3-5-1 自業自得
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「ノゾミ君、大人しくしてなかったでしょう。殆ど良くなってないよ」
医者が告げるそれは、忠告というより説教に近かった。パソコンのモニターレントゲン画像が映し出されているが、ノゾミにはどこが骨折している箇所なのか説明無しには見つけられない。
「そっちが退院の前日に撮った写真で、これがさっき撮った写真。これが尺骨って言うんだけどね――」
医者はボールペンの先でモニターを指しながら怪我の容態を丁寧に教えてくれるが、それはノゾミの頭を右から左へと通り抜けてしまう。
後ろからの視線が気になって、話に集中できなかったからだ。
「そろそろギプスを外せるかと思ったんだけど、これじゃあまだ駄目だね」
「えっ」
「来週また来てもらって、その時に決めよう。今外すのは早すぎる」
ノゾミは自らの愚かさと怠慢さを後悔しつつも、口から出てきたのは力ない返事だけだった。
「……はい」
本当は退院する際に、しばらく安静にするように言われていたのだ。それを反故にした自分が悪いのは重々承知している。それでも、それ以上に、ノゾミは死にたかった。
このことをミコトに伝えなかったのも、言えば止められてしまうと思ったからに他ならない。
「あと肋骨も。これじゃあ痛いでしょう」
「?」
(あれ、もしかして胸が痛いのって――)
「ここ見てごらん。退院時より悪くなってるよ」
医者が指したのは胸部レントゲン画像の一部。肋骨の下から数本目を、くるくると円を描くように示してみせる。
「一体何をしてたんだい?安静にするよう言ったはずだけど」
「……」
ミコトはどんな顔で、どんな気持ちでこの話を聞いているのだろう。ノゾミの背後に立っているため、その様子は伺えない。
「済みません……」
「深く呼吸をしたり、体を捻ったりした時に痛くならないかい?」
「なります」
そういえば家を出る前に胸が痛んだ時は、ちょうどワンショルダーバッグを背負おうとしていた。それで上半身が捻られて、患部に痛みが走ったのだろう。
(なんだ、そんなことだったのか)
今までの不安が取り越し苦労だと分かって肩の力が抜けると共に、とんだ勘違いをしていたことへの、行き場のない気恥ずかしさがノゾミを襲った。