第13話:デートは突然に ~ 待ち合わせ
「ブ、ブラック・マグマだ!!」「キャァァァァ!!」「うわぁぁぁぁ!」
先日のことを思い出していると、それらの声に現実に戻された。
これで何度目だろう。俺を見るなり、人々は逃げていく。
その逃げ惑う人々を見て、例の嫌な予感を思い出す。
「……ブラック・マグマとマジカル・キュアがデート……
これって……大丈夫なのだろうか……」
そんな疑問と戸惑いが、先日の戦いからずっと心中に漂っている。
しかも、こんな仮装みたいな恰好をしてデートって、どんな羞恥プレイだよ……
そして……あまりにウキウキしすぎたせいか、待ち合わせ時間の一時間前に来たのもまずかった。
いつもは賑やかな広場が、人々は逃げ去り、今では誰もいない……
十月に入り、寒くなり始めた季節でもあるので、なおさら広場は極寒に感じ始めてきた。
「だけど……!」
そうだ! これはデートなんだ!
俺は今までの暗い気持ちを捨て、これからのことを想像することにした。
待ち合わせの時間までもうすぐだ……!
その時が来れば……天使が降臨されるだろう!
少しのそばかすがチャーミングで、少しオドオドしているのも可愛い緑川さん。
あの敬語と上目使いは、確かに俺の心に楔を打ち込んだぜ……
あ、少し焦ってきた……どうしよう……
……
ちょっと、周りを確認しておこう。
よし、相変わらず周りには誰もいない……
もちろん、例の妹もいない……
残念な妹とは平日は一緒にいることが多いが、休日まで一緒にいることは滅多にないし、あまり気にしてはいない。
……のだが、このブラック・マグマの格好で出動しているので、正直、バレるのも時間の問題かなとは思っている。
でも、それでも! 少しでも長い時間デートを味わいたいので、延命したいと思うのは仕方がない。
「初デートなんだし、せめて昼過ぎくらいまでは、妹にバレたくないな……」
そんな事を呟くと同時、広場の奥の路地から、ゆっくりと少し照れたミドリが現れた。
ミドリの姿はいつも通り、マジカル・キュアの格好だ。
白い甲冑に、その胸元には緑のリボンが施されている。
ミドリは俯きがちに広場を通って、こちらまで少し小走りでやって来た。
「あ、あの……
ま、待たせちゃいましたね……
そ、その、ご、ごめんなさい……
本当はもう少し早く来る予定だったんですが……
えと……どのくらい早めが失礼が無いか、考えすぎちゃって……こんなこと初めての経験ですし、
ずっとドキドキして……どうすれば良いのかも分からなくなって……
あ、そ、その、今も何言ってるか分からなくて……ごめんなさい……」
俺を見上げては、恥ずかしくなって下を向いて。
そして、再度チラ見して、恥ずかしくなって横を向いて……
その表情は恥ずかしさと照れ、なのだろうか、真っ赤になって目はウルウルしている。
こ、この破壊力……
そう、全てを捨てても守りたいものがここにはある……
「い、いや、大丈夫だよ……
い、今来たところだから! 問題……ないよ!」
俺は気力を振り絞り、なんとかそう答えることが出来た。
「そ、そうですか! よ、良かったです……」
ミドリはそう答えると、ようやく笑顔になり、俺の方を向いてくれた。
よし! ……デートの始まりだ……!
……
……
―― 一方、その頃…… ――
「兄貴の、あのだらしない顔……」
「ミドリも幸せそうな顔しちゃって……」
広場の横。雑居ビルの影にある路地。
そこに黒ずくめの女と、赤い髪の女が二人で佇んでいた。
「でも、良いの? あなたブラコンっぽいけど、あのままじゃミドリと――」
「ふふふ。大丈夫。これは全て私と兄貴のために準備されたものだから」
赤い髪の女の質問に、黒ずくめの女は笑みを浮かべ、懐からコンパクトサイズのデジカメを取り出す。
「兄貴は私から離れられないの。
だからこれも全て私たちの為にあるの……これを機に私の従属となることだってね」
「あ、そ、そう……私はあの男は許せないから、ミドリとくっ付けるのは絶対に嫌。
アクアは面白がってたけど、絶対にそんなの駄目」
「そうよ。だから、私たちは協力し合うことにしたんじゃない」
「そうね……敵同士とは言え、こうなった以上、協力するしか……ないわね」
赤い髪の女と黒ずくめの女。
二人はがっちりと握手を交わした。




