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2-10-5

「な、何が…起こって……?」

 状況が理解できないノゾミは、仰向けになった体を起こそうとしたが、思ったように動かないことに気が付いた。

「なんか、重い……」


 なんとか上半身を起こしてみると、白くてさらさらとした長いものが、地面に幾つもの線を描いた。

「?」

 髪の毛だと認識するには、そう時間はかからなかった。量が多くて、とても長い。この髪の持ち主は、一人しか思い当たらなかった。


「……ミコト?」

 覆い被さっている少女は、ノゾミの胸に顔を埋めていているせいでその素顔が伺えない。ノゾミが身じろぎをする度に、体にかかった白い髪が月の光を浴びてきらきらと輝く。

 それに気を取られていると、頭上から男の舌打ちが聞こえてきた。


「お前、今日は見逃してやるよ」

 そう言うと、再び夜の闇に紛れてどこかに走り去ってしまう。

「……たす、かった…のか?」


 しばらく呆然としていると、ショウが下駄の音を鳴らしながらこちらに駆け寄ってきた。

「ちょっと、二人とも大丈夫?」

「ふたり……?」

 もう、どこから話を進めていいのやら。絡まっていく思考に抗うことを諦めようとした時、ノゾミの上の少女が勢いよく顔を上げた。


「ノゾ君のバカッ! どうして逃げなかったんですか。もっと自分の体を大切にして下さい!」

 青い瞳を潤ませて叫ぶ姿は、紛れもなくミコトだった。

 その眼でノゾミの相貌(そうぼう)を見据えられ、何を考えるよりも先に手が動いていた。

「ごめん!」

 ミコトの背中に腕を回し、ぎゅっとその体を引き寄せる。


「ノ、ノゾく……」

 ショウに言われてからあれこれ考えていた。道を歩いている時、バスに乗っている時、土手に寝転んでいた時。何が正解で、何と言って謝ればよいのか。必死に頭を絞っても出てこなかったのに、いざミコトを目の前にすると、それはどんどん溢れていった。


「追い出すつもりはなかったんだ。ミコトが気に病んでるみたいだったから、俺のことなんかそんなに気にするなって思って。でも、俺には励まし方とか分かんないんだ。だから……ミコトから、逃げてたんだ。ごめん」

「そ、そんな……僕の方だって勝手にいなくなって、ノゾ君にたくさん迷惑かけました。ごめんなさい」

「お前がいなくなったのは俺のせいだろ」

「……確かに、あの時は少しショックでしたけど、元はといえば僕がノゾ君を助けてしまったせいで――」

「ッ、だから!」


 なかなか進展しない会話に苛立ちを抑えきれなくなって、思わず声を荒らげてしまった。完全に自分が悪いと思っていたノゾミにとって、それを否定されると調子が狂うのだ。

 だがすぐに思い直して、冷静さを取り戻そうと深呼吸をする。


「ごめん、大声出して……ミコトは悪くないし、それに、俺を殺すの手伝ってくれるんだろ?」

「もちろんです」

「ならそれで良い。ミコトにもらった命だ。ミコトの手で終わらせてくれ」

すると少女は泣き笑いの表情で、力強く頷いた。


「――――はいっ」


 ノゾミが腕に力を込めると、ミコトもその背中に細い腕を回して、そっと撫でるように触れてくる。

 首元に温かい雫が落ちるのを感じながら、ノゾミはミコトの方から離れていくまで、彼女の背中を抱きしめていた。

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