1-1-5
「それでは、今日の面会時間はこれまでとなりますので、お母様はまたお越し下さい」
「はい、有難う御座いました」
母は深々とお辞儀をしてからノゾミに言った。
「それじゃ、また明日来るからね。取り敢えず、ノゾミが助かって良かったわ」
そして看護師に案内され集中治療室を出て行った。
(助かって良かった、か……)
本当は助かりたくなかった、なんて母には口が裂けても言えない。
これから大変だと思うけど頑張っていこうね、と医者が言っているが、ノゾミに頑張る気などさらさら無い。
席を立つ医者の後ろ姿を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「本当は、死にたかったのに……」
事故に遭ったのは全くの偶然だ。
生きる意味を求めていた少年は、生きる気力も死ぬ勇気も無いままに、何かを捜すかのように、深夜の街に身を委ねていたのだ。
(俺、何でまだ生きてるんだろ)
そういえば目が覚める前、妙な夢を見た。少女を殺す夢だ。いや、正確には殺せたのか分からない。ナイフを押し込んだ瞬間目が覚めた為、少女が本当に死んだのかどうかは不明だ。
だが、あれはとても夢とは思えない程リアルだった。ナイフを握った時のグリップの感触や少女のひんやりとした手の柔らかさ。全てが本当に触っているかのようで、未だにその感覚が肌に残っている。
それに、普段の自分では口にはしないような事を言っていた。殺してやるよ、とかお前を殺せて良かった、とか。夢の中とはいえあんなに積極的に人を殺すなんて、未だに信じられない。
もしかしたら自分が死ぬことを望んでいたのではなく、他人を殺すことを望んでいたのかもしれない。
自分は、どうかしてしまったのだろうか。
あの少女に逢えれば、何か分かるのだろうか。
また夢を見れば彼女に逢えるだろうか。あの不思議な少女に。
彼女の真っ白な髪とワンピースが、闇に包まれた空間の中で一際目立っていたのを憶えている。まるで、何かの目印のようだった。
次々と想いが湧き上がってくる中、まだ貧血が治っていないらしく、さっきから眠くて堪らない。
ノゾミはゆっくりと瞼を下ろし、襲ってくる睡魔を受け入れた。