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(ヘタレ、か……)
言い返す言葉もない。ノゾミはただひたすら、地面を眺め続けていた。
「ショウ、いくら何でも言い過ぎでは」
「良いんだ。ショウの言う通りだから。そもそも、五年前に親が離婚してあの人との縁は切れたはずなのに、俺がいつまでも怖がってるのが悪いんだ」
五年前のある日、母が父の行動に気付いてしまった。憤慨した母はすぐに父と別れ、元から父の愛の全てを注ぎ込まれていた弟はそちらに引き取られた。
「俺も弟と同じように接してもらいたくて、色々やったんだ。頑張ってテストで100点取ったり、家事を手伝ったり、とにかく良い子でいようとした」
まさかこんな事を、誰かに話す日が来ようとは。墓まで持っていくつもりだったのに、その墓にすら行けそうもないなんて。ノゾミは自嘲気味に笑って、自らの過去を曝け出していく。
「でも、どんなに努力しても、あの人を振り向かせることは出来なくて……気付いちゃったんだよな、何をやっても無駄だって」
ノゾミの声はだんだん暗くなっていく。軽蔑するかのような目つきで自らの影を眺め、口元には薄笑いを浮かべていた。
「そしたら何事にも興味が無くなって、全部諦めた。頑張ることも、人と関わることも……生きることも」
これが全てだ。
これが、ノゾミがこんなにも死にたいと思っている理由だった。
ノゾミはそっと顔を上げて、ショウの顔色を伺った。まだ理由としては足りないと言われたらどうしようかと、内心びくびくしながら。
「――なるほどねぇ」
ショウは大きく息をついてから、まだ何か考えている風に言った。
どんなに厳しい言葉が飛んできても耐えられるように、ノゾミは身を硬くしてその時に備える。




