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それはつまり、ショウを納得出来なければ、ノゾミはいつまで経っても死ねないということを意味していた。
「聞かせてくれる? アンタが死にたい理由を」
ショウはもう一度、念を押すように言った。
「お、俺は……」
話さなければならないと分かっているのに。それなのに、誰かに首を絞められているみたいに、思うように声が出せなかった。
「俺は……ッ」
出来れば話したくなかった。蘇らせるのも憚られるそうな記憶を。忌まわしき思い出を。ショウの視線に急かされて少しずつ引き出していく。
「昔、言われたんだ……お前は要らない子だって」
「誰に?」
「と……父親に」
危うく『父さん』と口走りそうになったのを、あの人はもう赤の他人なのだと気が付き、押さえ込んだ。
「俺が5歳くらいの時までは普通だったんだ。でも、小学校に上がる前、急に俺に対して当たりが強くなった」
「それで?」
「最初は厳しい事を言われる程度だった。それが、だんだん手を出すようになってきて……」
「乱暴されたのね」
ノゾミは静かに頷いたが、ショウはまだ許してくれなかった。
「その後は?」
「……それも、エスカレートしていって。しかも腹とか背中の、服の上から見えないところばかり殴ったり蹴ったりするんだ」
「でも、ノゾ君には弟さんがいますよね」
ミコトはノゾミの弟の身を案じているのだろうが、生憎と言うべきか、幸いと言うべきか。父は弟には一切手を出さなかったのだ。
「何でか知らないけど、いつもやられるのは俺だった。しかも、母さんも弟も居ない時にだけ」
共働きだったノゾミの家では、母の方が家に居ることが少なかった。基本的に家事は2人で分担していたのだが、どうしても父の担当が多くなってしまっていた。そのせいもあり、ノゾミは毎日のように父から暴力を受けていたのだ。それは精神と肉体を、徐々に蝕んでいった。
母に余計な心配をかけたくなかったし、なぜ弟だけが何もされていないのか分からなかったから、長いこと一人で抱え込んでいた。
「じゃあ、アンタが死にたいって思うようになった直接的な理由は、要らない子だっていわれたからなの?」
まだ聞くのか、とノゾミは内心ショウに対する怒りのようなものを覚えた。
可能であれば、もう勘弁してほしかった。これ以上過去のことを思い出すのは、苦でしかない。
「…………」
「――ノゾ君」
ミコトが心配そうにノゾミの顔を覗き込んでくるが、またしてもショウの言葉が二人の間に割って入る。
「ミコトは甘すぎるわ。アンタのせいで、ミコトは大切な能力を使い果たしたのよ。それも生きようとすらしていないヘタレのために」




