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3-6-1 殺人鬼

 

     ***


「ノゾ君、お荷物僕が持ちましょうか?」

「いや、このくらい自分で出来る」

 最近、ミコトは本当に良くやってくれている。


 ノゾミに余計な労力を使わせまいとしているのが、ひしひしと伝わってくる。実際ノゾミの負担は多少なりとも減ったのだが、こうして買い出しに来るとミコトに任せられることは殆ど無くなってしまう。人に見えないが(ゆえ)に、外に出かける用事を託す訳にはいかないからだ。

 もしここでミコトに荷物を持ってもらったら、道行く人は急に浮かび上がった買い物袋を見て驚愕するだろう。


「でも、重くないですか?」

「しばらくは無理しないって決めたからな。そんなに多くは買ってない」

 八月も(なか)ばを過ぎたが、依然として暑い日が続いている。ノゾミは額にうっすらと汗をかきながら、オレンジ色に染まる夕暮れの街を静かに歩く。いっそのこと完全に陽が落ちてからの方が涼しくて良かったかもしれないと思ったが、どこからか聞こえてくる(ひぐらし)の声がそんな気持ちを霧散させていった。


 隣を歩くミコトの歩幅を確認しながら、ノゾミは次の診察の結果を密かに期待する。あれから随分大人しくしていたのだ。少しばかり報いがあっても良いのではないか、と。

 もう少しで人通りの少ないこの道から、片側二車線の大通りに出る――その直前、ミコトに服の裾をくいっと引っ張られた。


「ノゾ君、その道に出るのは()めませんか?」

「急にどうした? ここを渡るのが家まで一番近いだろ」

「でも……」

 何に渋っているのかミコトはすっかり足を止めてしまい、そこから動こうとしなかった。


「ミコト、何が嫌なんだ? 言ってくれないと分からない」

 もしかしたら冷たい口調になっていたかもしれない。喋り方が素っ気ないとよく言われるのだが、ミコトなら慣れているはず。

 では一体、ミコトは何に()()づいているのか。その答えは意外なところにあった。


「あ、あの…この先に……嫌な気配がするんです」

 それを聞いた瞬間、足が(すく)む様な感覚がノゾミのもとを訪れる。

「嫌な気配――って、前にも感じたやつか?」

「……はい」


 前にも感じた嫌な気配。それは殺人鬼とノゾミが接近した際にミコトが感じたというものに他ならない。

「それって、この先に奴がいるってことだよな」


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