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「でも退院時より悪くなったってことは、やっぱり僕やムクロを探し回っていたせいですよね」
その時、ミコトが言わんとしていることが分かったような気がして、ノゾミは首を横に振った。
「ミコトのせいじゃない。俺は俺の意思で動いてたんだ。だから、これは自業自得で――」
「でもっ、ノゾ君はもっと自分の体を大切にして下さい!」
今まで堪えていたのであろう、ミコトの切実な叫びが辺りに反響する。ノゾミだけが感じとれる振動は、記憶を掘り起こしていった。
(前にも、同じこと言われたな……)
殺人鬼に刺されそうになっても逃げなかったノゾミを庇った後で、そう言われたのを思い出した。
「悪いな。いつもミコトに迷惑かけてばかりで」
「僕は迷惑だなんて思っていません。言いましたよね、頼って下さいって」
それが戯言ではないことは、ミコトの表情が語っていた。だが、そうかしこまって言われると逆にどうしたら良いのか分からなくなってしまう。
「じゃあ、これ以上、どうやって頼ればいいんだ」
ノゾミの中では〝迷惑をかける〟と〝頼る〟はほぼ同等の意味だった。そのせいでいくらミコトが、迷惑でないから頼れ、と言ったところでノゾミの意識は変わらないだろう。
ミコトもそれを薄々感じ取っていたようで。
「ならノゾ君に頼ってもらえるように、僕も頑張ります!」
「へ?」
どうやらノゾミの意気地なさがミコトの変なスイッチを入れてしまったようだ。妙に張り切った様子のミコトは、握りこぶしを作って力説する。
「ノゾ君は来週まで安静にしなければならないのですよね? それなら僕がお手伝いします。ノゾ君を絶対に安静にさせてみせますから」
「――あ、ありがと……?」
返事としては的外れだったかもしれないが、それしか思いつかなかった。
確かに安静にするのもノゾミ一人では限度がある。ミコトはそれを補うつもりなのだ。そうすれば必然的にミコトに頼ることになるだろう。
「はいっ。僕に任せてください」
その無邪気な笑顔に、ノゾミは相変わらず逆らうことが出来なかった。それでも不思議と押し付けがましくないのが余計にノゾミを困らせる。
「それじゃ、俺も頑張ってミコトに頼ってみるよ」
そう言ったのは、少し腰を屈めてミコトと視線を同じにしてからだった。
もしかしたら、互いに頑張りでもしないと普通の人々の様に頼ったり頼られたりが出来ないのかもしれない。
(まぁ、それはそれで、俺達らしくて良いのかもな)
まだ沈みそうにない太陽に照らされて、ノゾミはそっと口元を綻ばせた。