3-5-2
(ミコトに言わなくて良かったかも)
もし先程、胸が痛むのは殺人鬼と関連があるかもしれないと告げていたら、ミコトは気を揉んでしまっていただろう。
「とにかく、来週の診察までは安静にしておくこと。夏休みなんだから、出来るよね?」
「……はい」
いつまでも行動範囲が限られているよりは、早く治して自由に動けるようになった方が良いだろう。そのためには今度こそ静かにしていなければならないのだが、しばらくは殺人鬼探しの規模を狭めなければならない。
自業自得とはいえ、これはノゾミが恐れていたことの一つだ。もし自分が動けない間に彼が何か行動を起こしたら。
そう考えると、居ても立っても居られなくなる。
「それじゃあ今日はこのくらいで。大人しくしていないと、後で辛いのはノゾミ君だからね」
それは重く突き刺さる一言だった。
いくらノゾミが死なない体質になったとはいえ、体自体はただの人間と同じなのだ。
そこを履き違えていた訳ではないが、医師から言われたことで改めて自覚する。
「はい……ありがとうございました」
ノゾミは行儀よく礼をすると、診察室を後にした。ミコトはその後ろを無言でついてくる。
(ミコト、さっきから何も言わないな)
ミコトは周りに人がいる時は殆ど話しかけてこない。だから何も言わないのはある意味で当たり前なのだが、ミコトが纏う空気が重苦しく感じられたせいで、それが不可解に思えてしまう。
会計を済ませて病院の外に出た後で、ミコトはようやく口を開いた。
「ノゾ君、治ってないの腕だけじゃなかったんですね」
それが肋骨の怪我を指しているのだということはすぐに分かった。
「あ、いや。退院する時にそっちは大分良くなったって言われて」
入院中は全くと言っていい程出歩いていなかったので、経過は良好だった。若いから骨の癒合も早いらしく、退院してからのバストバンドやコルセットを用いた固定をしなくても大丈夫だろう、と言われていた。安静にすることを前提としての話だが。