2-12-3
「なんか、複雑な話だな」
「アンタがそんなに難しく考える必要はないわ。アタシ達は人じゃない。それだけよ」
あまりにも簡単な一言でまとめられてしまったが、それだけでは心許ないような、素っ気ないような。そんな気がした。
「ミコトは自分のこと、どう思ってるんだ?」
今まで沈黙を守っていたミコトに話を振ると、少し悩んだような素振りをみせてから徐に口を開いた。
「僕は、そうですね……この体は皆の命でできているので、とても大切にしていますし、誰にも気付いてもらえなくても、それが僕の運命ですから寂しいとも思いません」
ミコトはそこで一回区切ってから、小さく微笑んだ。
「それに、僕が人でないことを本当に憎いと思ったのは、一度しかありませんよ」
まさかミコトの口から〝憎い〟という言葉が出てくるとは思っていなかったので、ノゾミはつい息を呑んでしまった。穏やかで人懐こいミコトに憎いと言わせるような出来事が、気にならない訳ではない。だが、まだノゾミはそこまで踏み込むことができなかった。
「僕の話はこれくらいで。ノゾ君も、今日は疲れたのではないですか?」
「ぇ、ああ……そうだな」
思えば、今日はかなり濃い一日だった。ただでさえ昨日の疲れが溜まった体を酷使してきたのだ。明日はもっと酷くなっているかもしれないと思うと、今から明日が嫌になってくる。
「それじゃ、今日はもうお開きね」
ショウがパンと手を叩き、場の空気を切り替えた。それにハッとしたノゾミは、ここまで助けてくれたショウに伝えなければならないことがあったのを思い出した。
「ショウにも迷惑かけたな。色々と有り難う」
「ほんとよね。いつか借りは返してもらうから」
「あまり頼りにしない方が良いと思うけど、俺なんかに出来ることがあるなら……」
ノゾミでも力になれるような事があるとは思えなかったが、ショウに対しての恩を返すのは最低限の礼儀だろう。