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「もしその人がノゾ君の体質を見抜いたのだとしたら、夜に出直したという理由が分かりません。朝だろうと夜だろうと、ノゾ君は死なないのですから」
ノゾミは殺人鬼に自分の素性が知られたと推測していたのだが、ミコトの話を聞いて、それもそうか、と思いなおす。
「なら、どうして……」
「可能性があるとしたら、その人はノゾ君でなく、僕の存在に気付いた、ということですかね」
「何でそう思う?」
「彼が快楽殺人鬼であり僕のことを知っていると仮定すると、彼はただ単にノゾ君を殺したかっただけで、夜の人気のない所でそれを実行しようとしたのだと考えられませんか?」
ノゾミは即座に頷いた。ミコトはそれを確認してから、ノゾミをさらに深い推考へと導いていく。
「ノゾ君の影に僕の存在を感じて、人通りの多い昼間は分が悪いと思ったのではないですか。僕は夜だと目立つので、僕と居合わせてもすぐに気付いて逃げられますから」
「ミコトに逢ったらまずいのか?」
「考えてみてください。ノゾ君を知らないのに僕を知っている人なんて、そういませんよ」
ノゾミのことは知らないが、ミコトのことを知っている人……? ノゾミは頭を回転させて、該当する人物を思考の中に探し求める。
そもそもミコトと繋がれる人がかなり限られているので、そちらを先に洗い出そうとした。
(ミコトが見えるのは、俺とショウと……)
他に誰がいただろう。自分たち二人くらいしか思いつかない。
(いや、ミコトがああ言うんだから、他にもいるはずだ)
ショウの他にもミコトが見える人。
ミコトと関係している人に共通することといえば。
ショウは精神を殺せる。では、それ以外のものを殺すのは――
「残りの三人……」
ミコトは静かに首を縦に振った。
「ショウ以外の誰かが、ノゾ君を襲ったのかもしれません」
「そんな……なんで」
自分で出した結果にも関わらず、ノゾミは動揺を隠せなかった。そういった存在の者たちは、ミコトやショウのように優しい人ばかりだと思っていたからだ。
「もしかしたら、僕が知らない間に心変わりしてしまったのかも……」
「心変わり?」
ノゾミが首を傾げるとミコトは、自分の知る限り三人の中に好んで人を殺すような者はいないと告げた。そして、長い間逢っていないため、誰かが何かをきっかけとして人格を変えてしまった可能性が高い、と付け加える。
「彼に刺された人は必ず命を落としているのですよね。何らかの理由でノゾ君を殺しそびれてしまったけど、諦めきれずにまた挑んできた、ということでしょう」
「ミコトを見て逃げたのは、古い知り合いに変わっちまった自分を見られたくなくなかったからか」
二人の言葉が噛み合って、一つの結論に辿り着く。
それはもはやパンの甘さも、テレビの音も感じられなくする程に、ノゾミの感覚の全てを支配していった。




