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「死ねェエェエエエ!!」
ナイフがノゾミの喉を掻き切ろうとする。
「――ッ!」
寸前で躱すが、刃先がノゾミの頬を掠め、その軌道は赤い筋となって肌に残る。血が頬を伝い、汗と混ざって顎の先から滴り落ちた。
「何避けてんだよ。死にてェんだろ」
(ほんとだ。何で俺、避けたんだ……)
痛いのは嫌だから? 苦しいのが怖いから?
死ねないという自覚が足りない今、刺されてみる価値はあるのではないだろうか。
(……次は避けない)
覚悟を決めて体勢を整えたノゾミは、息を大きく吸ってから、ゆっくりと吐き出した。すると脳内がクリアになって、この状況をすとんと飲み込めるようになった。
(俺はここで刺される。そんで、本当に死なないのかどうかを確かめる)
死ねたら本望だが、もし死ななかったら……
なんてことは、あえて考えなかった。
「次は逃げんなよォ」
彼もナイフを握り直し、今度こそ仕留める、といった形相でノゾミを睨みつける。
(これでいいんだ、俺はここで――)
ショウが何か叫んでいるが、それはどこか遠くから聞こえてくるように思えた。
男が刃先を向けた先にはノゾミの心臓がある。
まるでミコトを殺す時のようだった。もしかしたら、こうなる運命だったのかもしれない。
「そんじゃ、逝ってらっしゃァい」
ナイフがノゾミの左胸をめがけて、勢いよく振り下ろされる。
ノゾミは目を固く閉じ、これから来るであろう衝撃に耐えるべく全身に力を込めた。
「お前を殺せて、良かッたぜ!!」
「……っ」
だが衝撃は、別のところからやって来た。
「ノゾ君!」
白いものに視界を覆われたかと思うと、何かに突き飛ばされて、ノゾミは腰から地面に倒れ込んでしまった。




