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2-9-3

 まずは小説本のコーナーを回ることにした。ミコトが初めて文字を尋ねてきた時、ノゾミは小説を読んでいたから。

 とは言っても、そのコーナーだけで本棚が何列にも並んでおり、ここを何往復もするのかと思うとそれだけで溜息が出てしまう。実際、何度も溜息をつきながら本棚の間を一列一列巡っていく。


 周りがそれなりに騒がしいので少しくらい声を出しても平気だろうと、ノゾミはそっと彼女の名前を呼んだ。

「ミコト、居ないのか?」

 それに返答は無く、ノゾミの声は辺りの空気に吸収される。


 その後もぐるぐると小説本コーナーを回るが、人っ子ひとりいない空間にこれ以上何を求めても無駄だろうと思い、場所を変えることにした。

 次に向かったのは辞書のコーナー。何かを学ぶならまず辞書を使うだろうと踏んでいたのだが、そこにも誰もいなかった。こんな状況の中で呑気に本を選んぶような行動をしているのはノゾミくらいだ。


 やはりミコトもいなかったが、そもそも辞書を構成している文字を知らないのだから、小説だろうと辞書だろうと大差ないのかもしれない。

「じゃあこっち?」

 ノゾミがひょいと顔を覗かせたのは、児童文学や絵本のコーナー。明らかにノゾミが来る場所ではないが、ちらほらと子供を抱っこしたりその手を握ったりしている母親がいるのを見て、高校生が一人入ったくらい誰も気に留めないだろうとそこに足を踏み入れた。


 ノゾミだったら、文字を学ぶならまずは簡単な読み物から始める。恐らくミコトも同じように考えると思ったのだが。

 ここは道路に面しているせいでサイレンの音がガンガンと頭に響いてくる。窓の外を伺ってみると、そこから覗く外の光景は未だ凄惨としていて、幾つもの死体にブルーシートが被せられていた。それと館内の様子を見比べて、ノゾミは自分に何かが足りないことに気が付いた。


(何で俺、こんなに落ち着いてるんだろう)

 ただ単に周りが焦っているから自分が落ち着いてきた、というだけではない気がする。もっと、圧倒的にノゾミに欠如している何か――――


(あぁ、興味が無くなったのか)

 自分の身に迫る危機が過ぎ去った途端、どうでも良くなってしまったのだろう。だとしたら、我ながら随分脳天気なものだと思えてくる。いや、脳天気というだけでは片付けられない。情が無いと言われても仕方ないだろう。


 だがノゾミはそんな自分と何年も付き合ってきたのだから、今更それに気付いたところで自分を変える理由にはならなかった。


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