3-3-1 決意
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朝食を済ませると、二人は早速家を出た。
ミコトの案内で歩くこと約三十分。ノゾミの家から決して近くはないが、遠くとも言えない距離のところに、ショウの住まいはあった。ノゾミが生活圏内としている所からは外れていたので、初めて訪れる土地だ。
それにしても、以外と近くにノゾミが探すはずだった人物の家があるのだと思うと、世界は狭いものだと認めざるを得ない。
足を止めたミコトの横で、ノゾミが呟く。
「……なあ、もしかしてこれか?」
目下の光景を確かめずにはいられなかったからだ。
この辺りにある家は目の前にある一軒だけなのだから、聞くまでもないはずだ。それでも、我が目を疑ってやまなかった。
「大きなお家ですよね。僕も初めは驚きました」
ノゾミは立派な門構えを前に、口を小さく開けたまま、脳が現実を受け入れられるのを待っていた。
「なんか、日本家屋ってのは分かるんだ。あいつ浴衣着てたし。でも、こんなにデカイとは……」
中に入らなくても分かる。ここまで"豪邸"と形容するに相応しい家を見たのは初めてだった。
木の温もりが感じられる門の脇には、無機質なインターホンが備え付けてあったが、それを押しても良いものかと躊躇ってしまう。
「ノゾ君、どうしますか?」
「って、俺が行くしかないだろ。ミコトは他の人には見えないんだから」
ショウがこの広い家に一人でいるとは考えにくい。自らが行くと言ったものの、チャイムを鳴らしても本人が出てくるとは限らないままで、それを実行する勇気が出なかった。
「ふぅー……」
こうしていても時間の無駄だ。細く息を吐いてから呼吸を整え、出てくるのがショウでなかった時のシミュレーションを済ませておく。
心の準備を整え終えると、そろそろとインターホンへと手を伸ばす。
そして、ノゾミの指がそのボタンに触れる――直前、門の引き戸がカラカラと音を立てて開いた。
「な、何やってんのよ二人とも」
そこに現れたのは、裾にフリルがあしらわれた割烹着を身につけたショウだった。いかにもびっくりした、という顔つきで二人を見比べていたが、それはこちらも同じだ。
「いや、あの……ショウに、ちょっと用があって」
「昨日の今日でまた何か起こったの? 別に良いけど、手短にね」
見るとショウは箒とちり取りを手にしていた。塀のすぐ内側に生えている大木が落とす葉を掃除しに来たのだろう。