ドンが好きっていう話か?」
「あ、あぁ、そうだ……まぁ、別に壁ドンが好きってことは無いが……
あ、あとそれに、この前も言ったが……二次創作のこともな」
「なるほど……分かった」
そっか。オタク趣味を広めないで欲しいということか。
二次創作もやってるとは、結構、深い趣味なのかも知れないし、そんなことを言い広めるつもりも――
って、ミドリには軽く言ってしまった……けど、あまり理解してなさそうだったから、大丈夫かな。
「ということを、踏まえて、もう一つ……こちらが本題なんだけど」
「ん?」
嫌な予感がする……




