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ノゾミは踵を返すと、ミコトを探すべく書架を回り始めた。
専門書はさすがにミコトには難しすぎるだろうと思ったが、一応見ておいた。
予想通り、そこにミコトの姿はなかったが。
新聞ならこの世界の最新の情報が得られるので、もしノゾミがミコトの立場なら重宝するのだが、各社の新聞が置いてあるスペースにも彼女はいなかった。
(やっぱり、図書館にはいないのかな)
勝手に期待をしていたのはノゾミの方だが、もうここに居ても時間の無駄だという気持ちと、まだ諦めたくないという気持ちが混在して帰るに帰れない。どちらに従うべきかも分からないまま、ノゾミはただ館内をふらついていた。
医学、歴史、宗教、数学、物理、生物、化学。どの専門書もノゾミの興味を引かなかった。ここには合計で何万、何億、もしかしたら何兆もの文字が数多の本に収められている。それでも、ノゾミの、この名状しがたい感情を形容する言葉はどこにもないのだろう。
環境に関する本が並ぶ書棚の角を曲がろうとした時、ひらひらとした赤いものがノゾミの眼に入った。
(あれ、ミコトのワンピース!?)
書棚の奥に入っていったそれを追いかけ、彼女の肩に手をかける。
「ミコトッ」
少女が振り返る。
「あ……」
振り返った少女は茶髪のショートヘアで、着ている服こそミコトに似ていたが、容姿は全く違った。
「すみません、人違いでした……」
すると少女は軽く会釈をして、彼女の友人と思しき人の元へ小走りに駆けて行った。
ノゾミは半ば落胆し、これを機に図書館の捜索は諦めることにした。
(そうだよな、こんなにあっさり見つかる訳ないよな)
出口へ向かうために階段を下りるが、やはり足が痛くて一歩目で膝がかくんと折れそうになってしまった。手すりに縋り付いてそれに耐え、心まで折れそうになるのを手に力を込めることで防いだ。
(もう、ミコトとは逢えないのか……?)
そうなれば一人で、どこにいるとも知れない人達を探さなければならない。最終的に死ねるのは、一体いつになるのだろうか。
「はぁー……」
重い溜息は、館内まで響くサイレンの音にかき消されてしまった。




