第15話:デートは突然に ~ アクアの休日
休日、私は商店街を歩いていた。
わざわざ電車でバイトのあるこの街に来たけど、今日はバイトは無い。
「……あいつ、全然連絡よこさないし……
こうやって散策してれば……偶然……会ったりしないかな……」
以前、幼馴染の男の子に、期待を込めて連絡先を教えたは良いけど、その期待を裏切られ続けている。
いや、それはもういい……
こうやって偶然会えるか期待して、わざわざここまで出てくる自分の気持ちも、もう知っている。
それは誤魔化したりしない。
だって、偶然とはいえ、あんな衝撃的な再会をしたんだもん……
ずっと……会いたかった、そして会えないと思っていた相手。
そんな相手だから、無粋な連絡手段ではなく、こうやって歩いてれば、必然的に会える……
そういう事を期待せずには、いられない。
時間はお昼過ぎ。
どこかの喫茶店にでも入って、軽食を取ろうか、それともファミレスにでも行こうか、と迷う。
うーん……
ファミレスの方が……会えそうな気がする。だって、再開した時……あのファミレスで――
「あ、あれ……!?」
私はそこまで考えると、思考が止まった。
路地の先。喫茶店に入ろうとする友人の叶が、”変身後”の姿でいたからだ。
「あ、あれ……叶――じゃなかった、ミドリ……? ど、どうして……?」
「わぁぁぁぁあ!」「ブラック・マグマよぉぉぉ!!」「イヤァァァァ!!」
叶の姿を見ると同時、そんな悲鳴が上がった。
「え!? な、何!?」
ブラック・マグマ? だって、今日は休日……
何故か、マジカル・キュアとブラック・マグマの活動は土日以外となっている。
理由は不明だが、マスターが決めたことなので、気にしないようにしている。
ミドリ……? それにブラック・マグマ? どうなってるの……?
「一体、何が――ふぁっ!?」
私は自分で言うのも何だけど、清楚を売りにしている。
もちろん、中身は……そこまで清楚じゃないのも自分で知ってるけど、外見は大事だ。
でも、この時ばかりは、変な顔で、変な声を出してしまったことに後悔は無い。
「え? あ、あれは、ブラック・マグマ!?
あれ? どうして二人で……一緒に……」
そこまで言って、私はミドリの表情から、あることを思い出した。
「あ、そっか……
そう言えば、あの時デートとか言ってたっけ……」
なるほど、なるほど……
ミドリ、頑張ってるなぁ……
……
これは……友人として、応援してあげないとね!
ファイアは嫌がってたけど、恋は尊くて、全てを許せるものなんだから!
私が、フォローしてあげないと!
それに、なんか面白そうだし……!
……
……
”カラーン”
喫茶店を開けると、そんなベルが鳴り響いた。
どうやら、喫茶店の客はみんな逃げ出したみたいで、ミドリとヤマティン、そして店員しかいないようだった。
店員はミドリの影に隠れるようにしているので、逃げ遅れたか、ミドリがいたので安心したかのどちらかだろう。
私は、ミドリのフォローをするため、変装をして喫茶店の中へと入り込んだ。
深い帽子にメガネ、マスク、コートという絶対にバレないスタイルで。
私は二人を一瞥した後、席へと座る。
一瞬、ヤマティンと目が合ったが、かなり怪しまれてる感じもした。
怪しまれても、この後フォローするから、感謝されるはずだしね……
多少怪しまれても、バレなければ大丈夫。
さて、二人をラブラブにしないと――
”カラーン”
計画を実行に移そうとした時、再度、喫茶店のベルが鳴る。
そこに現れたのは、私と全く同じ格好をした、二人組だった。
――え?
あ、怪しい恰好!? って私と同じ!?
このスタイル流行ってるの? 何で? どうして?
あまりにも一緒のスタイルだったのか、その二人組もこちらを見て、驚いた表情 (マスクはしていたけど)を浮かべた。
そして、私と同じようにミドリたちを一瞥した後、近くの席へと座った。
……怪しさ全開の私たちだけど、私は私のやるべきことをやろう!
そう考えて、私は席を離れ、ミドリの横へ立ち――
「キャー! もしかして、マジカル・キュアのミドリさんですかぁ!?
私、ファンなんですぅぅぅ!」
よし!!
掴みはOKだ!
ここで更に追撃!
「あ! そちらの方は、ブラック・マグマの方ですね……
こう言っては何ですが……
すっごく、お似合いだと思いますよぉぉ!? ラブラブなんですねっ!」
「――へっっっ!? ラ、ラブラブッッッ!? ……そ、そんなこと……
ヤ、ヤマティンさんに失礼……ですよ……」
よし!!
これだよ! これ! これ!
ミドリが真っ赤になって、上目使いでヤマティンを見てる!!
あと一歩で、この二人はもっとラブラブにぃぃ!!
「きっと、これから結婚の――くぁwせdrftgyふじこlp!!」
私の後半の言葉はボディブローによってかき消され、その後、先ほどの怪しい二人組に両脇を抱えられて、喫茶店から引きずり出されてしまった。




