2-10-1 再び
ノゾミが覚醒したのは、ズボンのポケットに入れていた携帯電話が震えた頃。それを引っ張り出して見ると、一件のメールが届いていた。母からだ。
本文は『晩ご飯たべたの?』という一言だけだった。
「もう、そんな時間か」
辺りはもう薄暗くなっていて、そろそろ月が太陽と出番を入れ替える時間だ。ノゾミはゆっくりと起き上がると、携帯電話を元の場所に戻して階段を登り始めた。
「今日は大人しく帰るかな」
来た道を引き返し、大通りへと出てからバス停を探す。例の現場は報道陣が押し寄せていて、フラッシュをたくカメラや、現場を照らすライトのせいでそこだけ真昼のように明るい。
バス停に着いてから試しに携帯電話で『通り魔事件』と検索をかけると、やはりトップにこの図書館前での一件が表示された。
(ま、それもそうだよな)
早速ニュースになっていたので読んでみると、死者は15人で病院に運ばれた者も全員が命を落としたと書かれていた。そして、『犯人は未だ逃亡中』とも。
(まだ捕まってないんだ)
白昼堂々の犯行であったにも関わらず、足取りすら掴めていないのだそうだ。
反対車線にたむろする報道陣の背中を見つめ、大変そうだなぁ、と他人事のように考える。するとバスがやって来て視界を遮られてしまった。
別に野次馬をしたかった訳でもないので、急いでそれに乗り込んだ。
「もうちょっと、色んな場所を当たるつもりだったけどな……」
すっかり日が暮れて夜に包み込まれた街を、ノゾミは一人で歩いている。バスを降りた時近くにあったファストフード店で食事を済ませて、それを今日の母への報告とした。
元からほとんど無計画で動いていたので、足を運ぶ所が少なくなってしまったのは致し方ないが、心に何かが引っかかるような感じがしている。
怠惰な自分を後悔しているのだと気付くには、もう少し時間がかかりそうだった。
大人しく帰ると決めていたのに、ぼんやりと歩いていたらまたあの公園にたどり着いてしまった。
「俺も懲りないな」
また注意されたら言い逃れは出来ない。それでも、ここに何かを感じたのか、ノゾミは公園の中に入っていく。
ベンチにでも座っていようと思ったのだが、そこには思わぬ先客がいた。
「あら、奇遇ねぇ。二日連続でアンタと逢うなんて」




