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俺と妹が悪の組織に入りました  作者: モコみく
1章:悪の組織に入りました
1/63

第1話:新しい生活

初投稿です。


携帯やスマホで見やすいように、改行多めになってます。

見辛かったらすみません!m(__)m

「なぁ、買い物、こんなもんか?」



両手に持った買い物袋は重く、もうこれ以上の買い物は止めて欲しい。




隣で歩く妹の詩織しおりは手ぶらなのだが、一応、兄である俺が荷物持ちをしていた。




「うーん。ちょっと待ってね」



詩織は長い黒髪を手で押さえながら、俺が持っている買い物袋を漁り始める。




「おい、何やってんだよ?」



「確かめてるだけだって! 兄貴、ちょっと待ってて」



そう言われては仕方がないので、俺は黙ってその場に立ち尽くす。



しかし、夕焼けに映えた妹の姿を見ていると、清楚で大人しいお嬢様のような姿に見えてしまう。




だが、可憐そうな名前とは裏腹に、詩織は元気活発で、いつも明るさを絶やさない妹だ。




それに、何と言うか、いろいろと残念な部分もある。




「うん、大丈夫だね。これで完了だよ! 兄貴!」



詩織は元気良くそう言うと、俺の腕から荷物を取った。




「おい。重いぞ。俺が持つからいいって」



「大丈夫だって! 私に任せなさい!

あっ!? 兄貴の片手が空いたね!

じゃあ、私が迷子になると兄貴困るから、手を握ろうっか!」



詩織は矢継ぎ早にそう言うと、俺の空いた手を、無理やり握りしめた。



「ふんぬ!」



「いてて! 痛いっつーの!

お前、どんな握力してんだよ!

ってか、ふんぬって何だよ!」



俺は体を捻じって、詩織の強靭な握力から何とか逃げ出した。




すると、詩織は頬を膨らませ、非難を浴びせ始めた。




「むうぅぅ! 兄貴の恥ずかしがりや! いけず!」



「はいはい」



俺は適当にあしらって、先に進もうとしたのだが、詩織の非難は続く。




「バカ! 女泣かせ! イケメン!

やさしい! かっこいい! もう、だぁぁぃすき!」



「――うぉ!?」



非難一転、愛の告白と共に、俺に抱き付こうとしたが、俺は何とかそれを躱した。




「……はぁ、はぁ……ったく、うぜぇぞ」



そう言って、詩織の頭を軽く小突く。




詩織は、こんな具合で、かなりのブラコンだ。



加えて、残念な言動が目立つ妹だった。




「えへへ!」




詩織は少し嬉しそうに、舌を出して笑う。



こういう顔をされると、何でも許してしまいそうになるが、これは決してシスコンではない。




「ほら、遊んでないで帰るぞ。

明日、転校初日なんだから、疲れると困るだろ」



そう言って、詩織の手から荷物を取った。



「あ、いいって! 持つよ!」



「いいから。兄で男の俺に持たせろ」



俺がそう言うと、詩織は顔を赤らめ、素直に頷いた。




「ったく……」



そんな照れている妹を見ていると、微笑ましい気分になった。




そして、俺たちは商店街の出口に向かい、歩き始める。




夕方の商店街は、人通りが多く賑やかさを見せている。



少し寂れた感もあるが、桃源町とうげんまち商店街を往来する人々は楽しそうに買い物をしていた。




「……良い街なのかもな」



俺は詩織に聞こえないように呟いた。



両親の海外赴任が決定し、俺たちは隣町の五行学園ごぎょうがくえんに転校することになった。




今はその手続きの帰り、生活に必要な物を買出しに来ていた。




「男子寮と女子寮に分かれるなんて、寂しいなぁ」



詩織は、そんなことを呟きながら、少し寂しそうに歩いていた。




「それは仕方ないだろう。

わざわざ寮のある学園に転校してきたんだから」




「もう、父さんも母さんも心配性なんだよ!

私が兄貴の上から下まで、下の下まで、

そう、下を中心の世話くらい見られるのに!」




俺は突っ込みたい衝動を抑えつつ、話をそらすことにする。




「ま、雰囲気が良さそうな学園で良かったじゃないか。

勉学をきちんとする、

っていうのも親父の意向だし」



「うふふふぅ!」



すると、突然、詩織は頭が壊れたような雄叫びを上げた。




「壊れてないっつーの!」



俺の心を読んだ詩織は、全身で突っ込みを入れた。




「これで兄貴と一緒の学園生活だぁ!

むふふぅ!

頑張って勉強したかいがあった!」




そうなのだ。



以前は別々の学園に進学していたのだが、寮のある学園は数が少ないので、以前よりレベルの高い学園を受験することになったのだ。




学力が俺より落ちる詩織は、毎日、鬼のように勉強をしていた。



もちろん、俺も少し勉強を手伝ってあげた。



俺もそれが復習となり、濃密な勉強時間によってお互い何とか合格することができたのだ。




「ね、一緒に登下校デートだね!

いやっほぉぉぉ!

ね、私をちゃんと見ててね!

見ててね!

あ、あは、あは、あはははははははは!」



「……最後のはヤンデレかよ」



また詩織が壊れかけてきたので、俺はスルーして、帰路を急ぐことにした。




商店街の出口が近付いてきた。


この出口から寮までは、徒歩で二十分くらいだ。


男子寮と女子寮は、離れておらず、同じ敷地内に隣接してあった。




「じゃあ、寮の前まで行ったら、必要な荷物をお互いに分けるか」



俺は提案するが、詩織は他のことに気を取られ、あさっての方向を向いていた。




「ん? どうかしたのか?」



「ねえ、兄貴。あそこに人が集まってるけど、何かあったのかな?」



そう言った詩織の視線の先を見てみると、確かに人混みができている。


加えて、何か物々しい声なども聞こえてきた。




「何だろ。トラブルかな……うし、ちょっと見てくるか」



「あ、待って! 私も行くってば!」



俺たちは野次馬根性丸出しで、人混みの方へ近づいて行く。




どうやら、男性と女性が争い事をしているようだ。



痴話喧嘩か、修羅場かな、と思いつつ、俺たちは人混みの中へ入って行った。




「ははははは! 今日こそ引導を渡してやるぞ!

マジカル・キュアどもが!」




明らかに狂っているセリフが周りに響く。


俺はその騒ぎの中心を見ようと、もっと奥へと進む。




ここは商店街の少し開けた場所。


ベンチもあり、小休憩にはもってこい。




そんな場所で騒いでいたのは、顔には怪盗系のマスクを着け、全身黒ずくめでマントを付けた若い男と、綺麗な女の子だった。




「くっ! 卑怯だぞ! ウザダー!」



その綺麗な女の子が、狂った叫びに答えた。



その女の子は少し青みのかかった綺麗な長髪で、お嬢様な顔立ちをしている子だった。




彼女は、胸に青いリボンがある白い甲冑を着ており、美人だが、厳かな印象を与えた。




「卑怯だぁ? それこそ心地良い言葉!

もっと俺を罵るがいいわ!」




変態同士の揉め事かとも思ったが、身なりやセリフを聞く限り、何かの撮影だろう。



恐らく、ヒーロー物の特撮だろうか。




そう思っていると、奥の路地から別の女の子の声が聞こえてきた。




「アクア!

さっさと片を付けて、子供たちを助けるわよ!」




声がした方向に視線をやると、そこに、二人の女の子がいた。



やはり、俺と同じくらいの年だろう。



今の言葉は、その中の赤毛の子が発した言葉だった。



隣にいる、少し緑のかかった髪の子が、その言葉に頷いている。




彼女らは同じように白い甲冑を着ているが、胸のリボンはそれぞれ赤と緑。




なるほど。青と赤と緑。まさに色別ヒーロー物か。



自分の予想通りの展開に、撮影に興味を持って見始めることにした。



隣の詩織も、黙って撮影を見続けている。




「分かった! ファイア! ミドリ!」



青い髪の女の子――アクアと呼ばれた子は、二人の女の子に答える。




「ふふふ。俺の脱力光線の威力は凄かっただろう?

あれをくらった子供たちは、二十年後、

何もやる気が起きなくなるのだぁ! これでこの国もお終いよ!」




怪盗マスクのウザダーと呼ばれた男は、ドヤ顔で誇らしげに語った。




「……随分と気の長い話だな」




俺は突っ込みを入れるのだが、周りを見てみると、


「何て恐ろしい!」「怖いよ! ママ!」「あの野郎!」



と、恐怖で怯えている群衆の声が聞こえてきた。



どうやら、エキストラがいるようだ。




一般人の俺たちがこの場所にいるとまずいかも、


と思ったが、逆に変な仕草をするよりは、動かない方が良いだろう。



このような子供向けのヒーロー物は、昔、良く見ていたものだ。


子供心に胸が熱くなったのを覚えている。


こうやって改めて見てみると、突っ込み所が満載なのが楽しい。


突っ込み所を模索して見てみるのも、一興だろう。




ウザダーは三人を一瞥し、相変わらずのデカい声で叫び始めた。




「ははははぁ!

その脱力光線、お前たちにもくらわせてやるわぁぁぁ!」



そう吠えると、ウザダーは、懐から長剣を取り出した。


長剣の根本には宝玉が付いており、それをミドリに向ける。




「ヒャッハーーー!!」



マジキチの雄叫びを上げると、その宝玉が輝きだした。




「ミドリ! 避けて!」



赤毛の女の子――ファイアがそう叫んだ。




「――くっ!?」



ミドリは少し腰を落とし、来るべき攻撃に対して防御の姿勢を取り、カウンターを狙おうとする。



だが、その瞬間を見たウザダーは薄ら笑みを浮かべた。


俺はそれに気付き、次の展開を予想する。




「なるほどな。狙いは別か」



俺がそう呟くと同時、ウザダーはミドリに向けていた宝玉をアクアに向ける。




「ヒャッハーーーーー!!」



マジキチの雄叫びを再度上げると、アクアに向かって宝玉から光線が飛び出した。




「――えっ!?」



意表を突かれたアクアは、その光線の直撃を受けてしまう。



「いやぁぁぁ!」



アクアは派手に転がり、その場に倒れてしまった。



「アクア!」

「アクアッ!!」


ファイアとミドリは、悲壮の声を上げ、急いでアクアの傍に駆け寄ろうとする。



「あー。あれじゃ隙だらけだろう」



俺は無造作に駆け寄る二人を見て、思わずそう呟いてしまった。



すると、高笑いを続けていただけのウザダーは、急に、俺を驚愕の顔で一瞥した。



「――!? あ、そ、そうか! 今なんだ!!」



ウザダーは急いで、宝玉を二人に向けるが、時すでに遅し。


ファイアは一気にウザダーとの間合いを詰めており、アクアへの救助はミドリだけが向かっていた。



「おりゃぁぁ!」



気合の声を上げたファイアは、宙に飛ぶ――と。



「――へぼぉぉぉぉ!!」



ファイアに回し蹴りを食らったウザダーは、ザコキャラ以下のやられ声を上げながら路地の反対側まですっ飛ばされていた。



「……ださいな」



俺は思わず呟いてしまった。


最近の敵は格好良いものが多く、ヒーローたちに見劣りしないものだ。


だが、あれはあまりにもダサ過ぎるだろう。



その残念な敵から視線を移動させると、アクアはミドリに助け起こされ、その無事を全員で喜んでいた。




女性ヒロインたちは、観客に手を振り、勝利の報告を開始する。




その姿に俺は改めて、彼女たち――マジカル・キュアを見てみた。




赤毛のショートヘアの女の子は、元気いっぱいという感じだ。笑いながら両手で手を振っていた。



あどけなさも残り、美人というより、可愛い女の子に見えた。




緑色の髪を結わえた女の子は、清楚というより、大人しい印象に見えた。



観客にお辞儀で答えているあたり、真面目で優しい性格なのだろう。


可愛いそばかすがチャームポイントか。




そして、青い長い髪をしている女の子は……俯いて悔しそうに歯を咬んでいた。



先ほどの失態を恥じている演出なのだろうか。


顔立ちが整い、大人びている彼女は、やはり美人だった。



しかし、俺はその姿に既視感を感じていた。



負けず嫌いな所と、自分に対する叱責の陰。


それが、昔どこかで見た記憶と重なる。


だが、それが何かまでは思い出せないでいた。




さて、どうやらこれで撮影は終わりだろう。



しかし、ウザダーが俺の言葉に反応したっぽいのは、何だったのだろう。


予め決まっているセリフと行動だと思うのだが……気のせいか。




「しかし、詩織。あれだよな」



「うん? どうしたん兄貴?」



「いや、二十年後とかより、総理大臣とか襲った方が手っ取り早いよな。捕まっちまうけどさ」



「あ、兄貴!?」



ちょっとした冗談のつもりが、詩織は驚愕の表情を浮かべた。


それと同時に、俺の周りにいた人々も同じように驚き、俺から急に距離を取った。



「な、なんだ……!?」



「――ほら! もう行くよ! 兄貴!」



そう言うと詩織は俺の手を取って、一気に商店街の出口に向けて、駆け出した。



「お、おい! 一体どうしたんだ!?」



「いいから! とにかく、ここから出るよ!」



「――うぉ!? お、おう!」



詩織は力を込めて手を引き、加速を上げた。


俺も全力でその場を逃げることにしたのだが、詩織は足が速く、引っ張られる手が少し痛い。




俺たちは商店街の出口を抜けて、寮へと向かう上り坂の手前まで走ってきた。




「も、ちょ、って、待てって!

もう……疲れたぞ……」



俺が息を切らして叫ぶと、詩織も息を切らせて振り返った。




「はぁ、はぁ、……もう大丈夫かな?」



「い、一体、何なんだ……よ」



俺は膝を抱えて、息を整えながら詩織に尋ねた。




「はぁ……もう、兄貴! あんなこと言っちゃダメじゃない!」



詩織も息を切らせていたが、直ぐに収まったようだ。


さすがにこいつは基礎体力が違う。



「あ、んなの、冗談に決まってるだろう……はぁ、はぁ……」



「冗談でも駄目に決まってるじゃん!

ブラック・マグマが聞いてたらどうするのよ!

それに、この街のシンボルを冒涜するとバチがあたるんだから!」



「なんだ? シンボル?」



「え!? 兄貴、知らないの!?」



「はぁ? 何をだよ。んなもん知るかよ。

あんなの、ただの撮影じゃないか」



俺もようやく息が落ち着いてきたのだが、詩織が意味不明な説明を始めたので、変な焦燥感が湧いてくる。




「はぁ……もう仕方ないから、愛する可愛い兄貴のために、手取り足取り、――揉みで教えてあげるか!」



「途中の言葉が下品で聞こえなかったけど、スルーするからな」




俺は冷たく言い放ったが、詩織は慣れているので、気にすることなく勝手に説明を始めた。



「あれはね、この街――桃源町の古来から伝わる、そう、それは神々の戦い!」



「……お前、中二か?」



「ち・が・う・ゼ!」



俺の突っ込みに全力で詩織は答えた。




「なんだよ、神々って。ゲームじゃあるまいし」



俺の当たり前の感情に、詩織は首を横に振る。


その仕草があまりにも深刻そうだったので、逆にムカついてきた。




「事実なんだから、仕方ないじゃん。土着信仰みたいなものかな。

由緒あるんだよ。それに、未知なる力も持ってるし」



「未知なる力ぁ?」



「そうだよ。……あれ? 本当に知らないんだね」



そう言うと、詩織は目を瞑り、わざとらしく真面目な表情を作り、腕組みを始めた。




「……」



そして、詩織は何も語らず、何かを考えている様子だった。


そう。それはまるで、禁句を告げる葛藤のようだ。



「……うぜぇな」



俺は思わず呟いてしまう。


詩織は何らかの役柄を真似ているのだろうが、正直どうでも良かった。




俺は諦め、詩織の次の言葉を待つ。


それから数分後、詩織は目を見開き、説明を始めた。




「桃源町はね、良い神様と悪い神様の二柱がいて、昔からその神様と契約できる人がいるの。


それが、さっきのマジカル・キュアと、ブラック・マグマにいる人たち。


でも、良い神様と悪い神様は、いつも仲が悪くて。

だから、契約者を使って争っているんだ。


それで、契約者には、神様の力が使えるようになってるんだよ……ここまでは分かった?」




「さっぱり分からん」




俺はきっぱりと答えた。



「もう、兄貴は……じゃあ、分かりやすいように話すからね」



「頼む」



「桃源町はね、良い神様と悪い神様の二柱がいて、昔からその神様と契約できる人がいるの。


それが、さっきのマジカル・キュアと、ブラック・マグマにいる人たち。


でも、良い神様と悪い神様は、いつも仲が悪くて。

だから、契約者を使って争っているんだ。


それで、契約者には、神様の力が使えるようになってるんだよ……ここまでは分かった?」



「……」




俺は呆れ顔で、詩織を見つめる。




「桃源町はね」



「もういいっつーの!!」



繰り返すしか能がない詩織に、俺はいい加減怒鳴るしかなかった。




「な、なんなの、兄貴は、もう……」



詩織は俺の対応に不満のようだ。


頬を膨らませ、可愛い顔を怒らせていた。



「神様とか良く分らんし、そんな意味不明なのはどうでも良いんだよ」



「だから、それは本当なの! このバカ兄貴!」



「バ、バカとは何だよ!? 大体、詩織は……」



と、俺が非難を続けようとしたとき、詩織の目が潤んでいることに気付いた。




「あ、ヤバ」



俺はその姿を見て、大慌てで、詩織に向かって納得の素振りを見せることにした。




「あ、大丈夫、大丈夫!

なるほどな!

詩織の言うことは分かったよ! サンキューな」



「わ、分かれば良いんだけどさ……」



詩織は俯きながら、俺の言葉に答えてくれた。




いや、危ない危ない。


あのままだったら、また大変なことになっているところだった。




正直、話の内容も理解不能だが、深く考えないようにしておく。


後で自分で確認しよう。




それから詩織は少し調子を取り戻し、話の続きを始めた。



「でも、契約者は謎に包まれて、誰なのか正体は分からないんだよ。

あの姿は神通力を使うための、変身後の姿だからね」



「まぁ、ヒーロー物の変身ってやつか」



俺は詩織に合わせて話を続けることにした。




「そそ。そんな感じかな。なーんだ、理解早いじゃん。兄貴!」



「理解っつーか……ま、状況は何となく……かな。

中身はさっぱり意味不明だが」



「まぁ、確かにねっ。

二十一世紀にもなって、神通力とか言われてもだよね!」



詩織は勝ち誇った笑顔で、俺に指を指す。




神通力ね……詩織の話は、どこまで本当か更に分からなくなる。




「その力は本物だから、あんまり近寄っちゃ駄目だよ。危ないからね」



詩織はまるで子供に言い聞かすように言った後、何故か俺の頭をナデナデする。



「……なぁ、なんだ? これ?」



「あ、気にしないで、母性本能ってやつ。

兄貴をナデナデしたくなっただけだから。


でも、こうやってると、私のこともナデナデしてほしーなぁ……とか……

あ、何なら、服の上からでも、私のおっぱ――ぶぼっ!」




皆まで言う前に、俺は詩織にクロスチョップをかましてやった。




「――ったく、すぐ調子に乗るな、お前は」



「いたたた……

もう、兄貴はすぐに愛情表現を取り違えるんだから!」



「はいはい……

んで、そんな不思議な力を使って、お互いに神様の代理バトルしてるみたいな感じでオッケ?」



「うん! おっけ! そんなノリ!」



「そっか……

それで、映画の撮影じゃなくてリアルってこと……なのか?」



状況だけは何となく分かったものの、それが撮影だろうとは思っていた。



しかし、詩織があまりにも本気で神様とか説明するので、再確認の意味も含めて聞いてみた。




「そうだよ! 詳しく聞きたかったら、夜にでも電話して! 良い事しながら教えてあ・げ・るっ!」



詩織は非常に残念で気持ち悪いウィンクをしながらそう言った。




「残念で、気持ち悪くなんかねーよ!!」



再度、俺の心を読んだ詩織は、必死の形相で叫んだ。




神様の力を授かって、戦いなんてありえない話だ。


だけど、詩織のボケにしては、ひっぱりすぎだ。


何らかの理由があるのだろうか。




「さてと、寮に帰りますか」



そう言うと、詩織は隣に来て一緒に並ぶ。



「うん! 行こう、兄貴!」



そして俺たちは、他愛のない話をしながら、坂を上っていく。




「でも、楽しかったね!」



詩織は俺の隣で、満面の笑みをする。




こんな具合で、俺と詩織はいつも漫才のようなやり取りだ。


実家にいた時も、同じような感じで、仲は良い方だろう。


それに、詩織は極度のブラコンだし。




「……しかし、傍から見たら、俺たちは恋人同士に見えるのかな」



俺は思わず、そんなことを言ってしまった。




「ヤバっ……い、いや、違うよな? そんなこと――」



俺は慌てて言い直そうとするものの、詩織にはバッチリ聞こえたようで。




「えっ!? ……お、お、おにい……ちゃ、ちゃん……!?」



詩織は目を潤ませながら、俺の方を見上げてきた。




「しまった……」



詩織は、感動したり悲しくなったりと、感情の起伏が激しくなると、こうやって「兄貴」から「お兄ちゃん」と呼び方が変わり、一瞬にして「しおらしい」態度となってしまう。




「お、お兄ちゃん……

ねぇ、今のもう一回……言って欲しい……な……うるうる」



「――くっ!」



こうなったら手が付けられない。


詩織の激甘な甘え方からは、俺は対処する術を持っていなかった。




「じ、じゃあ、また後でな!」



俺は荷物の中から、自分の分だけを取り、持っていた袋を詩織に押し付け、そのまま男子寮へと走り出した。




「あ、お、お兄ちゃん! ずるいよぉ!」



後ろから詩織の非難めいた声が聞こえてきたが、俺は聞こえないふりをして、ダッシュしてその場を離れた。




寮へと向かう上り坂は、意外に堪える。



線路の北側が小高い丘になっており、そこが住宅街となっている。



寮はそこにあるのだが、この丘へと続く道が、滑らかに延々と続いていた。




細い路地へと入り、丘の中腹まで来たところで、俺は後ろを振り返る。



すると、遠くにぼんやりと海が見えた。


線路の南側は平地だが、そのまま更に南に行くと、工業地帯のある湾へと続く。


工業地帯の湾なので、スモッグがかかっているが、なかなか綺麗な景色だった。




「疲れたな、もうすぐ――」



俺が呼吸を整えようとした時、突然、目の前に黒い塊が現れた。



「待ってたぞ、貴様」



黒い塊だと思ったのは、全身黒ずくめの男だった。



そいつは低い声を発し、俺を先へ通さないよう両手を上げ威圧する。




「――な、なんだ!?」



俺はそいつと距離を取る。


そいつは、明らかに怪しい怪盗系のマスクを着けている。


どうやら変態か強盗の類のようだ。




その男は、気持ち悪い笑みを浮かべながら、俺の方へ近寄ってくる。




「貴様、さっきのはなかなか――へぼぉぉぉぉ!!」



隙だらけだったので、俺は思いっきり顔面に飛び膝蹴りを咬ましてやった。




「あ、兄貴!?」



その時、知っている声がしたので後ろを見ると、いつの間にか驚いて立ち尽くしている妹がいた。




「な、何があったの?」



「いや、いきなり変な奴に……」



俺が詩織に説明をしようとすると、倒れた黒ずくめの男がゆっくりと起き上った。




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