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「痛ッた……」
全身に走る鈍痛で、ノゾミはようやく覚醒した。同時にどすん、という大きな音がしたので、自らがソファから落ちたのだと気が付く。
「ノゾ君!? 大丈夫ですか」
反転した視界に、ミコトの不安げな顔が映り込んだ。
ソファはそれほど高さがないし、体の右側から落ちたのでギプスを巻いた左腕も無事だった。
「ああ……今、何時だ?」
「えっと、九時十分くらいです」
たっぷり二時間半ほど寝たということか。お陰で先程よりはすっきりとしている。体を起こして伸びをすると、全身を駆け巡る血が速度を増したような感じがした。
「~~っ、腹減ったな。ミコトも何か食べるだろ?」
「そう、ですね……」
てっきり賛成の言葉が返ってくると思ったのだが、ミコトはぎこちない様子で頷いた。
「腹減ってないのか?」
「いえ、僕にはおなかが空くとか空かないとかいう感覚は無いんです。僕が生きる為に、食事を取る必要はありませんから」
言われてみれば、世界中の命が消えるまで生き続ける体に栄養を取り入れても、意味の無いことに思われる。
だがそれはノゾミも同じな訳で。
「なら、俺もずっと食べなくても平気ってことか? 食べなかったら死ねる……?」
こんな時でも死ぬことを念頭に置いておくのは忘れなかった。
そんなノゾミを見て、ミコトは小さく溜息を漏らしてから重めの口調で語り出す。
「ノゾ君がものを食べないことでその体を朽ち果てさせることはできます。でも感覚が生きているので、死ぬほど辛い空腹感に襲われますよ」
「え……」
「それだけではありません。もし体が駄目になっても、他の三人が見つからない限りノゾ君は、体が無いために何も口にできず、永遠に飢餓と闘うことになります。それでも良いのですか」
予想以上に過酷な行く末を突きつけられ、軽率な発言は慎むべきだったと後悔する。そこまで言われては、この方法で死ぬことは今すぐに諦めざるを得ない。
「僕の体は腐ったりすることはありません。でもノゾ君は普通の人間の体です。ご飯はきちんと食べなくては、駄目ですよ」
にっこりとした笑顔で忠告を与えるミコトに、逆らえない何かを感じたのは言うまでもない。




