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2-13-1 おかえり

 思えば、二人並んで歩くのは初めてだった。ミコトは長い髪を揺らしながら、ノゾミの一歩後ろをついてくる。

「……」

「……」

(き、気まずい……)

 昼間は活気がある住宅街は夜が更けこんでいるせいで、すっかり黙り込んでしまった。

 ミコトはノゾミを追い越すことなく、その影に重なるように歩いている。


 ふと足元に目をやると、コンクリートの地面に映る影は一つしか見えなかった。ノゾミの足元からは、もう一人の黒い自分と互いに足の裏をくっつけたかのような影が伸びているのに、ミコトの足元には何も映っていない。街灯の明かりが、そのままミコトの体を突き抜けているみたいに。

 それは、二人がいる世界をすっぱりと隔てられているかのような錯覚をノゾミに与えた。


(ミコトが、遠くに感じる……)

 時々後ろを振り返らないと、ミコトがまたどこかに行ってしまうのではないかという不安が、ひっそりとノゾミの元へ訪れた。周りがあまりにも静かなので、足音が焼けに大きく聞こえる。それもやはり一人分だった。


「なぁ、ミコト」

「何ですか? ノゾ君」

「……いや、やっぱ何でもない」


 声をかけてしまったところで、自分がまだどんな話をしようか決めていなかったことに気が付いた。ただミコトがちゃんとついてきているか心配になっただけで、これといった用事はない。迷惑だっただろうか。

「僕に影ができないの、気になりますか?」

「……」

 ノゾミは否定も肯定もしなかった。気にならないと言ったら嘘になるが、これもミコトが人ではないことを証明している要素なのだと、認めていたから。


「実は僕にも分からないんです」

 ミコトがそう言って足を止めてしまったので、その姿はノゾミの視界に捉えきれなくなってしまう。ノゾミは振り返って、街灯の下に(たたず)むミコトを見やった。夜の中に立っているノゾミには、真っ白な姿が何だか眩しく感じられる。


「ただ、僕に影が無いのは、やはり僕が人ではないからだと思うんです」

 ミコトは自身の体を抱くように腕を回す。その仕草はミコトを安心させると同時に、ノゾミの胸をざわつかせた。

「夜が来る度に思うんです、僕はこの世界の異質な存在だと」

 その言葉を聞いた途端、ノゾミの体は勝手に動き出していた。


「! ノゾ、く……」

 ミコトの両腕を掴み、その体から引き剥がす。自分でも何をしているのかまだ理解が足りなかったが、何がしたいのかは把握していたようだ。

「ミコトは異質なんかじゃない。こうして俺には見えているし、触れることだってできる」

 ノゾミの手に、少しだけ力が籠もる。

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