第17話:デートは突然に ~ 緊急事態
「み、店の中、誰もいなくなったね……」
雑貨屋を後にし、昼食のため喫茶店に入った俺たちだが、入ると同時に店の客は叫びながら逃げて行った。
「そ、そうですね……
……
でも、仕方……ないです……
私たちは……敵同士なんですから……」
「そ、そっか……」
少しテンションが下がったけど、とりあえず、二人席に着く。
店員は頬を引きつらせながらも逃げずに対応してくれた。
きっと、ここにマジカル・キュアの存在を確認したからだろう。
ちなみに、マントは燃えてしまったので、捨ててきた。
まぁ、変身後に自動的に装着されるものなので、変身を解けば勝手に消え、再変身すれば復活するだろう。きっと。
”カラーン”
お。客が入ってきた……
また俺たちの姿を見て、逃げるのかな?
「……」
と思ったのだが、俺たちを一瞥した後、その客は黙って席に着いた。
その客は一人のようだが、深い帽子にメガネ、マスク、コートという恰好。
……何というか、怪しさこの上ない。
「何を食べましょうか?
ランチもあって、お得ですよ」
機嫌が良いミドリがそう言って、俺にメニューを薦めてきた。
「あ、そ、そうだな」
あの怪しい客が、俺に火を放ったんじゃないよな……
気になるけど、ミドリを放っておくわけにも行かない。
よし! 楽しいデートなんだから、ミドリの事だけ考えるように――
”カラーン”
と思った時、更に喫茶店の入口のベル音が響いた。
「へ――っ!?」
入ってきた客は二人組。
……なんだけど、その二人の恰好は深い帽子にメガネ、マスク、コート。
先ほどの怪しい客と全く同じ格好だった。
その二人組は、やはり俺たちを一瞥した後、黙って席に着いた。
え? あのスタイル流行ってるの? 何で? どうして? もしかして暗殺者に囲まれたの!?
「どうかしたんですか……?」
あ……ミドリが不安そうにこちらを見ている。
「ううん!
どれも美味しそうだから、ちょっと迷ってさ……
ミドリは……その……決めた?」
「はい!
私は、このオムライスセットにしようかなって」
「あ、それ美味しそうだな!
じゃあ、俺もそれにしようか」
と、注文が決まったので、店員を呼ぼうとした時――
「キャー! もしかして、マジカル・キュアのミドリさんですかぁ!?
私、ファンなんですぅぅぅ!」
いつの間にかミドリの横に、先ほどの怪しい客の一人が立って、そう叫び出した。
俺とミドリは何が何だか分からず、硬直していたのだが、怪しい客は更に声を上げ、
「あ! そちらの方は、ブラック・マグマの方ですね……
こう言っては何ですが……
すっごく、お似合いだと思いますよぉぉ!? ラブラブなんですねっ!」
「――へっっっ!? ラ、ラブラブッッッ!? ……そ、そんなこと……
ヤ、ヤマティンさんに失礼……ですよ……」
その言葉に驚いたミドリは、一瞬で真っ赤になって、俯いてしまった。
「きっと、これから結婚の――」
と、今度はとんでもないことを言い始めた矢先、
「――くぁwせdrftgyふじこlp!!」
後から喫茶店に入ってきた二人組の一人にボディブローを叩きこまれ、そのまま引きずられて喫茶店を出て行った……
「……え?」
「……な、なんだったのですか……ね」
俺とミドリは顔を見合わせ、固まってしまう。
「と、とりあえず、注文しようか!」
「そ、そうですね!」
せっかくのデート。ミドリに嫌な気分をさせるのは男としてありえない!
俺は細かいことは無視して、ミドリとのデートに集中することにした。
……
……
楽しい……
お互いの緊張が少しずつ解け、ミドリも良く笑うようになった。
それに加えて、たまに俺の顔を見て、真っ赤にして目を逸らすなど、可愛くて仕方がない動作をしてくれる。
デートとは、史上最高のパラダイスなのか……!?
「ヤマティンさん……
次はどこに行きましょう……か?」
喫茶店を出て、俺たちは商店街を歩いている。
今日は一日、商店街から出るつもりは無い。
ましてや、電車に乗るなんて、無理だ。
と言うのは、例の結界――神による神通力の影響が及ぼすこの街でしか、きっとこの恰好は無理だからだ。
「じゃあ、次は洋服でも……近くにセレクトショップが――」
俺がそう言いかけると、懐に入っている変身用の十字架が震えてるのが分かった。
「何だ……これ」
ヴーーーーッ! ヴーーーーッ! ヴーーーーッ!
勢いよく十字架は震えてる。
まるで、バイブだな……
……これって、もしかして、連絡用の手段でもあるのかな……
といっても、ボタンは裏のエスケープボタンしか無いし……
いいや、試しに押してみよう。
……
「おい! ヤマティンか!?
緊急事態だぞ!」
バイブが止み、オタ・クールの大声が十字架から響いた。
「緊急事態!?
ってか、これ、連絡手段にもなるんだな」
「ああ。そうだ。
ボスによると、連絡したいメンバーを思い浮かべて、十字架に話しかけるだけだったはずだ。
繋がると、相手側の音声が聞こえるようになる」
「話しかけるだけ……?」
「そうだ。簡単だろ?
私のはアプリになってるから、普通の電話のような機能だけど」
「あ、そ、そう……」
「それより、緊急事態だ!
休日なのにも関わらず、マジカル・キュアが攻め込んできたぞ!」
「――え?」
「――へ?」
俺とミドリの声が重なった。




