表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/168

2-9-4

 結局ここにもミコトはおらず、ノゾミは上の階へと向かうことにした。二階には広い閲覧席が設けてあるほか、歴史書や医学書などの専門性の高いものから、雑誌や新聞まで取り揃えてある。

 筋肉痛の足で階段を登るのはかなり身にこたえたが、この痛みを乗り越えないことには始まらない。右手で手すりを掴み、手繰り寄せるようにして階段を登っていく。


(ッ、結構響くな)

 痛みを噛み殺して到着した二階には、一階よりも人がたくさんいた。平日とはいえ夏休みの時期のせいか、学生の姿が多く見える。

 窓側の席は学生優先で勉強ができるようになっているのだが、そこにいたであろう人達はみな奥の方で怯えていた。それもそのはず、窓は道路の方を向いていたのだ。あのおぞましい光景を見て、平然としていられる筈もない。ノゾミを除いては。


 啜り泣いている女の子もいたが、無理もないだろう。

 ひそひそと話ながら高みの見物をしている大人達に紛れて、ノゾミも窓の下を覗いてみた。その様子を俯瞰(ふかん)してみると事態の重大さが明らかになる。外や一階にいた時は気が付かなかったが、被害者の数はかなり多い。


 交差点の曲がり角から図書館までの約30メートルの道路には、十人程の遺体が転がっていて、それぞれにブルーシートがかかっていた。病院に運ばれた者も何人かいるようだったから、被害者はこれより多いはずだ。

 こうして見ると、もの凄い現場に居合わせたのだなと実感する。

(そういや、なんであの人は俺を刺さなかったんだ?)


 あそこまで犯人と接近したにも関わらず、ノゾミを殺さなかった犯人のことがふと心に引っ掛かった。

 目的は分からないが、より多くの人を殺したかったのならノゾミもその場で切り裂いてしまえばよかったのに。それだけではなく、男は不可解な呟きをノゾミの耳に残していった。まるで何かに得心したかのような――――


「ぁ、まさか……」


 ――――自分が死なない体質だと気付かれた……?


(って、そんな訳あるかよ。俺だってこの体の事まだよく分からないんだし、あんな奴とミコトに接点があるはずないし)

 ノゾミは考えすぎだと自分に言い聞かせることで、この胸の違和感をどうにか封じ込めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ