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2-11-3

 それはつまり、ショウを納得出来なければ、ノゾミはいつまで経っても死ねないということを意味していた。

「聞かせてくれる? アンタが死にたい理由(ワケ)を」

 ショウはもう一度、念を押すように言った。

「お、俺は……」


 話さなければならないと分かっているのに。それなのに、誰かに首を絞められているみたいに、思うように声が出せなかった。

「俺は……ッ」

 出来れば話したくなかった。蘇らせるのも憚られるそうな記憶を。忌まわしき思い出を。ショウの視線に急かされて少しずつ引き出していく。


「昔、言われたんだ……お前は要らない子だって」

「誰に?」

「と……父親に」

 危うく『父さん』と口走りそうになったのを、あの人はもう赤の他人なのだと気が付き、押さえ込んだ。


「俺が5歳くらいの時までは普通だったんだ。でも、小学校に上がる前、急に俺に対して当たりが強くなった」

「それで?」

「最初は厳しい事を言われる程度だった。それが、だんだん手を出すようになってきて……」

「乱暴されたのね」


 ノゾミは静かに頷いたが、ショウはまだ許してくれなかった。

「その後は?」

「……それも、エスカレートしていって。しかも腹とか背中の、服の上から見えないところばかり殴ったり蹴ったりするんだ」

「でも、ノゾ君には弟さんがいますよね」


 ミコトはノゾミの弟の身を案じているのだろうが、生憎と言うべきか、幸いと言うべきか。父は弟には一切手を出さなかったのだ。

「何でか知らないけど、いつもやられるのは俺だった。しかも、母さんも弟も居ない時にだけ」


 共働きだったノゾミの家では、母の方が家に居ることが少なかった。基本的に家事は2人で分担していたのだが、どうしても父の担当が多くなってしまっていた。そのせいもあり、ノゾミは毎日のように父から暴力を受けていたのだ。それは精神と肉体を、徐々に(むしば)んでいった。

  母に余計な心配をかけたくなかったし、なぜ弟だけが何もされていないのか分からなかったから、長いこと一人で抱え込んでいた。


「じゃあ、アンタが死にたいって思うようになった直接的な理由は、要らない子だっていわれたからなの?」

 まだ聞くのか、とノゾミは内心ショウに対する怒りのようなものを覚えた。

 可能であれば、もう勘弁してほしかった。これ以上過去のことを思い出すのは、苦でしかない。


「…………」

「――ノゾ君」

 ミコトが心配そうにノゾミの顔を覗き込んでくるが、またしてもショウの言葉が二人の間に割って入る。


「ミコトは甘すぎるわ。アンタのせいで、ミコトは大切な能力を使い果たしたのよ。それも生きようとすらしていないヘタレのために」

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