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洗濯物を干し終えると、速やかに外に出る準備を始めた。といっても、余計な荷物を増やしたくないので小銭と家の鍵、それに携帯電話をズボンのポケットに突っ込むだけだった。
まだ部屋の中で涼んでいたいと駄々をこねる体に鞭打って、ノゾミは力の入らない足で目的地へと急いだ。
図書館まではバスで二十分程かかる。近いとは言えないが、さほど遠くもない距離だ。
大通りに出てバス停を見つけると、そこに丁度バスが止まっているのを見つけた。だが生憎にもそこまでの道のりは赤信号に阻まれていて、結局それは見送ることになってしまった。
(あーあ、ついてないな)
こんな些細なことにもやる気が削がれてしまいそうになるが、ノゾミはなんとか気を張ってバス停へと向かう。
幸いにも屋根がついており、次のバスが来るまでの十五分はしのげそうだった。
(十五分か、微妙だな)
こうして何かを待っている時間は苦手だ。特に意味も無く時刻表を眺めたり、過ぎ去る車のナンバーを目で追いかけてみたりしたが、一向にバスはやって来ない。
何かに気が急いているのは感じていたが、早くバスに乗って涼みたいのか、早くミコトを探しに行きたいのか。はたまた早く探し終えて家に帰りたいのか。一体何に焦っているのかは自分でも分からなかった。もしかしたら早く死にたいと思っているだけなのかもしれないが。
あまりに行き交う車のスピードが早いので、車道に飛び出してみたらどうなるのだろうと考えたりもした。本当に死なない体になっているのか、確かめてみたい気持ちが芽生えていたから。だが、もしこれで死ねたとしても、痛いのはごめんだった。
(やっぱり俺は臆病なんだな)
確かめるように自身の心の中で呟くが、それは確かめるまでもなく事実だ。
不甲斐ないことを言い訳に、色々なことから逃げてきた。
だからこうして、自ら行動していることがまるで自分の意思ではないような気がする。
そんなことを考えている内に、とうとうバスがやって来た。
 




