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「アンタの事情は分かったわ。話してくれてありがと」
「あ、いや…別に…」
あんなにショウの反応に怯えていたのに、意外なほどあっさりとした返事に拍子抜けしてしまった。それどころか礼を言われるとは思っていなかったので、何を言おうと考える間もなく、意味をなさない声が出てしまった。
「ともあれ、アンタも少しは気持ちが楽になったんじゃない?」
「えっ」
今、何と言われた?
まるでショウがノゾミの身を案じていたかのような――
「アンタ、結構精神が参ってたんじゃないの?長いこと追い詰められて、生きていたくなくなって」
「そんなこと、ない……」
ショウがなぜそう言うのか理解できないままに、ノゾミは力なく首を横に振った。自分は望んでこうなった様なものなのだ。何をやっても意味が無いことに気付いた後は、自分が一番傷付かなくて済む方法を自然に身に付けていた。その結果がこれだ。
「アンタがいくら強がってもアタシにはお見通しよ」
「だから、強がってなんかない。精神が参ってたなんてこともないし、本当に生きているのが嫌なんだ」
つい強い口調で言ってしまったが、ショウは怯んだ様子も見せずに得意げに話す。
「アタシは精神を具現化した存在なのよ。心の機微くらい分かるわ」
「でもさっきまで、何か、機嫌悪そうだったじゃないか」
「まぁ、アンタがミコトにした事をそう簡単には認められないけど、やっぱり悩んでる人はほっとけないじゃない。そういうのって、誰かに話すとすっきりしない?」
それならばあんな分かりにくい真似をしなくても良かったのに、と思うと同時に、ノゾミはショウの不器用な優しさに、少しだけ肩の力が抜けたのを感じていた。
「それじゃあ、俺の精神、殺してくれるか?」
「ん~……今はまだその気じゃないかもしれないわね」
「かもしれないって、自分のことだろ」
精神を具現化、と言っておきながら、自分のことは分からないのか? と僅かに皮肉を込めたように言ってみせる。それは先程の意趣返しの意味もあった。
「あのね、精神、つまり心は常に一定のものじゃないのよ。先のことまでは分からないわ。いつも揺れ動いているんだし、アタシだってもしかしたら、明日にはアンタの精神を殺したくなっているかもしれない」
「……精神って面倒臭いんだな」
そんなふわふわしてつかみ所の無いようなものを誰しもが持っているのだと思うと、余計な気苦労をしたくないノゾミは、自身の精神でさえも所持しているのが煩わしく思えてしまう。あらゆることを諦めて以降、心を突き動かされることが無かったので、自分の精神とのつきあい方も分からなくなっていた。
「ノゾ君らしい考え方ですね」
横でミコトが小さく笑う気配がして、ノゾミはそちらの方に顔を向けた。




